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誰もが役目を放棄した世界で  作者: ソニエッタ


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第48話 侵入

 暗闇の中、四人は草むらに身を潜め、南にある検問を見つめていた。


王都は高い壁に囲まれ、東西南北に四ヶ所の検問が設けられている。その中でも下層街に近い南の検問は人通りが少なく、アルゴとルードが言っていたとおり、ここから入ろうとする者はほとんどいなかった。


「あいつら、交代の時間になると引き継ぎを兼ねて話し込む。それを狙って忍び込むぞ」


アルゴの真剣な声に、三人は黙って頷く。


交代の刻を待ち、息を潜めていると、やがて詰所の方から別の兵士が現れ、門の前に立つ者たちと言葉を交わし始めた。

帳面が手渡され、肩を叩き合う。緊張感のない仕草に、短い笑い声が混じる。どうやらアルゴの読みどおり、引き継ぎを口実に談笑が始まったようだった。


「……今だ。動くよ」


ルードの小さな合図を皮切りに、四人は草むらを抜け、関門のある壁へと近づく。

関門の前には、王都に入ろうとする人影はひとつもなく兵士たちの楽しげな声が響いていた。


ルードは懐から小さな魔道具を取り出し、自分たちにかざすと、そこから微かな光が四人を包んだ。


「子供騙しみたいなものだけどね。一瞬だけ、光の屈折を利用して姿が見えなくなる。兵士たちは話に夢中だし、まず気づかれないはずだ」


そう言ってから、少しだけ声を落とす。


「……でも、油断はしないで」



四人は互いの気配を確かめ合いながら、王都の壁の影へと足を踏み出した。

音を立てないよう、慎重に歩く。兵士たちは交代の引き継ぎに夢中らしく、四人がすぐ近くを通っても気づく様子はなかった。


――そのときだった。


こつ。

乾いた音が、夜の静寂を割った。

セトの足元で小石が転がり、セトが息を呑む音が、微かに兵士たちの耳へと届く。


「誰だ?!」


兵士の一人が声を上げ、勢いよく振り向く。その拍子に、すぐそばを通っていたアイラのローブに手が触れ、ルードの魔道具の効果が、一瞬だけ揺らぎ、闇の中に輪郭が浮かび上がる。


「走れ!」


アルゴが叫ぶと同時に、セトの腕を強く引き上げ、そのまま肩に担ぎ上げた。

セトは驚きの声を上げる暇もなく、視界が跳ねる。


アイラは前を走るアルゴの背中を必死に追いながら、行き先もわからぬまま、もつれそうになる足を動かし、背後でルードが足を止め、兵士たちに向けて魔道具の板をかざす。

次の瞬間、風がうなりを上げ、砂と埃が舞い上がり、小さな竜巻が現れた。


「今のうちに逃げ切るよー! アルゴ、右!」


砂埃に視界を奪われ、怒号をあげながら混乱する兵士たちを背に、ルードはすぐさま走り出す。

足取りの鈍ったアイラの手を取り、強く引き寄せると、そのまま速度を上げる。


「こっち!」


先頭を走るアルゴに追いつくと、四人は狭く、人気のない路地へ滑り込んだ。

ルードはこの辺りの地形に詳しいらしく、迷路のような曲がり角を幾つも越えながら、迷いなく先へと進む。さらに路地を抜けると、背後の騒ぎは徐々に遠ざかりやがて消えた。


四人はようやく立ち止まり、荒くなった呼吸を整える。


「……なんか、私たち最近よく走ってるよね」


「逃亡者なんだから、当たり前だろ」


アルゴはアイラに無表情のまま答えるが、その目はまるで綱渡りを楽しむかのように、どこか楽しげに光っていた。

ルードは周囲を見渡し、まだ警戒の目を光らせながらも、微かに口元を緩める。


「まあとにかく、王都侵入に成功したね!」


「で、これからどうするんだ?宿屋に行くなんて無理だろ?」


アルゴの問いかけに、ルードは少し得意げに笑みを浮かべた。


「あ、大丈夫!僕の隠れ家があるから、そこに向かおう」


アイラは驚きで目を大きく見開いた。

王都にも隠れ家を持っているなんて——

国境近くの隠れ家もそうだが、ルードはいったい何者なのだろう。

普通の商人なら、ましてや前の役目を放棄して新たに商人を名乗るだけの肩書きで、ここまで入念に隠れ家を用意する必要はないはずだ。

これまでの道のりも、ルードがいなければ成立しなかったことばかりだ。


小さな疑問を胸に抱きながらも、アイラは言葉にせず、そっとうなずいたのだった。





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