第112話:罪業の人
【人公アルシ視点】
「……よし」
そうしてボクは策略が上手く行ったことを喜んでいた。AI作成で九王の暴行事件の動画を捏造して、それをメモリに封入してパソコン室に放置。思ったより劇的に生徒たちは食いついた。あまりにリアルに人を殴る九王の動画はインパクト大だったらしい。誰もが九王を恐れた。自分が殴られたらどうしよう。そう思ったのだろう。アレが捏造だと知っているのはボクだけだ。メモリにも指紋は残していないし、そもそも学内の問題に警察は出張らない。後は九王が最低な男だと噂が広まればそれでいい。
「これでホムラも目を覚ますだろ」
あの貧乳女。ボクに土下座しなかったことを後悔しているだろうな。なにせ自分を救ってくれたと思っていた九王が最低のド外道だったわけだから。ショックを受けて、ボクの言うことが正しくて、九王から離れるだろう。ま? ボクも優しいし? ちゃんとホムラが謝れば許してやらないこともないけど?
「九王ってやっぱ不良なのかな?」
「あの動画はヤバいわ」
「退学もあり得るな」
だよな。あんな危ない奴、学校にいる方がおかしいんだよ。さっさと退学にしてやれ。教師陣だって危ないと思ってるんだろ? 生徒指導室に呼び出されたわけだし。少なくとも停学くらいにはなるだろう。ざまぁ。マジざまぁ。九王。プププ。ボクのホムラに手を出すからこうなるんだよ。
『マジ有り得ないよなー。九王って』
SNSでのコメント。何食わぬ顔でボクも九王の罪状を煽るコメントをする。同意の声が返ってきた。もはやアイツに味方はいない。カホルもコヲリも九王を嫌悪しているだろう。ああ、それよりも小比類巻さんだって見限っている可能性あるな。さすがにあそこまでショッキングな映像だと、味方になるのも難しいだろう。そうしてニヤニヤしながら授業を受けていると放課後になった。ちょっとホムラの顔を見に行くか。信じた人間に裏切られた悲壮な顔をな。そう思って六組へと歩いていると、ホームルームが終わったのだろう六組から望んだ顔が出て来た。
「アクヤくん! 早く帰ろ!」
「アクヤ。あーしとデートしよ?」
そこには一切の信頼を損ねていないホムラと小比類巻さんと、それから彼女らとイチャイチャしている九王がいた。
「アクヤくん。21の件だけどさー」
「その話を学校でするな」
21? にぃいちってなんだ? ホムラと九王は何の話をしている。
「ホムラ!」
ちょっと焦って、大声が出た。
「うげ」
で、肥溜にでも足をツッコんだような声がホムラから出た。ボクを嫌っているにしても、もうちょっとリアクションがあるだろ?
「わかっただろ? ソイツは人を殴る最低の人間だ」
「ああ、あたしは信じてないから」
「あんな証拠があるのに?」
「っていうか。話しかけないで? 人公さん? 絶交中でしょ? それでさー。アクヤくん。この後のことだけどー」
九王にシナを作って機嫌を取るビッチめいたホムラをボクは見つめることになった。
「そんな最低男に何で同情するんだよ!」
「最低じゃないからかな?」
「もう全員知ってる。ソイツは暴行犯だ」
「アクヤくんは冤罪だって言ってるもん♡」
この……バカ女ぁぁぁ!
「謝る気はないのか?」
「なんで胸が小さいと謝罪に対象になるの?」
「ボクを騙していたんだぞ!」
「じゃ、一生許さなくていいから。ねぇアクヤくん。21だけどぉ……」
「だからその話をだな……」
結局ホムラは九王とイチャイチャしながら帰っていった。イライラして鬱憤の晴らし方を探していると、コヲリに出会った。
「コヲリ!」
「……アルシくん」
「聞いてくれ。ホムラがまだ九王に騙されてんだよ。姉のお前からもビシッと言ってやってくれ」
「……ええと。……何をですか?」
「だから九王に近づくなって。あとボクに謝罪するようにって」
「……お断りします」
「な、なんでだよ?」
「……九王さんの噂には根拠がありませんし。……ホムラも謝ることをしていませんし」
「しただろ? 嘘ついていたんだぞ? おかげでボクが傷ついた」
「…………」
コヲリの目には呆れが浮かんでいた。なんだよ? そんなにおかしなこと言ってるか?
「……まずソースを出しなさい。……本当にアレは九王くんなんですか?」
「だって動画にはっきり映ってるんだぞ? アイツ以外の誰だよ?」
「……どこの誰が流した動画ですか?」
「それは……教師が調べるだろ」
「……では九王さんを責めるのはそれからですね。……冤罪の可能性があるのに私は一方的に九王さんを責める気にはなれません」
「でもあいつは危険人物で」
「……それこそソースを出してください」
「じゃあコヲリは九王を信じているってことか?」
「……というより、……一方的に毛嫌いする理由もないだけですけどね」
「そもそも信用ならないだろ?」
「何を根拠に?」
「だって髪染めてるし。赤点の常連だし。チャラ男じゃん」
「……今は学年一位ですけどね」
「金で買ったに決まってんじゃん。きっと教師から答案を買ったんだよ」
「……本気で言ってます?」
「きっと教師も脅してんだよ。悪い奴だよな。あの男……」
「…………」
「あ、今日は一緒に帰ろうぜ。コンビニにでも寄ってさ」
「……お断り申し上げます」
「付き合い悪いぞ。コヲリ。ボクたち幼馴染だろ?」
「……限度があります」
限度? 限度ってなんだ?
「……早めにホムラちゃんに謝ることですね。……まぁ手遅れだとは思いますが」
「なんでだよ。謝るのはアイツの方だろ?」
「……ええ、……そう思っていてください」
「なぁ一緒に……」
「……いえ、……バイトがありますので」
「どこで働いてるんだ?」
「……黙秘権を行使します」
「そんなにボクを弾きたいのか?」
「……偏に言って」
「とにかくホムラには説教しておけよ?」
「……気が向きましたら」
「コヲリ」
「……まだ何か?」
「今度デートしねぇ?」
「……忙しいので」
そうしてコヲリは去っていった。ボクを振り向きもしない。何とも思っていない様だった。ボクは気持ち悪くなって、少しだけふらつく。何か。致命的な何かを間違えているような気がする。ボクの思い通りに行っていないような。でもそれが何かは分からなくて。
「こういう時はSNSで」
『九王ヤバいよなー』
『さすがに言い訳できないぞ』
『ちょっとアレはなー』
そうだよ。これだよ。アイツの自業自得で破滅する感覚がボクの脳内に麻薬を分泌する。ああ、九王が貶められるのって心地いいんだよなー。まさに笑いが止まらねぇ。
『でも本当にあの動画本物?』
ポツリと呟く声。ピクリとこめかみがひくついた。バカどもはボクの扇動に乗せられて踊っていればいいんだよ。九王を破滅させるまで踊らされてればいいんだよ。




