表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もが役目を放棄した世界で  作者: ソニエッタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/56

第3話 小さな絆の夜

元・聖剣案内人の少女と、勇者と共に魔王討伐へ向かうはずだった元・騎士アルゴ。

ひょんなことから始まった二人の逃亡生活は、もう数日を数えていた。

行くあてもなく、ただ隣領を目指して森を抜けていく。


その夜、二人は焚き火を囲み、川で釣った魚を焼いていた。



「……野宿ばかりで、すまんな」


魚を串から外し、アルゴはぎこちなく彼女に差し出す。


「ううん。むしろ……すごく楽しい」


少女は目を輝かせてそれを受け取る。


「町から出るなんて考えたこともなかったの。頭に浮かびさえしなかった。

でも……こうして森の中で焚き火をして、

ご飯を食べて……なんか、すごい!」



その屈託のない笑顔に、アルゴは肩の力を抜いたように目を細める。


「……お前、変わってるな」


「アルゴこそ、本当にそれでよかったの?」


少女は首を傾げる。


「勇者と旅に出るなんて、名誉なんでしょ?」




問いかけに、アルゴは少し考え、首を振った。


「名誉かどうかなんて知らん。

ただ……小さい頃からそれが当然だと思って剣を振ってきただけだ。だが今となってはただの、めんどくさい役目にしか思えん」


「……それ、わかるな」


少女は小さく頷き、炎の揺らめきを見つめる。



「私もね、勇者に会ったときに思ったの。“なんで初対面の人に、大切な場所を教えなきゃいけないんだろう”って。前までは使命だと信じて疑わなかったのに」


アルゴが視線を向ける。


「大切な場所?」



少女は少し口ごもり、やがて静かに語り出した。


「うちの家系はね、勇者が現れた代は“案内人”になる。でもそうじゃないときは……聖剣を守る番人であり、糧になるの」


「糧……?」


アルゴの眉が動く。



「次の世代が育ったら、その親は聖剣に身を捧げるの。祖父母も、両親もそうだった。私の代は勇者が来たから案内人の役目になったけど……もし私が子どもを産んでいたら、その子は将来、剣に命を奪われる役目になる」




アルゴは焚き火を見つめながら、低く呟いた。


「それは……聖剣なんて呼べる代物じゃない。呪いの剣だ」


「そうよね」


少女の声は、かすかに震えていた。


「でも、前はそんなこと考えもしなかった。両親が剣に命を取られても、“役目だから”って受け入れていた。……それが当たり前だと思ってたの」



二人の間に沈黙が落ちる。



「だから、あの場所は私にとって……家族のお墓のようなものなの。そんな大切な場所を、会ったばかりの勇者に、魔王を倒すから必要だなんて言われて……素直に差し出せるわけがない」


焚き火の赤に照らされた少女の横顔は、哀しみと確かな意志を帯びていた。



アルゴはしばし黙っていたが、やがて低く、はっきりと言った。



「……アイラ。お前はもう、自由だ」


少女が驚いたように顔を上げる。



「剣に命を捧げる必要もない。わけのわからん勇者に、大事な場所を教える必要もない。役目でもなく……お前自身が決めればいい」



焚き火がぱちりと弾け、言葉を後押しするように響いた。



「……自由、かぁ」


その言葉を噛みしめるように繰り返す。


「そんなふうに考えたこと、一度もなかった。ずっと役目で……当たり前に決まってて……自分で選んでるなんて思ったこともなかったのに」



彼女の声は震えていたが、同時にどこか軽やかでもあった。



アイラは小さく笑みを浮かべる。


「ありがとう、アルゴ。……なんだか、少し楽になった気がする」



その笑顔に、アルゴはほんの一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに照れ隠しのように火をつついた。


「……礼を言われるようなことじゃない。俺も同じだからな」


アイラが瞬きをする。


「同じ……?」


「俺も、勇者の“剣”として生きるのが当たり前だと思ってた。疑うこともなかった。けど……やめてみたら、案外どうにでもなるもんだなって」


焚き火の炎が、彼の不器用な横顔を赤く染める。


アイラはふっと肩の力を抜いた。


「……そうだね、アルゴも自分自身で決めていい。私たち自由仲間だね!」



アルゴはわずかに口元を緩めた。


「仲間……悪くない言い方だな」




夜風が吹き、炎が揺れる。


炎の揺らめきのように、二人の心に新しい灯りがともっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ