第103話:偽乳隊長
「え、パッドを外すの?」
「……本気? ……ホムラちゃん」
カホルとコヲリは心配そうだ。そりゃ学校で笑いものになるのと同義だし。友人としても心配だろう。
「ま、アクヤ様以外に何と思われてももういいかなって」
「それはわかる」
「……ですね」
そこまで信頼されてんの? 俺。お前らを金で買ったドブカスだぞ?
「というわけで行くぞ!」
そうして車で駅まで。そのまま電車に乗って学校近くの駅で降りる。
「おはよう花崎さん」
「おはようございます二條さん」
「おは……よう……? 二條……さん?」
で、あっさりと朝の挨拶をした男子生徒がホムラに怪訝な視線を向けた。姉妹で区別のつかなかったDカップのおっぱいが、片方から消えているのだ。違和感バリバリだろう。最初からホムラはAカップだったがな。
「え? ええ?」
ホムラの貧乳を見て、困惑する男子。その違和感はそのまま登校している生徒に伝播する。元々カホルもコヲリもホムラも学校のアイドルだ。ホムラは既にネットでもアイドルだけど。Hカップの爆乳のカホルと、Dカップの巨乳のコヲリ。で、スットントンのホムラ。この対比はあまりに残酷で。その困惑は教室に行っても変わらなかった。
「おはー……よう? 二條さん……」
「二條さんって」
「あれ? ちょっと待て?」
昨日までの豊満な胸の膨らみが一夜で消え去った。もちろん男子諸氏にもその意味は悟れて。パッドがどうの。盛ったのどうの。六組の男子も女子もそんなことを噂する。登校時の噂。クラスメイトの証言。それで学校中にホムラのパッド疑惑は広まった。六組の生徒はまだしも理性的だった。失望はしているが、女子の事情に土足で入り込んだりしない。だが大半の生徒には人の心がなかった。ホムラの巨乳がパッドによる偽乳だと知って一目見ようと二年六組に訪問し、ホムラを指差して笑った。
「偽乳隊長」
ホムラは心無い学生からそんな二つ名を賜った。
「偽乳隊長! 今日も大きいですね!」
「偽乳隊長! 今日は調子悪いんですか?」
「偽乳隊長! おっぱいをどこに落としてきたんですか?」
人を馬鹿にすることに心血を注ぐバカは何処にでもいるもので。ホムラを偽乳隊長とバカにする生徒は後を絶たない。貧乳に人権は無いとばかりに誰も彼もがホムラをバカにする。何も思っていない……はずもなく。ニコニコ笑顔で罵倒を受け入れているホムラではあるが、その心までは隠せていない。
「ったく……人公は何してるんだ……」
このままだと俺がホムラを慰めることになるぞ。
「アクヤくん……学食行こ?」
さすがに疲弊は隠せないらしい。俺に対しては笑顔を取り繕わない。
「追い詰められているな」
「自業自得だから」
「貧乳に罪は無いと思うがな」
「アクヤくんがそう言ってくれるだけで十分だよ」
痛々しく、ホムラは笑った。
「じゃあ今日はあーしが奢るし!」
心情的にはマキノもこっち側なのだろう。一緒に同じ釜の飯を食った仲だ。ホムラの貧乳についてはマキノも知っている。さすがにカミングアウトをするとまでは予想できなかっただろうが、味方になるのにも理由は要らないらしい。
「食べたいものを注文していいよ。これでも稼いでいるし」
まぁ高校生が稼いでいい金じゃないな。不動ミヨはそれ以上だが。ついでに愛スール先生もな。
「ありがとね。マキノ」
「もう! 気にしなくていいっしょ! あーしとホムラの仲じゃん?」
「うん」
そんなわけでマキノの奢りで飯を食うことになった。俺は遠慮したのだが、
「じゃあ今度はアクヤが奢ってね」
の一言で今回は飯代を奢ってもらうことに。今度築地の寿司屋に連れて行ってやろう。学食でも冷笑の雰囲気は途切れなかった。ホムラを見てくすくすと笑うのは男子も女子も同じ。人様の胸がそんなに面白いか?
「偽乳隊長は流石だな」
「コヲリさんの胸は本物かな?」
「これからは見分けつくよなー」
おっぱいで姉妹を見分けるつもりらしい。別にそれは一つの手段だとは思うが。
「あたしもおっぱい大きければなー」
「不動ミヨは既にアイドルだろ」
正確にはVキューバー。しかもすでにチャンネル登録者は五十万人を超えている。綾女テイルの推しということで21プロの色眼鏡の注目も浴びているし、歌声が本物であることも綾女さんとのコラボで証明された。
「アクヤは気にしてないよね?」
「ホムラのおっぱいに頓着はないぞ」
ソバをズビビーとすすりながら俺は言う。
「…………ボソボソ(だからアクヤ様は素敵なんだよなー)」
「?」
「あーしは聞こえちゃったな」
「何を言ったんだ?」
「あーしの口からは何とも♡」
唇に伸ばした人差し指を当てて、マキノはウィンクした。
「じゃ、飯も食い終わったし。教室帰るか。ここは不快だ」
「わかるー。あーしも不愉快」
「ごめんね? アクヤくん。マキノ……」
「お前のせいじゃない」
「だね。この学校にバカが多いだけっしょ」
「うん……うん……」
この程度では慰めにもならんか。どうにかして元気づけてあげたいのだが、生憎とその方法がわからない。ドラゴンと五右衛門の中間みたいな名前の猫型ロボットの秘密道具でおっぱいを大きくできればいいが、そういうのも無理だし。豊胸手術は出来るが、そんなことをホムラが望んでいないのも事実。とすると。
「…………ボソボソ(俺が愛するしかないか)」
「何か言った? アクヤくん……」
「いや、何も」
そもそも人公は何をしている。こんなに幼馴染がこき下ろされているのに、慰めにも来ないのか? と思っていると。
「ホムラぁ!」
その人公が六組に現れた。そこにあるのは憐憫の感情ではなく、もっと純粋な怒り。感情を色に例えるなら暖色系だな。多分彩度の高い赤。そうして六組に殴り込んできた人公はホムラを見て、その胸を見て、少しだけ動揺する。まぁ確かにゲームでもホムラに惚れられて身体を重ねるまで人公アルシはホムラが貧乳だとは知らなかったわけだが。とするとこれから人公がホムラにかける言葉は。
「この……ッッッ!」
ホムラのスットントンの胸を見て、怒りに震える人公。おい? まさかお前。
「ボクを騙したな!」
俺の危惧をそのままに。人公はホムラを罵倒した。
「…………」
もちろんそれを気にしていませんよとスルーできるなら女子高生はやっていないだろう。インドで入滅できるレベル。おっぱいを偽装したのはホムラだが、そこまでの問題か?




