第107話:奪われたもの
【人公アルシ視点】
「クソ! クソ! クソ!」
ボクは憤慨していた。理由なんてわかりきっている。九王についてだ。
「何様のつもりだ!」
部屋で枕を投げる。あまりにイライラしすぎてゲームをする気すら失せる。このままだとホムラはアイツのモノに……ッッッ。いくら貧乳とはいえ、あんな奴に渡したくない。もったいないじゃないか。ホムラはボクにだけ惚れていればいいんだから。
「きっとアレだ! 弱みを握られているんだ!」
ホムラがあんな最低男になびくわけがない。何かしらの理由があると考える方が自然だ。そうだよ。そうじゃなきゃおかしい。
『コヲリ。聞いてくれ。ホムラが危ない』
『せめて一行で説明してください』
なんとなく相手からやる気が感じられないが、そんなことを言っている暇もない。
『ホムラが九王に脅されている』
一行で説明すればこんなところだろう。
『それは大変ですね』
『そうなんだよ。大変なんだよ。だからお前らの住所を教えてくれないか? ボクが解決に行くからさ』
『いえ、話はホムラちゃんから聞きますから。放っておいてください』
『ホムラから何言われても信じるなよ。アイツは今洗脳されているんだからな』
『それはまた一大事で』
ふぅ。後は任せるか。ホムラだって本当はボクに謝罪したいんだろ? ボクに悪いことをしたわけだからな。ボクの事を思っているんだろうし。そうじゃなきゃ理屈に合わない。きっと謝りたいのに、九王のせいでそれも出来ないんだ。
「どこまで悪い奴なんだよ。九王」
もともとチャラチャラしているし、危険だとは思っていた。けれどまさかホムラを脅すとは。もはや学校側も退学を迫るべきだろ。あんな危ない奴を放置する方が危険だ。
「ボクは間違ってない。ホムラだってそのことは分かってる……」
後はホムラが謝ってきて仲直りだ。そう思っていたのだが。
「アクヤくん♪」
次の日。九王の隣にはホムラがいた。ついでとばかりに小比類巻さんもいた。二人がニコニコ笑顔で九王に抱き着いている。頭が割れそうだ。俺のホムラが他人に掠め取られるなんて。しかも相手は自分のことをホムラの味方だと錯覚させて。自分に想わせている。詐欺の理論だ。ボクを悪者にして、自分の都合のいいように現実を改変している。
「アクヤくん。聞いて聞いて。テストの点数だけどさー」
「あーしもあーしも。褒めて褒めて~」
既にホムラも小比類巻さんも篭絡されているらしい。バカどもは痛い目を見ないと分からないらしい。
「ホムラ!」
これ以上見ていられず。ボクはホムラに声をかけた。
「でさー。この前のアニメだけど……何?」
キラキラした瞳で九王を見ていたホムラは、ボクを見てドブにでも沈んだように瞳を濁した。まるで見たくもないものを見たような。
「で、アクヤくんさー」
そうしてまたボクを気にせず九王に話しかける。
「ホムラ! そんな奴に尻尾を振るな!」
「なんで人公さんにそんなことを言われないといけないの?」
アルシではなくホムラは「人公さん」と言った。まるでこれからのボクたちの関係を想起させるように。
「そんな奴の傍にいればお前の品位が疑われるんだよ!」
「ですよねー。アクヤくん最高の男だから」
「ホムラ。照れるって」
本当に照れくさそうに九王は笑った。褒めてねーんだよ! バカどもが!
「ソイツはお前の身体を狙っているだけだ! 下劣で最低の男なんだよ」
「ですよね。アクヤくんはあたしが貧乳でも気にしないもんね?」
「もちろんだ」
コックリ頷く九王。
「嘘つけ!」
俺はすぐさま反論した。
「何を根拠に?」
「そっちの小比類巻さんも侍らせているじゃないか!」
それが証拠だ。揺るがないほどの。
「ちょちょちょ。セクハラは勘弁なんですけどー」
「セクハラって……」
「たしかにあーしは胸大きいけどさー。それを公衆の面前で言わないでよー」
「人公さんって空気読めてないよねー」
嫌そうに小比類巻さんが顔をしかめ、クスクスとホムラが嘲笑う。
何でだよ。悪いのは九王じゃないか。ソイツが戦犯じゃないか。なんでボクが責められるんだよ?
「アクヤくん。もう行こ? こんな奴に絡んでもいいことないし」
「待てホムラ! ボクはお前のことを思って!」
「絶交してるんですから話しかけないでくださーい」
「それはお前が悪いから……」
「じゃあなおさら話しかけないでくださーい」
「そんな奴に犯されて満足か!」
「アクヤくんは紳士だよ? あたしにとっても優しいの」
クソがぁぁぁ……九王ぅぅぅ!
「アクヤよりいい男なんてこの学校にいないよねー」
「分かるー。さすがマキノ。見る目あるよねー」
「そういうホムラこそね」
ボクの目の前で行われていることが、ボクには理解できない。なんでだ? なんでこうなった? ホムラは僕のモノだろう?
「九王アクヤ!」
ボクが脳破壊されていると、一人の男子が九王に声をかけていた。手には竹刀を握っている。そのままメラメラと殺気を放ち、九王を睨みつけている。
「この鎌倉イサオが天に代わって成敗いたす。キエエエエエ!」
そうして竹刀を握って襲い掛かる鎌倉なる人物。
「てい」
だがその一撃を、あっさりと回避して、そのままワンパン。鼻血を出した生徒は保健室へ。そこでボクは閃いた。そうだ。犯罪の証拠があればいいんだ。そうだよ。なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ。
「こらぁ! 九王!」
で、流石に生徒を怪我させたのは学生指導らしく、連れていかれた。同時に参考人としてホムラと小比類巻さんも。どうせ九王が悪くないとか妄言を言うんだろう。バカどもには付き合っていられない。これからボクはすることがある。待ってろよホムラ。お前の目を覚まさせてやるからな。既に策は浮かんでいる。であれば後は実行するだけだ。
「地獄に堕としてやるからな」
後で後悔しても遅いぞ。
「ですから竹刀で襲われたのが先でしてー」
「そうですよー。先生。情状酌量の余地を!」
「あーしも見ていたって。完璧に先輩が悪い!」
やっぱり。頭の悪い二人は九王を擁護していた。そのまま生徒指導室に連れていかれる。このまま停学にでもなれば話は早いのだが、そう上手くも行かないだろう。であればボクはボクの出来ることをするだけだ。
「もう少しだけ我慢してくれ。ホムラ」
ボクがお前のことを救ってやるからな。これからはボクのターンだ。九王を地獄に落とすための、な。




