第十一話 シルフリードとの再会
一字下げをしないで、書いてみました。見やすくなれば、幸いです。
お昼ご飯を食べたルカお兄ちゃんと私は、早速体力つくりのためマラソンを始めることにした。
今日は、晴天で気持ちの良い涼しい風が吹いている。
「じゃあ、エール川沿いを上って、第一共同牧場を通って、ガーロン山の途中にある、へそ岩がゴールね」
お兄ちゃんであるルカが走るコースを決めていた。温かくなりはじめてから二週間。その時から開始した体力づくりは、目的地の半分しかたどり着けなかった。しかし、最近では余裕で一往復行けるようになった。驚異的な成長にルカは驚いた。
なんせ、こちらは健康の神様フィギエイア女神に、身体能力向上三割増しの加護をいただいているのだから、感謝しかない。
「あぁ、健康の女神様、ありがとうございます」
私は、天に向かって感謝の祈りを捧げた。
「ふふふ、セレーナはすごく頑張り屋だから、足が早くなったんだよ」
「違うよ、本当に神様の加護のおかげなんだよ」
そこは嘘を言ってない。
二人は、家を出てゆっくりと走り始めた。近所のおばさんたちに見られながらも、挨拶をする。私は、ルカの様子をこっそり横目で見た。
実は、私はルカの速度に合わせて走っている。多分、本気で走ったら、追い抜いてしまうからだ。なんせ、成長率が三割だから。もしこれで本気を出してしまったら、兄としてのプライドが砕け散って立ち上がれないかもしれない。
(ここは穏便にやらなくては)
気持ちいい風を連れて、私たちは下り坂を軽やかに走る。しばらく走ると、小さな木橋が見えてきた。
「橋の手前から、右の道に曲がるよ!」
二人は、川辺りを走り、第一協同牧場を通り過ぎ、ガーロン山の頂上へ向かう道を颯爽と走っていくと、一匹のシマリスが道を塞いだ。
《助けて、うちの子が川の真ん中で動けないの‼》
もちろん、ルカにはチュチ・チ・チとしか聞こえない。
「ルカお兄ちゃん、リスの子供が川の真ん中で動けないでいるんだって!」
「大変だ‼ 助けてあげなくちゃ」
実はルカにだけ、セレーナが動物の言葉が話せることがバレている。ルカお兄ちゃんには、皆には内緒にしてねと、口止めをした。変な子だと拒否反応されるのが怖かったから。ルカは素晴らしい能力だと言ってくれるけど、あまり大騒ぎにはしてほしくなかった。
森の小道に分け入り、さらに川の音がするほうへ向かって走ると、小川の真ん中の岩の上で身動きの取れない子リスが二匹いた。
《小枝の取り合いで喧嘩して、川へ落ちてしまったの》
リスのお母さんは祈るように私を見つめている。いくら小さな川でも春の雪解け水のせいで川が増水しており流れが速く深くなっている。それに小川の真ん中の岩まで約二メートルある。川の流れる音が、緊張感を生み出していた。
「セレーナ、僕は枝を探しに行くから、絶対にそこを動くんじゃないよ」
そう言い残すとルカは、長い枝がないか、近くを探しに行った。
(こんな時、シルフリードがいてくれたらな……。もしかして、魂と繋がっているなら呼べば来るかもしれない)
「シルフリード‼ 助けて‼」
セレーナは大きな声で呼んでみた。
「あんなに、大声で叫ばなくても、近くにいるぜ」
「わぁっ‼」
私がしりもちをつくと、シルフリードはクヌギの木の枝に座っていた。
その姿は精霊のままで実体化していなかったが、ベージュ色のハーフパンツに白い半そでシャツという随分とラフな格好をしていた。綺麗なミントグリーンの髪を後ろに一つ結びをして、少し長い前髪が風で揺れていた。久々に会う顔をみると、シルフリードも、心なしか緊張しているようにも見えた。それとも私の方が緊張しているのか。
「シルフリード、久しぶりね。元気にしていた?」
「ああ、まあな。ところでなんで急に俺を呼び出したんだ?」
シルフリードは怪訝そうな表情をしていた。
(せっかくの自由時間を邪魔されて、シルフリードは迷惑だったかな?)
「……実はね、お願いがあるの。あの小川の真ん中にいる子リスたちを助けてほしいの、お願い!」
「それは、【ともだち】としてのお願い?」
「そうよ。お礼に美味しいものごちそうするから。ねっ」
私は両手を合わせて、シルフリードにお願いをする。
「でも、今のセレーナならあそこまでジャンプできそうだけどな」
一瞬、体が固まってしまった。
「……それ本気で言ってる? あそこまで二メートルぐらいあるよ。幼児の私には危ないよ。シルフリードがあの子リスを捕まえてきた方が、確実じゃない」
「いやいや大丈夫、セレーナだったら、できるって。俺がフォローするから、やってみろよ」
思っていたよりもシルフリードの態度が随分と意地悪で冷たい気がする。そんなに、呼び出されたことが嫌だったのか。とりあえず、シルフリードがフォローするという言葉を信じて飛んでみることにした。
助走をつけるためにある程度距離を置くと、小川に向かって走り出した。勢いをつけて、川辺の岩を蹴り、セレーナは、ジャンプした。
しかし、三歳児。頭が重いのか、勢い余って前のめりに着地した。岩に手をつけていたので頭を強打することはなかったが、ちょっと危なかった。ごつごつとした岩で手のひらにかすり傷をつけてしまった。
《助けに来てくれてありがとう。人間の子供にしてはやるわね》
子リスはなぜが上から目線で私を褒めてくれた。とりあえず子リスを抱きかかえ、戻ろうと思った。
(……あれ?助走をつけなきゃ戻れない)
「シルフリード~助けて! 戻れなくなった」
「じゃあ、助走なしでジャンプしてみろ」
「いじわる! そんなの無理だよ‼ 早く助けてよ。契約していること忘れたの?」
そこへタイミング悪く、ルカが枝を持って戻ってきた。川の側に居たはずのセレーナが川の真ん中の大岩に立っているので、唖然とした。そしてブチ切れた。
「何をやってる‼ 大人しくしておけとあれほど言ったじゃないか‼ どうやってそこまで行ったんだ?」
「え~と、ジャンプした」
「嘘だろ⁉ まったく、君って奴は‼」
ルカは、枝を捨てて、ブツブツどう救出しようか考えているようだ。
「どうしたんですか? お困りごとですか?」
突然、シルフリードが実体化してルカの前に現れた。
ルカは、目の前の少年が何者だろうが関係なかった。
「僕が、村の人に助けを呼びますので、しばらくの間あの子を見ていてくれませんか? 僕の妹なんです」
シルフリードは少し意地悪そうな顔をした。
「……本当に見るだけで、いいのですか?」
「はい、見るだけでいいので、お願いします」
「了解しました。どうぞ、村の人へ助けを呼んでください」
ルカは、弾丸のように村の広場へと走っていった。
「あんな真剣な顔しちゃってさ、くくくっ……」
シルフリードは意地悪そうな表情で笑った。
「なにが、そんなに可笑しいの? こっちは川の真ん中にいて大ピンチなのに」
「だからさ、君がお兄さんにその能力隠しているのがいけないんだろ?」
「家では能力を隠さないといけないの‼ 今世では失敗しないように、手のかからないいい子でいようとしてるのに。他にも能力があるところを見られたら、ますます変な目で見られてしまう……」
「はは、君は相変わらず、自分のことばっかり考えているんだな」
シルフリードの顔が怒りにも似た表情をしていた。
「それ、どういう意味?」
シルフリードの含みのある物言いにセレーナは腹が立った。
「契約しているくせに、助けもしないなんて冷たいわね。あの時、天界であなたに優しくしなければ良かった。もういい。自分で何とかするから‼」
怒り心頭のなかセレーナはかがみこんで、ふくらはぎに力を込めた。
(そうよバッタよ、バッタ。足をバッタみたいに……)
「いち、にの、さん‼」
わたしは大きく腕を振ると、勢いで大ジャンプをした。今度はさっきより飛距離が足りない。小さな足で、川べりギリギリには届いたが、小さい足に重い頭では、体のバランスが取れず、体勢を崩した。その瞬間、後ろから川へ落ちながらも、子リスだけ親リスの方へ投げつけ、自分は雪解けの冷たい川へと落ちてしまった。
「えっ、あっ、セレーナ⁉」
一瞬、シルフリードが唖然とした顔をしたのを最後に、凄い勢いで下流へと流されていった。
冷たい川に流されている途中で、何者かが私の服を引っ張ると、冷たい川底へ引きずり込まれてしまった。
川の中へ引きずり込まれた瞬間、私は大量の水を飲んでしまい、同時に自分の口から空気が漏れ出す。
(がっはぁ!!……息が‼)
冷たすぎる川の水は体の深部まで鋭い痛みが貫き、息もできずに、もがき苦しみ、意識がだんだん遠のいていく。
(ううっ……くるし……い)
ほとんど意識を失いかけた時、急に体が軽くなった。私は再び死を覚悟した。
明日はお休みします。土曜日の19時前に投稿します。