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誰もが役目を放棄した世界で  作者: ソニエッタ


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第20話 制御できないチカラ

 ——命を、再利用。

神の名のもとに。


その言葉が、胸の奥で重く沈んだ。


命の灯火が消えたあと、本来なら安息の地へいざなわれ、次の生を待つはずだ。

その自然の循環をねじ曲げ、魂をこの世界に縛りつけているというのか。


神の涙に触れた時に頭に響いたあの叫び。

あれは、安息を阻まれた魂たちの哀れな声だったのだろう。


「どれくらいの魂がこの地に縛られているのかな……」


悲痛な叫びが脳裏にこだまする。

死んでもなお続く苦痛など、もはや地獄と変わらない。


「鉱山の時みたいに、アイラちゃんが魂を解放してあげられるんじゃないかな?!」




あの時——

アイラから放たれた光に触れた亡霊たちは手を止め、消えていった。

だが、彼女はその時のことをほとんど覚えていない。

ただ灼けるような熱が体内から溢れたことだけが記憶に残っている。


「無理だよ、どうするかわからない」


「魔法を使うようなもんだろ。俺がやり方を教える」


アルゴの言葉に、アイラとルードは頼もしそうに視線を向けた、

その直後。


「あ! あの祈り! 鉱夫の!!」


アイラがはっとして声をあげる。


神殿で耳にした祈り。

それにどこかで引っかかりを覚えていた。


鉱山に着いた時に見たあの人々。

誰も動かず、助けず、ただ祈っていた者たち。


「神殿で聞いたのはもっと本格的だったけど、元は同じだと思う」


「……あの祈りかぁ」


ルードは口元に手を当て、俯いて考え込む。


鉱山では、体から抜けた魂がその場にとどまっていた。もしかしたらあの祈りが、魂を縛りつけていたのかもしれない。


死者を弔う祈りではなく、

この地に留めるための祈り。


その可能性に気づいた瞬間、アイラの背に冷たいものが走った。


「……やっぱり、この世界はどこかおかしい」





*****



昼食を終えると、ルードは「まだ調べたいことがある」と言い残し、どこかへ行ってしまった。

そこでアイラは、アルゴと二人で町の外れの草原にやってきた。


「集中して、体の中に流れている魔力の感覚を拾ってみろ」


ぶっきらぼうに言うアルゴを、アイラは思わず眉をひそめて見上げる。


「そんなこと言われてもわからないよ。もっとわかりやすい例えないの?」


魔法なんて使ったこともないのに、そんな感覚をすぐに掴めるはずもない。

アルゴは面倒くさそうに小さくため息をつくと、近づいてアイラの手をそっと取った。


「じゃあ、これはどうだ。俺の手から何か伝わるか?」


アイラは言われるまま目を閉じ、自分の手のひらに意識を向ける。

集中していくと、アルゴの手に触れた部分から、じんわりとした温もりが流れ込んでくるのを確かに感じた。


「あ……あたたかい……」


アルゴは満足げに頷き、アイラの手をそっと離すと、そのまま自分の手のひらに小さな水の球を生み出した。


「初めてにしては上等だ。今感じたそれを今度は自分の中から外に押し出す感じでやってみろ」


「押し出すって……でも、そもそも私、本当に魔力なんてあるのかな!?」


疑問を抱きつつ、アイラはじっと自分の手のひらを見つめる。

再び意識を集中すると、鉱山で感じたあの感覚にはまだ遠いが、体の奥から温かいものがゆっくり流れ、手のひらに少しずつ集まってくるのを感じた。


「……なんだか、ちょっとふらふらする……」


そう呟き、アイラは草原の地面に腰を下ろす。


「今日はこのくらいだな。でも、いい線いってると思うぞ」


そう言いながら、アルゴはしゃがみ込んだアイラの頭に、そっと手を置いた。


アイラは正直、先が見えなかった。本当にこの力を使いこなせるのか、使いこなせたとして何ができるのか。この力が、秩序ある世界に混乱をもたらすだけかもしれないという不安も頭をよぎる。


考えが尽きぬまま草原をぼんやり見つめていると、遠くから子供たちの声が聞こえてきた。


「これかな?」

「うーん、色がちょっと違う気がする」


草むらを覗き込む二人の子供に、アイラはそっと近づき、声をかけた。


「ねぇ、何を探してるの?」


一瞬、二人は驚いたように顔を上げる。小さな男の子が口を開いた。


「ママの薬草……ママ、ずっと具合が悪くて」


「うん……パパが言ってた。神殿に連れていくって」


女の子が俯きながら答える。二人の瞳には不安が浮かんでいる。



その言葉を聞いた瞬間、アイラの胸がきゅっと縮む。


神殿――。

そこへ行けば、魂は“再利用”されてしまう。


幼い子供たちを残して死にゆく苦しみだけでは終わらない。

天から見守ることさえ許されず、神の涙として誰かの身体に閉じ込められる。


永遠に輪廻へ戻れないまま。

終わらない地獄の中で。


込み上げてくる感情を抑えきれず、小さく拳を握りしめる。


「……そんなの、まかり通っていいわけない」


思わず漏れた声は震えていたが、はっきりと怒りを帯びていた。


幼い子供たちを置いて死にゆく母親の魂を、安らぎから引きずり戻し、誰かの“役目”のために縛りつけるなんて、そんな理不尽、あっていいはずがない。


次の瞬間、アイラの手のひらから淡い光がこぼれ出した。


思わずアイラは目を見開く。

子供たちも驚いて一歩さがり、アルゴが息をのむ。


「アイラ……落ち着け」


アルゴの落ち着いた低い声が聞こえるが、

けれどアイラ自身にはその光をすぐには止められなかった。

まるで胸の奥で燻っていたものすべてが、堰を切ったように光へと姿を変えて噴き上がる。


眩い光がアイラから溢れ、草原に柔らかく波紋のように広がった。


その瞬間、子どもたちの身体から伸びていた細い金の糸が、ふっと揺れ……音もなくほどけるように切れた。


「……あっ」


女の子が自分の胸元を押さえ、不思議そうに目を瞬かせる。


アイラは光が収まるのを感じながら、自分の手のひらを見つめた。

自分がしたことの重さと、止められなかった感情の余熱がまだ胸の奥でじんじんと燃えていた。



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