表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もが役目を放棄した世界で  作者: ソニエッタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/56

第28話 村

 冷たい雨粒が、アイラとアルゴの肩に落ちてきた。

空は厚い雲に覆われ、雨が本格的に降り出すのも時間の問題だ。


「この状況で村を見つけられたのは、運がよかっね」


アイラはほっとしたように村を見つめ、わずかに目を輝かせた。


「なんだこの村。地図には——、のってないな」



アルゴは、ルードから渡された地図を広げ、指先で何度も森の名をなぞる。


だがそこには村を示す印はどこにもなかった。



「どうする? 行ってみる? それとも、あまり人目につかない方がいいかな?」


「小さな村だし、ハイバで起こったことがここまで伝わってるとは思えねぇ。宿屋くらい探してみるか」



アルゴがそう言って歩き出し、アイラも後に続く。



村に近づくと、どの家からも薄く煙が立ち上っている。屋根の煙突から真っ直ぐ昇るその煙の横には、住人たちの金の糸が天へ向かって静かに伸びている。


アイラは一本ずつ金の糸を確認するように視線を走らせ、ここの住人たちは神の涙を服用していないのだと気づくと、ほっと安堵の息を漏らした。



二人は村の中を進み、宿屋らしき建物を探して周囲を見渡した。

しかし、どう見ても宿屋はない。

この人里離れた森の奥深くにある小さな村では、旅人のための宿など必要とされないのだろう。


村人は皆、家の中に入ってしまっていて、外には人影一つもない。


「村を見つけても、結局野宿決定かぁ」



アイラが肩を落としたその時——、


不意に気配を感じ振り返ると、そこに立っていたのはひとりの女性だった。


黒い外套に身を包み、夜の闇のように深い黒髪。

雨の気配すらまとわぬまま、驚くほど静かに、アイラとアルゴの背後へと立っていた。


アイラは、誰からも当たり前に伸びている物を視線で探す。

しかし、女の頭上には一本も見当たらない。


アイラは息をのんで目を見開き、思わず横に立つアルゴの方みた。


彼女には、金の糸がない。


「……旅人?この村に辿り着くなんて」


女性は眉を寄せて、考えるように手を顎にのせる。

その瞳は一切の温度を帯びていない。


「ここは、本来、よそ者が立ち寄る場所じゃない。命が惜しいなら、今すぐ引き返して」


その声音は、優しさを装いながらも、どこか人ならざる冷たさが滲んでいた。


「……命?」

アイラが小さく首を傾げる。


隣ではアルゴが警戒を解いておらず、

外套の下に潜む彼の手は、静かに腰の剣へと伸びていた。


アルゴの手が剣の柄に触れた瞬間、

女は細い指をわずかに上げ、軽く制するように言った。


「待って。戦うつもりはないの。……少なくとも、今はね」


その一言に、アルゴの警戒心は逆に強まる。


「じゃあ、何のつもりだ」


「雨が来る。立ち話をする場所じゃないわ。

ついてきて。あなたたちが無事でいたいなら」


そう言うと、女は歩き出した。

足音は驚くほど静かで、まるで影が移動しているようだった。


アイラは迷いながらも、思わず声をかける。


「あ、あの……どこへ?」


女はほんの一瞬だけ振り返り、薄く微笑んだ。


「私の家」


先を歩く女を見つめながら、

アルゴはアイラの耳元で低くささやいた。


「絶対に油断すんな。あいつ……動きが尋常じゃねぇ」


アイラもこくりと頷く。

確かに彼女の所作には無駄がなく、森を歩く音すらほとんどしない。

その静けさは、獲物を狩る前の獣のようで、思わず背筋が冷える。


ぽつり、ぽつりと落ちていた雨は、すぐに本降りへと変わる。

アイラとアルゴは顔を見合わせ、結局その背中を追うように女の後についていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ