第113話:風向きが
『私、先輩に聞いたけど、あの動画フェイクだって』
『私も聞いた。冤罪だって』
「ほら見て! 一年生の間でアクヤくんの冤罪の可能性が議論されてる!」
SNSでコメントが出回っているのだろう。どうにも影響力の強い一年の生徒が俺の暴行事件の冤罪を疑っているらしい。一年生に俺が何かしたか? 別段関係したこともないはずだがどこでズレているんだ?
『先輩いい人だよ』
『わかる。ちょっとクールだよね』
「っていうわけでぇ。アクヤくん何かした?」
「心当たりはないな」
本気で無い。あっても憶えていないだろうし。
「一年生の間では冤罪説が広がっているみたい。逆に二年生は……」
チラリと教室を見渡す。俺に怯えているクラスメイト多数。
「ま、いいか」
別に無理して俺が釈明する理由も無いし。
「アクヤくんはそういうところがですね」
「アクヤ。あーしがビシッと言おうか?」
「時が来てくれればそうしてくれ」
そうして授業を受けて、そのまま昼休み。カホルが六組に顔を出した。
「ホムラ。一緒に食事しませんか?」
「あたしはいいよー」
「九王くんも一緒しません?」
構わんが。人公と一緒じゃなくていいのか?
「ああ、今のアルシはウザいですので」
「南無三宝」
人公アルシに栄光あれ。そうして学食に向かう。
「っていうか、ウチの学食色々あるよなー」
「ですね。唐揚げ定食かな」
「あたしはキーマカレー」
「俺は鶏白湯ラーメンでも食べるか」
マジで何でもあるな。この学食。
「ところで九王くんは困っていませんか?」
「困っていないわけじゃないが」
おそらくカホルが俺を誘いだしたのもそこに起因するのだろう。人気者の花崎カホルと一緒にいれば、つまりカホルの信頼を勝ち取るだけの理論的根拠が……みたいな?
「あ、九王先輩! この前はありがとうございました」
そうして鶏白湯ラーメンを食っていると、学食を利用していた一年生の生徒が俺に声をかけてくる。
「ん?」
「図書室でのことです。助かりました」
ああ、あれ。顔までは覚えてないので、なんとなく話の流れで察する。
「私は先輩のことを信じていますからね?」
「それは……ありがとうと言えばいいのか?」
「ちゃんと九王先輩が正しいって信じてますから」
「ありがとな」
ではなー、とヒラヒラ手を振る。肉豆腐定食をトレイに乗せて、そうして一年生は去っていった。
「九王くん?」
カホルの背中に修羅が見える。
「何かしたか?」
「一年生にコナをかけたんですか」
冤罪だ。たんに高い位置にあった本を取ってやっただけ。
「九王くんはイケメンですからそういうことはしない方がいいんです」
「わかっちゃいるが」
正確に分かっているとも言い難いが。
「アクヤくん。一年生にも手を出すの?」
出さないから安心しなさい。
「でもアクヤくん」
俺はズゾーとラーメンをすする。
「あ、九王先輩!」
今度は別の女子生徒が声をかけてきた。なんだなんだ? 千客万来か?
「九王先輩。この前は助かりました。ノートを運んでくださって」
「ああ、気にするな」
「先輩の冤罪を晴らせるように努力します。ですから九王先輩も負けないでください」
「特に気にしてないから心配するな」
それだけはガチ。
「ちょっと。危ないって九王先輩は」
で、一緒に食事をトレイに乗せている女子生徒の友人が俺に戦慄してオドオドしていた。
「大丈夫だって。先輩とっても優しいんだよ?」
「でも……」
友人が疑惑を招いているらしい。
「それにあの動画根拠ないでしょ? 先輩を陥れるためじゃないかなー」
まぁそこら辺が妥当かね。
「だから私は先輩応援しますから。負けないでください」
「あー、はいはい。尽力してくれることには感謝するよ」
「えへー。それではー」
オムライスをお盆に乗せて、後輩は去っていった。
「むー」
「うー」
で、案の定というか。カホルとホムラが不機嫌そう。
「だからそんなこと言われても、俺に出来ることがねーだろうが」
「九王くんモテるからなー」
「球技大会でも優勝していたし」
「学年一位だしなー」
「期末は同点一位だったろ」
俺とカホルがお互い同点のケアレスミスをして一律一位だった。
「っていうかイケメンでスポーツマンで勉強できるってどういうこと?」
「プロテインのおかげだな」
「またそういうことを」
「アクヤくんってそういうところあるよねー」
だからどうしたと言えればいいが。
「カホル! ホムラ!」
で、鶏白湯ラーメンを食べていると。人公アルシが大声で介入してきた。なんだなんだ?
「そんな危険人物に近づくなって言ったろ!」
「危なくないので。問題ないよ?」
「だねー。そもそも根拠ないし」
「動画にしっかり残っているだろ!」
「別に気にする気も無いし」
「人公さんには関係ない話じゃない?」
「ボクの言うことがきけないっていうのか!?」
「ええ」
「だぞー」
「九王! ボクのカホルとホムラに近づくな!」
まぁ確かに寝取り的には近づかない方がいいんだが。
「断る」
あっさりと言葉は出た。俺が何を言っているのか。俺が一番理解していないかもしれない。でもいいのだ。ホムラに土下座を強要させる人間に、ヒロインは渡せない。そんなクズがヒロインを苦しめるなら、俺が幸せにする。憎悪で人公は俺を見ていた。俺がヒロインを渡さないと言ったことが許しがたいことだろう。まさに知ったこっちゃないんだが。




