第八話 転生‼
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アトロポス様に呼ばれると、私とシルフリードは、部屋の一角にある、大きくて古そうな糸車がある所まで急いだ。アトロポス様、ケラシス様、クロートー様の三女神が糸車を囲んで何やら、こそこそ話をしている。
「え~~とね、まぁ、運命の糸が出来上がったんだけど……」
ケラシス様の歯切れが悪い。
ケラシス様は、アトロポス様に肘を突かれている。隣にいるクロートー様は、自分の髪の毛の枝毛を探していた。
三人の様子がどうもおかしい。なにかあったようだ。
「運命の糸を作ったはいいが、そのまま渡すと大人になる前に死んじまう」
アトロポス様が、気まずいのか声が小さい。
「「えっ、どういうことですか⁉」」
シルフリードと私の声が重なった。
「ほほほっ、ごめんなさいね。運命の内容は言えないのよ。そんなことしたら、私たちは仕事を失っちゃうから。代わりに、あなたが前世で長生きできなかった分、私たちからプレゼントを渡すことにしたの……」
ケラシス様は、懐から杖を取り出すと、杖の先を天に向けた。すると、杖の先が色とりどりの花火みたいに、きらきらと粒子が噴き出すと、漆黒の闇に金色やピンクやオレンジに光る、曼荼羅模様のような魔法円を三つ、作り出した。まるでイルミネーションのように美しい。
「うわぁ~、きれい……」
「上に見える3つの円が女神さまの加護よ。例えば、金色のあれは、瀕死状態になると、自動的に発動される幸運。ピンク色のは、悪意を感じ取る超直観力。最後のオレンジ色の奴は、身体能力向上の3つよ。身体能力向上の成長率はサービスして三倍に設定してあげる。努力を重ねれば重ねるほど、驚くほど強くなるわよ。他にも欲しい能力があるかしら? 今だけよ~」
「ん~、でしたらどんな言語でも話せる能力と、動物全般と話せる能力が欲しいです」
「あら、誰にでも会話ができる能力が欲しいの?」
「はい、クローデン星に行くなら、まず言語を理解しないと。あと、動物や魔物の言葉も理解したら、動物たちと共存共栄で豊かな暮らしができるかも」
ラケシス様の表情がにこやかになった。
「共存共栄か。いい言葉ね。気に入った! 全知全能にしてくれとか、無敵の体にしてくれとか、独りよがりの欲張った理由じゃないのね」
ラケシス様は、杖を動かしはじめた。杖の先から水色の光の粒子が飛び出すと、4つめの魔法円が空中に現れた。
「知恵のメーティス女神、幸運のフォルティナ女神、正義のテミス女神、健康のヒュギエイア女神、偉大なる四つの女神の名のもとにこの者に加護を分け与え給え。我が名は、モイライ三女神ラケシス。運命を割りあてる女神。悲運なこの者へ偉大なる女神たちのご慈悲を賜りますように」
すると、了承を得たかのように魔法円が輝きだした。出来上がったばかりの運命の糸巻へ魔法円が小さくなって吸い込まれていった。
「これで、ぎりぎり死なないかな?」
ラケシス様が小さく漏らした言葉に私は耳を疑った。
「ぎりぎりってなんですか? あと、悲運なこの者とは私のことですか?」
運命の三女神がぎくりとする。
「うっ、そ、そういうことは聞かないでおくれ!! ちゃんと能力を与えたから大丈夫だよ。まあ、大丈夫だって!!」
アトロポス様が私から視線を逸らし、しきりにおでこや鼻の頭を掻いている。
マイペースなクロートー様が思い出したかのように、慌てて立ち上がると、さらに奥の部屋へ急いだ。そして、なにやら奥から、昔懐かしい電話ボックスを台車に乗せて一人で運んできた。電話ボックスの電話には、なぜか受話器がない。
「じゃじゃあ~ん、これが転生マシーンです。芹奈はこれに乗って転生するのよ」
クロートー様のキンキン声がなにやら不安を駆り立てる。
「これって、昭和時代の電話ボックスじゃないですか?」
私がいうと、クロートー様はチッ、チッ、チッと人差し指を振る。
「ちがうんだなぁ~、これは、科学の粋を集めたすっごい機械なのよ!」
クロートー様は電話ボックスに入って、番号を何回かプッシュした。
「オッケ~、クローデン星の星の座標と、あなたが生まれ住む村の座標を入力したわよ!」
すると、好奇心の虫が騒いだのか、ヘルメスとリュークが電話ボックスの周りをじっくり観察する。
「ほ~っ、これが、転生送還装置なんですね。滅多にお目にかかれない貴重なものですよ。おや? ちょうど一人分入るのですね。試しにリュークが入って、見せてくださいよ」
「ふざけるな!! 俺は、閉所恐怖症なんだよ!! 知ってるくせに、そういう意地悪なとこが嫌いなんだ」
マジ切れしているリュークがギャンギャン吠えている。男神二人、じゃれあってキャーキャー騒いでいると、アトロポス様がブチ切れた。
「こら!! 二人ともやめんか!! 静かにせい!! このボケカスが!!」
大音量過ぎて、耳がぐぁん、ぐぁんしている。音波攻撃?
「ふぅ、やれやれ。芹奈よ。そろそろお別れの時間が来たようだ。あと、魔力は無限にしたから。それぐらいはサービスしなきゃね」
アトロポス様が私にウィンクをした。
「ん? 魔力が無限? なんで、そんなことをする必要があるんですか? それって、どういうことですか?」
矢継ぎ早に質問をする私を、軽く無視して、アトロポス様が出来立てほやほやの運命の糸巻を私に持たせると、せかすように背中を押されながら、電話ボックスの中へと入れられた。
ボックスの中に入った私は口から心臓が飛び出そうなぐらい緊張している。震えながらも目を閉じて、深呼吸をして心を落ち着かせる。
すると、遠くで見守っていたシルフリードが私に近づいてきた。
「おい、やっぱりお前、ともだちになれ!!」
ドア越しのシルフリードは、照れるのを抑え、頬を真っ赤にして伝えた。
「……分かった。今日から友達ね。シルフリード、クローデンで待ってる」
運命の糸巻を握りしめ、その時を待つ私。みんな並んで、指を数えているのが見えた。
「転生まで、5秒前、4、3、2、1、行ってらっしゃい!!」
手足が薄くなり、長い髪の毛が逆立ってなびいている。体中の皮膚が電気を感じはじめた瞬間、バチンという音と共に、一瞬で意識を手放した。




