第111話:不吉な男
「くあ……」
昼休み。マキノと学食で飯を食って、久方ぶりに一人で行動。俺としてはどうでもいいのだが、俺の悪評は広がっている。既に凶悪な暴行事件の犯人扱いされているらしい。心底どうでもいい。
「元々異名が悪役王だしなぁ」
で、一人図書室に来ていた。科学雑誌でも読もうかと思ったんだが。
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
図書室でも恐怖を振りまいてしまったらしい。俺に怯える目が突き刺さった。金髪がいけないのか? はっきりと校則違反ではないのだが、まぁそこはエロゲーの学園だから。今更傷付く心も無いし。適当に雑誌を探して、そのまま本棚に。
「んー。しょ」
背のちっこい女子生徒が棚の高いところにある本を取ろうとしていた。手が届かないらしい。たしかに高校生にしては背が低いが。
「取ってやろうか?」
「ふぇ? それは有難いですけど……ひっ!」
善意で申し出たんだが、その俺を見て、女子生徒は引いた。うーん。ちょっと傷心。
「い、い、いいです! 別に読みたくありませんし!」
背伸びした状態で慌てたからか。バランスを崩す女子生徒。俺をそれをとっさに受け止める。必然的にお姫様ごっこ。女の子が羽より軽いって本当だな。大げさな言い方になるが。
「大丈夫か!」
「あ、あ、あ、その……」
そうして俺がお姫様抱っこしていると、女子生徒は真っ赤になっていた。よほど俺が恐ろしいと見える。
「怪我がないなら……あー、悪い。俺に抱かれるのも怖いよな」
暴行事件の当事者だし。彼女を下ろして、後頭部を掻いて誤魔化し、何も言わずに去ろうとして。
「あ、ありがとう……ございます……」
その俺の背中に、女子生徒が声をかける。
「ん? あぁ。気にすんな。恐がらせてゴメンな」
「いえ、その、助けてもらったのは、こっちですから……」
「本を取りたい時は脚立を使え」
「使ったら負けだと思ってます……」
どうやら背が低いのがコンプレックスらしい。可愛らしいとは思うが笑うのも失礼だろう。俺は苦笑した。
「あの……先輩の……暴行事件がSNSで……」
「ああ、出回ってるな」
「本当なんですか?」
「いんや? 冤罪。釈明する気はないがな」
相手が何考えているか知らないが、こっちから頭を下げるのもしゃくだ。
「わ、わかりました……」
何がわかったんだろう? そうして科学雑誌を見つけて読み込む。最近の宇宙は物騒だ。何かのはずみで宇宙ごと破滅する可能性もゼロではないらしい。そういうことが書かれていた。難しい話はよく分からんが宇宙ってやっぱすごいわ。今月の科学雑誌は貸借不可能なので図書室で昼休みが終わるまで読み込む。教室に帰ればホムラとマキノが心配する目をするし、クラスメイトも疑惑で俺を見る。なので一人こうして図書室で時間を潰しているというわけだ。虚しいなぁ。
「そろそろ五限目か……」
図書室の時計で、昼休みの限界を感じる。そうして職員棟の最上階にある図書室を出て、階段を降り、二階の渡り廊下を歩いていると。
「キャン!」
今度は誰かとぶつかった。こっちが前方不注意だったので申し訳ないのだが、察するに相手も前方不注意だったらしい。紙の束……率直に言ってノートを持ち運んでいる女子だった。
「いてて……すみません。ノートで前が見えず……ひっ!」
そしてその女子は、さっきの図書室の女子と同じ初期反応をしていた。俺にだって傷付く心はあるんだからな?
「こっちこそ悪い。考え事しながら歩いていたもんだから」
謝罪して、散らばったノートを拾い集める。結構な量だ。
「九王……先輩……ですよね?」
「間違ってないぞ」
ノートを拾い集めながら、俺は頷いた。それからノートを重ねて持つ。
「よし」
そして持ち上げる。
「あの。ありがとうございます……」
「構わん。ぶつかったのはこっちの不手際だしな。で一年何組だ?」
「え?」
「さすがに女子一人でノート運ぶのは無理筋だろ。俺が持ってやるよ」
「あわわわわ……そんなことをさせるわけには……」
「噛んだりしないから心配するな。で、どこだ? お前の教室」
「えと。一組です」
「そっか。頭いいんだな」
「学年一位の先輩に言われても嬉しくありません」
期末試験の順位は見ていたらしい。
「っていうか重くないですか?」
「重量はあるが。鍛えてるからな」
夏服なので、腕の筋肉を見せつける。
「ほわー」
「ってなわけで、軽いんだよ」
「あの。先輩って本当に暴行事件起こしたんです……か?」
こっちもまたオズオズと聞いてくる。
「いんや。冤罪」
「で、ですよねー。私もなんかおかしいと思ってましたし」
「別に取り繕わなくてもいいぞ?」
「いえ、こんな優しい先輩が暴行事件を起こすわけありません」
「猫被ってるだけかもよ」
「そうなんですか?」
「嘘だが」
「でしょう?」
鬼の首を取ったように、という感じの女子生徒だった。そうして一年一組に顔を出し、ノートを置いて去る。もちろん一年生の教室は騒めいていた。俺と一緒にいた女子生徒はこの後問い詰められるだろう。そこまではフォロー範囲外だ。
「さて、教室行くかー」
そうしてクラスに戻ると、こっちを不審げに見るスクールメイト諸氏。誤解を解かないこっちにも説明責任がある気もするが。別に全員に好かれようとも思っていないしな。
「アクヤくん。大丈夫?」
「アクヤ。気にしてない?」
「今更下がる評判でもないしな」
下がるかもしれないが、まぁそれはそれで。苦笑して五限目の授業にとりかかる。とは言っても数学なのだが。受験までの範囲はフォローしているし、次の全国模試に向けて勉強もしている。つまり俺にとってこれからの授業は全部復習の範囲でしかない。
「じゃあ昨日からの続き行くぞー」
教師がそう言って、授業を始める。俺は授業に臨んで。
「…………ヒソヒソ(アクヤ。アクヤ)」
隣のマキノが俺を呼んでパンツを見せつける。お前な。ニヒッと笑って、扇情的なパンツを見せるマキノははっきり言ってエロかった。股座がいきり立つ。帰ったらG行為かねぇ。コヲリは抱くわけにはいかないし。ホムラと入浴すればワンチャン。俺の血は何色?




