第四十八話 精霊界へ行こう
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――しんしんと音もなく、雪が降り積もる。空を見上げれば、鉛色の重たい雪雲が精霊界の空を支配していた。
ヘルメスにしがみついている私は今、精霊界の上空にいる。幽体の体なのに、ここは何故か寒さを感じる。小さく震えながら、眼下に広がる広大な樹氷の森と荘厳な雪山を眺めていた。
《精霊界はもともと四季がないんだ。年中過ごしやすく、温暖な気候なのに、これほどまでに雪と氷で覆われるなんて……あっ、妖精の泉がガチガチに凍っている!!》
シルフリードの言う妖精の泉は、まるでガラスをはめ込んだかのような透明度で凍りついており、水底まではっきり見えていた。
「あの、雪山の後ろにひときわ高い山があるでしょ? あそこが、クリスタル様のエリアになっているよ。あそこは特に吹雪いているけどね」
「クリスタルが悲しんでいるせいで、俺ら精霊たちは迷惑をしているんだ」
プロックスが平然と答える。プロックスの後ろで頷いているスコティオス。
「迷惑? 君たち二人が氷の大精霊を怒らせたんでしょ?」
リュークは睨みつけた。
「とりあえず、近くの麓まで行って、氷の下級精霊に会ってきましょう」
❇❇❇❇
私は地上に降り立つと、そのまま、ズボッと膝まで雪に埋まってしまった。
「うわっ!! 冷たっ!! おっと、バランスが~~」
「気を付けて、セレーナちゃん!!」
リュークは私の腕をがっちり掴んで助けてくれた。すると、ニヤリと笑ったヘルメスは後ろからリュークを突き飛ばした。リュークが前のめりになると、腕を掴まれたままの私も、つられて新雪の上に派手に転んでしまった。降ったばかりの雪はフカフカで、冷たい。
「ちょっと、ヘルメス様!! 何してるんですか? 遊びに来たわけじゃないんですからね!」
私が、よっこらせと立ち上がると、新雪にリュークと私の人型の跡ができていた。
「うわ~、これ、意外と面白いね、セレーナちゃん。もっと人型を作ろうよ」
リュークの遊び心に火が付いたのか、飛び跳ねては、新雪にダイブをして、いろんな人型の跡を作りまくった。
「ふふっ。まったく、うちのワンコヤローは、雪遊びが気に入ったようですね。天界になんか雪は降りませんからね。よっぽど新鮮なんでしょう」
「おい、そんなアフロ神なんてほっといて、早くクリスタルに会いに行かないか」
プロックスが声をかける。いつの間にかリュークの呼び名が『アフロ神』になっている。プロックスは、光の縄に縛られたままだが、歩きやすいように自身の熱で足元の雪を溶かしていた。
「プロックスの後ろからついて行けば、歩きやすそうですね。君、先頭を歩いてください。その次にスコティオス。リュークはその後ろ、最後に君はコイツの後ろを歩いてね」
ヘルメスの言われた通りに四人並んでぞろぞろと道なき雪の上をせっせと歩く。ヘルメスだけ宙に浮かんで後を追う。
高原の中腹まで来ると、白い精霊がぶんぶんと飛び回り、行く手を阻んだ。
「あぁ君、氷の精霊だね。クリスタル様がずっと会いたいと思っていた人がここに来てると伝えてくれないか?」
ヘルメスが氷の下級精霊に取り次いだ。
氷の精霊は警戒心を露わし、八の字に飛んでいる。まるで蜂の様だ。
「クリスタル様が会いたがっていた人って誰の事です?」
「前世の娘って言えば分かるよ」
「ふん、嘘をつくでない。証拠は?」
ヘルメスが、腕を組んで考えると、リュークは異空間収納から水晶玉を取り出した。
「君たちがこの子の魂を直接見れば、きっと理解してくれるさ」
氷の精霊は訝しげに見ていたが、それならいいと納得をしてくれた。
私は、さっそく水晶の近くに両手をかざしてみる。
「あっ、光り出した。でも、青黒い傷が消えてきているね。今世で癒されたのかな?」
リュークが満足げな顔をしている。痛々しいほど、青黒い孤独の傷が今では三分の二にまで減っていた。
「相変わらず、光と白銀の織りなす魂は美しいですね。あっ、ほら、見つけたよ。ここに氷の結晶片があるのが見えるでしょ? これが、氷の精霊と血縁関係だという証拠さ」
ヘルメスが指をさすと氷の精霊は覗き込んだ。プロックスとスコティオスも水晶を覗いている。
「ウワァオ!! 本物ですね。確かに魂に氷の結晶の破片がある。血縁者の証拠です。これは、今すぐ大精霊様にお伝えしなければいけません」
氷の精霊は喜んで、すぐに山の方へ飛んで行った。
寒い中しばらく待っていると、上空から女性3人、男性2人がこちらへ向かってきた。
「うわぁ……奴らか。めんどくさいな……」
「なんだ? このメンツは。お前ら、クリちゃんになんの用だ?」
第一声を上げたのは金髪のドレッドヘアーに、金色の瞳、焼けた肌。勝気そうな顔立ち。黒いミンクの毛皮にロングブーツ。トラ柄のトップスに黒革のホットパンツという出で立ちに私は圧倒された。
(誰? この人)
「雷の大精霊、ブロンテ様かよ。なんでお前らここへ来たんだ?」
素っ気ない態度で、プロックスは質問する。
「そりゃあ、ご乱心なクリスタルちゃんを慰めにきたんだ」
「あら? 一緒にいるのは、もしかしてセレーナちゃんかしら? なぜ、ヘルメスも一緒なの?」
おっとりとした優しい声。金白色の長い髪をさらりとなびかせる。陶器のような肌に、桜色の瞳をした、美しい女性が立っている。真っ白な毛皮に、純白のマーメードドレス。この聖なるオーラは……。
「もしかして、光の大精霊アスピリア様ですか!?」
「正解よ!! あの魔法書は役に立ったかしら?」
舞い上がった私は思わず、声がひっくり返った。
「役に立つどころじゃありません。アスピリア様がくれたあの本で、どれだけ助けられたか!! 剣で刺された父も魔法書どおりに魔法を展開させ、助けられたのです。アスピリア様は、命の恩人と言っても過言ではありません」
「ふふふ、それは、あなたの努力のおかげでしょ? あなたが勤勉な人で良かったわ」
「いいえ、勤勉だなんて……。それに切羽詰まっていたし……」
「ねえ、ここは精霊界なのに、なんでさっきから人間の幽体がここにいるんだ?」
ブロンテ様が、不思議そうに私を見つめる。
「さっき、話したじゃない。この子がクリスタルのひ孫のセレーナちゃん。グローデン星の悪魔退治をした女の子よ。で、この派手なお姉さんは雷の大精霊ブロンテよ」
「初めまして、セレーナです」
「ふ~ん、あなたが。あの悪魔退治の映像を見たよ。でも外見が全然違うじゃん」
「あの……私、前世の魂のまま転生したんで、三歳児の体ですけど、中身は十五歳なんです。あと、5つ前の前世では、ひいおばあちゃんの子供でした」
5人の大精霊達は、びっくりして目を丸くさせた。
「いやっだ〜、クリちゃんのひ孫としか聞いてない!! ヘルメスったらなんで教えてくれなかったの〜!!」
アスピリア様は、ヘルメスを睨みつけた。
「なるほどな、納得した。まさか、三歳児があんな風に立ち回れないもんな。そうか、前世の魂のまま生きてるんだな。しかも5つ前の前世が、あのクリスタルの第一子かぁ〜」
ブロンテ様はジロジロと私を観察する。
ブロンテの背中からひょっこり小柄な女性が顔を出した。白い肌に、深いブルーの瞳。深海色のお団子ヘアーに、耳には貝殻のピアス。淡いエメラルドグリーンの着物をミニスカートにリメイクしたかのような独創的なファッションをしている。
「あなたの活躍は見ていたわ。私の水龍はずいぶん役に立ったでしょ?」
「わっ、もしかして、水の大精霊様ですか?」
「正解!! 私が水の大精霊のハイドリアよ」
「あの後、水龍様は大丈夫でしたか? 勝手な判断で半分に切ってしまって、すみませんでした」
「ああ、いいのよ、心配いらないわ。水龍は、一年ぐらいは養生しなければいけないけど、大して長い時間じゃないし。それより機転を効かせてくれて、こっちが助かったわ。転送してくれてありがとうね」
「いいえ、こちらこそ、水龍様とフルーランのおかげで何とか戦いを終わらせることができました。大きな戦力になりました。ありがとうございました」
頭を下げると、ハイドリア様は照れくさそうに耳を赤くした。
ハイドリア様の背後にでかい男性が立っている。
「俺は、土の大精霊ゲオテルス。お前の悪魔退治のモニターをここで見ていたぞ」
こんがり日に焼けた肌に、藁色の短髪、黄金色の瞳。ほりが深く、武骨で実直そうな顔立ち。中東の民族衣装のような服を身に着けていた。金のネックレスも凄いけど、大胸筋も凄い。大精霊たちの中で、一番大柄だ。
「今回の戦いで、優しい土の精霊にも助けてもらいました。もし、あのとき土の精霊に助けてもらえなかったら、悪魔と共に土の中で死んでいたかもしれません。本当にありがとうございました」
「律儀にも、礼を言ってくれるのだな。お主のことを好ましく思うぞ」
ゲオテルス様は、太い腕を腕組みをして頷いている。
「おい、次は私の番だ」
ひんやりとした風と共にミントの爽やかな香りがしたと思ったら、私のすぐ横に、ミントグリーンの緩い三つ編みの髪が、膝元まで垂れて揺れている。
見上げると、切れ長の目に、エメラルドのような瞳。クールで怜悧な顔立ちをした長身の男がいた。柔らかな薄衣を身に着け、天女の羽衣のような布を身に纏っていた。
《ゼフィロス様!!》
シルフリードの声が聞こえた。
明日はお休みにします。明後日土曜日の夜に投稿します。




