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誰もが役目を放棄した世界で  作者: ソニエッタ


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第54話 忘れられた部屋

 数日後、アイラ、アルゴ、ルードの三人は、以前見つけた薄汚れた窓の前に立っていた。

何が起こるかわからないため、セトは隠れ家で留守番をしている。


「この窓はどこだろ……やっぱり見覚えないなぁ」


ルードはそう呟き、興味深そうに窓へ顔を近づけた。しかし内側も同じように汚れており、霧がかかったようで中の様子はよくわからない。


「とりあえず、中に入ってみるか」


アルゴがそう言って顎で合図を送ると、ルードは懐からいつもの魔道具の板を取り出し、小さく何かを呟き始める。


「あの魔道具、便利だよね。なんであんまり流行らないんだろ」


「魔法使えるやつが多いからな。それに、この国の連中は魔道具そのものに、あんまり興味を示さない」


アルゴ自身も一通りの魔法は使えるが、本人いわく得意というほどではなく、剣を振るうほうが性に合っているらしい。


「よし。この周りに結界を張ったよ。音は外に漏れないから——アルゴ、お願い!」



ルードの言葉が終わるや否や、アルゴは勢いよく拳を振り抜いた。拳が窓硝子に叩きつけられた瞬間、硝子は音も立てず、粉々に砕け散る。


あまりの光景に、アイラは思わず肩をびくつかせ、その様子を横目に、ルードは笑いを堪えながら割れた窓から中を覗き込んだ。


「うーん……倉庫かな? 本がいっぱいあるね。やっぱり、こんな場所は知らないなぁ。位置的に……地下だよね?」



窓は部屋の天井付近にあり、今いる場所から見れば足元の高さだ。自然と、その部屋が地下にあることがわかる。


「行くぞ」


アルゴの掛け声と同時に、割れた硝子の隙間から体を滑らせ、三人は部屋の中へと飛び降りた。






長いあいだ使われていなかったのだろう。

鼻をつく湿った不快な匂いが立ちこめ、舞い上がった埃が光を受けてきらきらと反射する。その光景の妙な美しさと、空気の重さとのちぐはぐさに、アイラは言いようのない違和感を覚えた。


「何の本だろう? ずいぶん古そうだよね」


アイラは、うず高く積まれた本の山から一冊を抜き取り、そっと開いて中を覗き込む。

かなり昔のものなのか、ところどころ文字が擦り切れており、判読できない箇所も多かった。


「何の本だか、さっぱりわからないな」


「うーん……結構昔の言葉で書かれてるみたい。僕には読めないや」


アルゴとルードもそれぞれ本を手に取り、首をかしげながらページを一枚ずつめくる。

静まり返った部屋には、紙が捲られる音だけがかすかに響いていた。


神殿の者たちから忘れ去られたこの部屋に置かれた本。隠したいほどの内容が書かれているのなら、燃やしてしまえばいいはずだ。それでもなお、こうしてここに押し込められているのには、きっと理由がある。

そう思いながら、アイラも手に取っていた本を慎重にめくっていく。


中には、綺麗に色づけられた挿絵がところどころに散りばめられており、物語か何かを彩っているようだった。さらに頁を進めたところで、アイラの指が、吸い寄せられるように止まる。


「……え? 金の瞳」


そこに描かれていたのは、金色の瞳を持つ老年の男性だった。まるで皆を包み込もうとするかのように、両腕を広げた姿で描かれている。


その絵から目を離せずにいると、背後からルードの声がして、アイラははっと現実に引き戻された。


「二人、ちょっとこっち来てー!」



アイラは手に持った本を鞄の中に詰め込むと、ルードの声に導かれて近づく。


彼が見下ろす、床の一部に違和感があった。

埃に埋もれた石畳の上、円を描くように刻まれた細い線――それは、明らかに呪文陣だった。


「……呪文?」


アイラの声に応えるように頷くと、ルードは腰を落とし、指先でその線をなぞる。

かすかに残る魔力の気配に、眉が寄った。


「転移魔法だね。しかも、結構新しい」


「誰かが、ここを使ってるってことか?」


「うん。ここに出入りしてると思うよ」




 神殿の地下、忘れ去られた部屋。

長い間開けられていないように見せかけて――実際には、定期的に人の出入りがある。


「神殿の人が、やったわけではないよね?」


「ないね。掃除も記録もきっちり管理する連中だし、そもそも隠す意味もないし、普通に扉から出入りすれば済む話だしね」


ルードは立ち上がり、呪文陣から一歩距離を取りながら、探るように部屋を見渡す。


「ってことは――」


誰にも気づかれず、この部屋を使っている誰かがいる。神殿の人間ではない、別の存在が。


「……面倒なの、見つけちゃったかもね」


ルードの呟きは、舞い上がった埃に紛れるようにして、静かな部屋の中へと落ちていった。


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