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誰もが役目を放棄した世界で  作者: ソニエッタ


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第49話 王都の隠れ家

 ルードの後を追い、細く暗い路地を進んでいく。


下層街のせいか、アイラが思い描いていた王都の煌びやかさはない。だが、見慣れたのどかな自然の町とは違い、石造りの家々が隙間なくひしめき合う景色に、息を詰めるような圧迫感を覚えた。


「ここだよ。魔法がかかってるから、追ってきても辿り着けないと思う」


ルードが指さしたのは、一軒の古い家だった。周囲の建物とほとんど見分けがつかず、目印は扉に下げられた小さな金色のベルだけだ。


それがなければ、一度目を離してしまったらどの家なのかわからなくなってしまうだろう。そもそも、ルードの案内がなければ、この場所に辿り着ける気もしなかった。


認識阻害の魔法。


国境近くの隠れ家にも施されていたそれを思い出す。


魔法に詳しいわけではない。それでも、建物や衣服にかけた認識阻害を、長期間維持するのが容易ではないことくらいはわかる。それなりの腕を持つ魔術師でなければ、できない芸当だ。


数えきれない疑問を胸に抱いたまま、アイラは無言で、家の扉に手をかけるルードの背中を見つめる。


「あれ……? まさか」


扉を開けて中へ入った途端、ルードが間の抜けた声を上げて、足早に先へ進む。


家の中には、彼らの訪れを待っていたかのように灯りがついていた。

この家は長く締め切られ使われていなかったのだろう、室内には埃っぽくどこか冷えた、温もりのない独特の空気が漂っている。


その空気の中、部屋の奥に置かれた上品な赤色の長椅子に長い足を伸ばし、くつろいだ様子で一人の男が腰掛けていた。

金髪で片目は眼帯に覆われており、見るからに上等な生地で、品よく仕立てられた服を身にまとっており、その佇まいからして、相当な身分の者であることがうかがえる。


「遅かったな」


男はそう言ってから、ふと眉を上げた。


「……あれ? 人数、増えてないか?」


興味深そうな視線が、アルゴに担がれているセトへと流れる。

その途端、セトは大きな野獣に目をつけられた小さなねずみのように、身動きひとつ取れない。


「君さ、連絡もなしに何しに来たの?」


ルードはその空気を打ち消すように、呆れた声で大きくため息をついた。

そして振り向いてアイラたちを見ると、

「これが前に話してた幼馴染のケインねー」と、雑に紹介すると、全力で走ってきたせいで疲れたのか、そのままケインの隣に腰を下ろし、体をくつろがせた。


「君たちが、お尋ね者のふたりか。よろしく——」


そこまで言いかけたケインは、アイラを一目見た瞬間、まるで亡霊でも見たかのように目を見開き、声を荒げた。


「……おい、聞いてないぞ!」


ケインはそう吐き捨てるように言い、睨みつけるようにして横に座るルードを見る。

アイラは何が起きたのかわからぬまま、差し出しかけた手の行き場を失い、宙に浮かせたまま戸惑うように立ち尽くした。


「ちょっと、色々あとにしてもらっていいかな? 僕さぁ、すごく疲れてるんだよ」


軽い調子で言うルードに、ケインの表情が一変する。


「この女、金目だぞ?! お前、黙ってたな」


ケインはくつろいだままのルードの胸ぐらを掴み、殴りかからんばかりの勢いで強く揺さぶった。

ケインの腕に力がこもり、ルードの身体が前後に揺れる。


「ちょ、ちょっと乱暴だなぁ……」


そう言いながらも、ルードの声音からいつもの冗談めいた軽さが消えていた。


「よくわからないが、そこまでだ」


アルゴが一歩前へ出て、長椅子の前に立つ。

その声色は、子供の喧嘩をいなすように落ち着いていた。ケインの腕を掴むその手に、力を誇示する様子はない。

ただ、これ以上は許さない——そう静かに告げる意志だけが、確かに込められていた。


ケインはアルゴを睨み返し、やがて視線をアイラへと滑らせた。

かつては琥珀色だった瞳。その奥に光が差し込み、いつしか完全な金へと変わった眼差しは、否応なく人を惹きつける。


ケインは、しばらく黙ったままアイラを見つめ、

やがて無意識に、眼帯に隠れた右目を指でなぞった。


「……厄介なもんを拾ってきたな、ルード」


その言葉にルードはその反応すら織り込み済みだったと言わんばかりに肩をすくめ、めずらしく無言を貫いている。


「……あの人に知られたら、終わりだぞ」


ケインは舌打ち混じりに顔を歪める。

片目を覆う眼帯の下に何を隠しているのか、想像せずとも分かるほど、その整った顔には焦りと苛立ちがありありと浮かんでいた。

それとは対照的に、ルードはその厄介ごとを手に入れたことすら幸運だとでも言いたげに、楽しげな笑みを浮かべている。

――まるで、その厄介ごとが自分の望んだものだったかのように。




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