第104話:崩れる音
【人公アルシ視点】
「くぁ……」
朝起きると、既に登校時間を過ぎていた。このままでは遅刻だ。そうと知って、でもボクの心は凪だった。だって期末テストも赤点とらなかったし。ということはゲームは解禁。夏休みももうすぐだし、ゲーム頑張るぞ。
「とはいえ……」
遅刻とはいえ、無断欠席もそれはそれで。
「面倒だけど学校行くかー」
この時間なら三時限目には間に合うだろう。ホムラたちが用意してくれたインスタントの味噌汁を優雅に飲んで、そのまま水場につける。お椀は帰ってから洗おう。そうして制服を取り出して、カバンを握って学校へと向かう。さすがに遅刻は怒られるだろうけど、既に耐性は付いている。生徒指導の先生も「またお前か」みたいな視線寄こすし。大丈夫だって、大学なんて選ばなければどこにだって入れるから。いい大学に入っても、それですべてが決まるわけじゃない。大御所芸能人だって大学中退者は結構いるし。何よりボクにはカホルとコヲリとホムラがいるからね。彼女らと愛し合えれば、ソレで全てがうまく行く。
「~♪ ~♪」
最近流行りのポップを鼻歌で歌いながらボクは学校へと赴く。実は授業が面倒になって、わざと遅れていくようにしていた。飯は途中で食べて、昼休みに悠々と登校しよう。なわけで近くのラーメン屋に顔を出し、ラーメンを注文して食べて、胃袋を幸せにして一息つく。スマホで流行りの動画を見て、ラーメン屋のおっちゃんに代金を払って、それから学校に登校。遅刻したので許可証がいる。今日も気分が優れなかったということで通そう。もう言い訳考えるのも面倒だし。生徒指導の先生ももうボクを見ても何も言わなくなった。好きにしろということだろう。だったら好きにさせてもらう。カホルたちさえいれば、ボクには他はどうでもいいのだから。
そうして学校に入って、そのまま教室へ。
「ちーっす」
今年度いっぱい顔を合わせるだろうクラスメイト達に挨拶をして、そのまま自分の席に座ると。
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
教室の空気があからさまに変わった。
「?」
何か。こう。不快だ。男子も女子もこっちを見ている。その瞳に映るのは冷笑と憐憫。侮辱と同情だった。なんだ? ボク何かした? そんな目で見られるいわれはないんだけど。別にテストの点数も遅刻もお前らには関係ないだろ?
「ふふ……」
「ちょっと」
「笑っちゃダメだよぉ」
「でもさぁ」
特に女子の瞳がひどい。こっちを見てあからさまに馬鹿にしてる。その女子に便乗する形でクラスの男子も冷笑していた。
え? イジメ?
なんでボクがバカにされなければならない。何もしていないだろう。ボクだって三組の仲間なんだから。
「ちっすちーっす。人公!」
で、お調子者で知られる一人のクラスメイトが、あからさまにボクを嘲笑うように絡んできた。ウザいから顔面をぶん殴りたいけど、ソレをすると内申に響くし。
「今日は重役出勤ですかー。いい御身分だなー?」
「関係ないだろ。迷惑はかけてない」
「だよなー。そうだよなー。別に迷惑なんて思ってないってー」
ケラケラと笑うお調子者。そんな男の雰囲気にあてられて、クラス中がボクを冷笑する。マジで何だ。この空気。登校してしょっぱなからイジメとか、出鼻に大腕硬爆衝を喰らったような気分だ。イジメなら職員に然るべき処置を具申する必要があるが。お前らタダですむと思うなよ。ボクがそう思っていると。
「なぁ。二條さん知ってるよな?」
「そりゃまぁ」
幼馴染だし。コヲリのことを聞いているのか。あるいはホムラか。
「長い付き合い?」
なんだよ。回りくどい。言いたいことがあれば言えよ。
「そりゃそうだろ」
ボクがそう言うと、今度はクラスの男子たちがドッと笑った。何が面白かったのか。全員爆笑こそしなかったが、腹筋を押さえて笑っている。どうにもボクが何かおかしいらしい。それがなんなのか。ボク自身にはわからない。マジでイジメか? 通報するか?
「ああ、いや悪い。笑っちゃ失礼だよな。人公は何も悪くないわけだし」
ニヤニヤと笑みながらお調子者は言う。まったく説得力が無いのだが、そこまでわかって笑ってんのか。お前。
「じゃあそんな付き合いの長い人公くんに質問でーす。二條ホムラさんの胸のサイズ言える?」
「セクハラだろ」
「アルファベットで答えるだけでいいからさー? 教えてくんない?」
「個人情報を聞くわけにもいかないし、知らないよ。まぁあの大きさでBってことはないだろうけど」
コヲリと同じくらいあるのだ。CカップとかDカップくらいあるんじゃねーの?
「ぶははははははは! Bじゃないってよ!」
「人公くん大正解~!」
「さっすが幼馴染! 二條さんのこと分かってる~」
まぁあのおっぱいはボクのモノだし。
「さっき来た人公くんはまだ知らないんだね~。今その話題で持ちきりだよー?」
「そうそう。学内トレンド」
はっはっは、とクラス中の男子が笑う。まるでボクを、そしてボクの背景にいる二條ホムラを笑うように。
「偽乳隊長に騙されていたんだねー。同情するよー」
「しょうがないだろ。童貞っぽいもん」
「見分けるの無理だって」
ゲラゲラ笑う男子ども。女子たちもさざめくようにボクを冷笑する。
「やっぱ知らなかったみたいだよ」
「気付いてないとかマジヤバ」
「笑っちゃ失礼だよー」
「でもさぁ。いつも一緒にいて気付かないってことは」
「やっぱり童貞なんだねー」
喧嘩なら買うぞ。と言えれば良かったが、罵倒の内容から察しえるものがあった。二條ホムラに何かあった。それを明敏に悟れた。そしてそのことでボクが貶められていることも。不条理の根幹にホムラがいる。
「じゃあ何も知らない哀れな人公くんに教えてあげるよー。なんと二條ホムラさん。Aカップなんだってー!」
「…………は?」
ホムラがAカップ? いや。あんなに胸が大きいのに?
「今日からパッド外してくるんだってさ。もう偽乳隊長はパッド使わないんだって!」
そうネタ晴らしして、お調子者はゲラゲラ笑った。
「は? ホムラが偽乳?」
あの胸が……全部パッド?
「やっぱ知らなかったんだよ」
「しょうがないじゃん。童貞にはわからないよ」
「揉んだわけじゃないだろうし」
「偽乳隊長も罪な女だよねー」
そう蔑まれて、そのままボクは六組に突撃した。その教室を飛び出した段階で、教室から後ろ髪を引くように爆笑の声が聞こえてきた。
「ホムラぁ!」
そうして六組に行って、ホムラを呼ぶ。教室にいた。そして彼女の胸はあまりに無惨だった。豊満なラインは見る影もない。スットントンの貧乳の少女がそこにはいた。




