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第30話

嘘ばっかりの解決回。

──轟!


「ひっ……!?」


屋敷のどこかから破壊音が響き渡り、ゴトーは自分を守るモノの無い恐怖に身を竦める。


幸いにも音はまだ遠い。ゴトーは震える膝を叱咤しながら決して早いとは言えない速度で廊下を進んだ。


その途中、無力化され廊下の端に転がされている警備の人間を何人か見かけたが、彼らは皆一様に意識を失い痙攣していた。何か薬でも使われたのだろうか? 生きてはいるが使い物にはなりそうにない。


泡を吹く彼らの姿に生唾を呑み込み、ゴトーは屋敷のある場所を目指して歩き続けた。


あるいはこの場合、真っ直ぐ屋敷から逃げ出す方が安全だったのかもしれない。だが身を守るモノがないという恐怖がゴトーから冷静な判断力を奪っていた。


──ガチャ!


「きゃっ!?」


目的の部屋へと辿り着いたゴトーは、勢いよくドアを開けて中に踏み込む。


ミモザに割り当てた客間。彼女は屋敷内で鳴り響く轟音に怯え、ベットの上でアイシャに抱き着き縮こまっていた。


「えっ?」

「だ、旦那様? 外が騒がしいようだども、一体……?」


ゴトーは突然の乱入に困惑する二人に無言で近づき、ミモザの腕を掴み上げる。


「きゃっ!?」

「旦那様、暴力はよくねぇだ!?」

「ええぃっ、邪魔だ!」

「っ!」

「アイシャ!?」


咄嗟にしがみついてくるアイシャを振り払い、ゴトーは苛立たし気に舌打ちする。


だが下手に騒がれ抵抗された方が面倒だと、ゴトーは焦りを押し殺して彼女たちに状況を説明した。


「ちっ。いいか、一度しか言わんからよく聞け。貴様と組んでいたローグがこの屋敷に乗り込んできた。ジグとかいう小僧だ」

「え? 何で──」

「黙って聞け! 理由など私が聞きたいわ! 奴は屋敷の人間を闇討ちして、今も警備の人間と戦っている! 狙いは恐らく私かお前だ! 別の拠点に避難するからついてこい!!」


ゴトーの言葉は嘘ではなかったが、本音でもなかった。


状況的に敵の狙いは十中八九自分だと考えていたし、仮にミモザが狙われているとしても彼女は自分と違い危害を加えられる可能性は低い。ここに寄ったのは万一の時にミモザを人質にする為だ。


「分かったらとっとと立て──」

「外に出るのは危ねぇだ!!」

「──っ!?」


ゴトーの足にアイシャが縋りついて訴える。


「オラたちが戦いに巻き込まれたらひとたまりもね! ここでジッとしてた方が安全だぁ!」


アイシャの言葉が自分たちの身を案じてのものか、あるいは置いて行かれたくないとの保身からくるものか、ゴトーには判断がつかなかったし、考える余裕もなかった。


「ええい、邪魔をするな!!」

「っ!」

「やめてっ!?」


ゴトーが蹴り飛ばそうと右足を後ろに引くと、アイシャは目を瞑って身を固くする。



「そこまで」

『────』



その場にいた全員が等しく絶句した。


彼はゴトーの肩を抱いてそっと囁く。何の予兆も気配もなく。突然その場に現れて。


屋敷に鳴り響いていた破壊音はいつの間にか止んでいた。


「────」


危害を加えられたわけでもなければ、脅されたわけでもない。


ただ彼はそこにいるだけ。


ただそれだけの事実が理解できず、どうしようもなく恐ろしい。


ゴトーはこの時生まれて初めて、蛇に睨まれた蛙の心地というものを味わっていた。


──ポン


「っ!?」


ジグに肩を軽く叩かれ、ゴトーは反射的にミモザの腕から手を放す。


ミモザがアイシャを引きずって咄嗟に離れていくが、ゴトーは止まっていた呼吸を再開するのに忙しく気にする余裕がなかった。


「安心しなよ。俺は別にあんたをどうこうするつもりはない」

「────」


散々暴れ回っておいてどの口で──と、そんな当たり前の反駁すら思い浮かばなかった。


何故こんなことを、とか。屋敷の人間はどうなった、とか。そんな当然の疑問すら何も。


ただこの時間が通り過ぎて欲しいと願い、貝になる。


この状況で危害を加えるつもりがないと言われても信じられる筈がない、が──


「──は?」


だがジグはあっさりとゴトーから離れ、部屋の端に移動して壁に背を預けた。


その意図が掴めず、目を瞬かせるゴトー。


「何故……?」

「だから俺の用事はもう済んでる。ここに寄ったのはただの付き添い。あんたに用があるのは俺じゃないよ」

「は──」

「──と、言うわけで、ここからは私が話をさせてもらいますね~」


と、ジグに続いてその場に現れたのは初めて見る赤髪の女。


突然のことではあったが、二度目であり、ジグと違って出入り口からの登場ということもあってゴトーの驚きは少なかった。


「サラ姉さん!」


代わりにミモザが困惑と驚きの混じった声を上げる。


それを聞いて、ゴトーはその名前が行方知れずとなっていたもう一人のローグのものであることを思い出した。


彼女は場違いに呑気な笑顔でミモザにヒラヒラ手を振って返し、ゴトーに向き直る。


「初めましてゴトーさん。ローグギルドを代表してお話を伺いにやってまいりました、サラと申します」

「…………」


優雅に一礼するサラを見て、ゴトーの心臓が少しだけ落ち着きを取り戻す。


ローグギルド。代表。お話。状況は掴めないが、どうやら彼女は今のところ自分を暴力でどうこうするつもりはないらしい。そして話が通じるのであれば、これは交渉──商人である自分の領分だ。


「……今、ローグギルドを代表して、と聞こえたが、聞き間違いかな?」

「間違いではありませんよ。私は長の代理人としてここにいます。それを証明しろと言われると難しいですが……強いて言うなら()がここにいることが、その一つの証拠でしょうか」


サラがそう言ってチラリとジグに視線を向けると、彼は肯定も否定もせず無言で肩を竦めた。


ジグが周囲から長の直弟子で懐刀と認識されていることはゴトーも把握している。


「それはつまり、今夜のこの狼藉はローグギルドの意向によるもの、ということかな? いや、私はこれでも真っ当──とは言えないかもしれないが適法に商売をしてきたつもりだし、ローグギルドと敵対した覚えもない。にも関わらずこのような無法……いくら騎士団が日和見とて黙っておらんぞ?」


ローグギルドの存在は公権力から黙認されているが、あくまで非合法の組織。当たり前の話だが、何をしても許されるわけではない。


そして犯罪者同士の揉め事ならまだしも、合法的に活動している商人の屋敷に押し入り、警備に当たっていた者たちを害したのは明らかにやり過ぎ。実行犯は勿論、ローグギルドそのものが処分を受けてもおかしくない──いや、処分を受けて当然の蛮行だ。


ゴトーはその点を指摘するが、サラはヘラヘラと笑う。


「あ~、その点についてはすこ~し、やり過ぎたかもしれませんね~」

「……少し?」

「ええ、少し」


正気か、とゴトーは耳を疑う。だがサラは悪びれる様子もなくニコリと笑った。


「これでも一応気を遣ったんですよ? 多少荒っぽくはなりましたが、それでもターゲット以外は誰も殺していません。屋敷で騒ぐなと言われてしまえばその通りですが、タイミングを待っていたら逃げられてしまう恐れがありましたので──」

「待てっ! 何を言っている? ターゲット? 殺していない……?」


サラの言葉を遮ってゴトーが疑問符を浮かべる。


ターゲットとは自分か、あるいはここにいるミモザのことではないのか? 今の口ぶりではまるで、既にターゲットを殺した後のように聞こえる。それに──


「おや、惚けちゃってます?」

「だから何のことだ!?」


意味ありげに目を細めるサラに、ゴトーはペースを握られていると自覚しながら聞き返すことしかできなかった。


「私たちのターゲットとはギルドに対し背信行為を行ったフラーラのことです」

「…………は?」

「そしてゴトーさん。貴方にもフラーラと手を組み、我々の利権を侵そうとした疑いがかかっています」

「……はぁぁぁぁぁっ!?」


意味不明な言い分、言いがかりにゴトーは顔を歪めて絶叫する。


フラーラがローグギルドの裏切り者? これはまあいい。事情は知らないがそういうこともあるだろう。粛清なら別の場所でやれと言いたいが、自分が彼女たちの一党を屋敷に詰めさせていたから場所を選べなかった、急いでいたのだと言われれば、大陸三周ほども譲れば理解できる寛容な人間も世の中にはいるのかもしれない。


だが自分がその裏切り者と手を組んでいたとはどういうことだ? ましてやローグギルドの利権を侵す? 全くもって意味が分からなかった。


顎が外れてものも言えないゴトーに、サラは「う~ん」と自分の唇に指をあて、コトの経緯を語り始める。


「状況が理解できていないようなので簡単に説明させていただきますと、今回の一件──ああ、私を含めた四人のローグがミモザ商会の出資者となった件ですが──これはギルド長の意向を受けてのことです。内々のことだったので、事情を知る者はギルド内でもごく僅かでしたけどね」

「え……?」


ミモザが驚いたような声を出すが、サラは無視。


ゴトーはそれには驚かない。可能性としては考えていた。


「……それは初耳だ。だが、それとこの襲撃とがどう繋がるのかね? まさか私がローグギルドの長の商売の邪魔になったから叩き潰しにきた、とでも?」

「まさか。ローグギルドはそこまで無法な組織じゃありませんよ。我々はそちらの業界に後から首を突っ込んだ側です。まっとうに商売してる方を邪魔だからなんて理由で排除することはありません。むしろそれを取り締まる側です」


サラの言葉は少なくとも建前としては正しい。ローグギルドは裏社会の支配者であり裁定者だ。裏社会の秩序が乱れ、公権力の介入を招くような愚行は余程のことがない限りはしない。


「先ほども申し上げた通り、今夜の一件はゴトーさんではなく、貴方が雇ったフラーラを処分するためのものです。その過程で多少そちらにも被害が出てしまいましたが、私たちにゴトーさんを害する意思はありません──少なくとも今のところは」


最後の一言を聞かなかったことにして、ゴトーは皮肉気に唇を歪めた。


「これが、多少かね。いや、君たちに常識を説いても仕方のないことかもしれんが……まあいい。それで、フラーラの背信行為とは何のことだね?」

「我々──ひいては長の利権を横から奪い取ろうとしたことです」


サラはそこでチラリとミモザに視線をやって続けた。


「もうお察しのことかと思いますが、我々がミモザ商会に出資した目的はそちらと同じ東方群島との取引利権です。そこのミモザちゃんは我々にもその伝手に関しては何も明かしてくれませんでしたが、我々はローグ。協力すると見せかけてそれを探るなんて朝飯前です。彼女が我々に気を許し油断したところで利権を奪い取る段取りでした」

「!」


ミモザがショックを受けたように俯くが、サラもゴトーもチラと一瞬視線をやっただけでそのまま話を続ける。


「ですがフラーラはその狙いに気づき、裏で我々の妨害をしつつ利権を掻っ攫おうと、あの手この手で探りを入れてきました」


そこでサラは懐からこげ茶色の羽を取り出す。


「それは──!?」

「おや? 見覚えがあるようですね」


思わず反応したゴトーにサラは薄く笑みを浮かべる。


それはゴトーがアイシャを通じて手に入れた、東方群島との取引の鍵を握る羽と同じものだった。


「これはフラーラが我々の商会から盗み出した東方群島との取引の鍵です。彼女はこれを利用し、我々から利権を掻っ攫おうとした」

「……だから、粛清したと?」

「ええ」


それだけで?──と言いたげなゴトーに、サラはあっさりと頷いた。


「ギルド員同士の騙し合いや揉め事はご法度。平構成員同士の争いであればギルドが介入することはまずありませんが、流石に幹部以上が関わっているとなれば話は別です」

「……本人がそのことを知らなかった可能性もあるだろう?」

「かもしれません──ですが、我々の業界で知らなかった、気づかなかったは通用しません。実際、他のギルド員は長が関わっている可能性を考慮して、この一件に関わろうとはしなかった筈です」

「…………」


ゴトーはサラの言葉を厳しいと感じつつも、自分たちと伝手のあるローグたちの反応を思い出し、頷かざるを得なかった。


つまりフラーラは、金に目がくらんで同胞の利権を横から掻っ攫おうとし、知らぬ間にギルド長という虎の尾を踏んでしまった、ということらしい。


もしそれを知っていたならゴトーにギルドとの仲介など申し出てはこなかったろう──いや、例の羽を持っていたということは、ゴトーすら謀って利用しようとしていた可能性もあるか。


ゴトーがフラーラの思惑を想像していると、サラは芝居がかった口調で奇妙なことを言い出した。


「フラーラは我々の利権を奪おうとした──ですがそう考えると、一つおかしなことがあります」

「……おかしなこと?」

「ええ。彼女がその利権をどう利用しようとしていたか、です」

「利用……──っ!?」


ゴトーはサラが言わんとすることに気づいて顔を引き攣らせた。


「仮に東方群島との取引利権を彼女個人が得たとしても宝の持ち腐れです。利権はあくまで取引をする伝手であり権利。商売に活用して初めて価値が生まれます。彼女個人ではそれを使いこなせない」

「…………」

「ではそれをローグギルドに売ろうとしていた? いえ、我々の後ろに長がいることを知らなかったとしても、あそこまであからさまに同胞を敵に回しておいて、それは流石に上手くない。では他に商いの伝手があった? 真っ当な商人であればうまい話であるほど警戒してローグなど相手にしないでしょうし、普通ならこれも考えにくい。──ですが一人だけ、このタイミングで彼女と接点を持ち、この利権に強く執着していた商人がいます」

「…………」


ここまでくればサラが何を言わんとしているのかは明らかだった。


「あれあれぇ? そう言えばゴトーさん。貴方先ほど、フラーラが盗んだこの羽に見覚えがあるご様子でしたね? ひょっとして貴方、彼女からこの羽を見せられ、一緒にローグギルドを出し抜かないかと取引を持ち掛けられていたんじゃありませんか? あるいは最初から裏で繋がっていた?」

「違うっ!! あれは別のルートで──」


否定しようとしてゴトーは一瞬言葉に詰まる。アイシャを通じて羽を手に入れたことを今このタイミングで明かすべきか、言って信じてもらえるか判断がつかなかったのだ。


「別のルート? そんな都合の良いものがあるのなら、とうの昔に利権を掌握していて良さそうなものですが」

「それは……」

「それに、つい先ほども雇った他の冒険者は抜きで、フラーラとだけ個別に何か話し合いをしていたそうじゃないですか?」

「────」


どこまで知っているのか。いや、サラの言っていることは誤解であり言いがかりなのだが、この状況は確かにゴトーがフラーラと組んでローグギルドに喧嘩を売ったようにも見えてしまう。


「──では本題です。ゴトーさん、貴方はフラーラと組んで我々ローグギルドの利権を侵そうとしたのか否か。答えていただけますか?」

「…………」


返答を誤ればローグギルドそのものを敵に回すことになる。


ゴトーは止めなく冷や汗を流しながら、腹に力を込めて口を開いた。


「……違う。誤解だ」

「へぇ? フラーラとは無関係だ、と?」

「そうだ。あの女が私に個人的に交渉を持ち掛けてきたことは事実だが、それは別件だ。今思えば、あの女はこの件にローグギルドの長が関わっていることを認識していなかったのだろう。今回の一件が後を引かないよう君たちを含めたローグギルドとの仲裁役を申し出てきたのだ」

「ははぁ。それが本当だとすれば彼女も随分大胆な──いえ、そちらから適当に利益をむしり取りつつ、蝙蝠のように立ち回ることで私たちからのヘイトを逸らそうとしたのかな?」

「……やもしれん」


呆れたように笑うサラの言葉を、ゴトーは苦々しく認める。


「ではこの羽に関しては?」

「……そこの老婆に金を握らせて探らせた。私も同じものを持っているが、手に入れたのはつい先日のことだ。このタイミングになったのは多忙か油断か、その娘の隠蔽が疎かになった結果だろう」

「ふむ? かなり苦しい気はしますが、一応筋は通ってますね」


サラは俯くサラとアイシャに一瞬だけ視線をやり、どちらともとれる曖昧な表情で頷く。


「もう分かっただろう!? 全て誤解なんだ! 私にローグギルドと敵対する意思などない! 後をつけたり買収したり、多少強引な手段をとったことは認めるが、その程度はどこの商人も普通にやっていることだ! あの女と組んでローグギルドを出し抜こうとしたなどあり得ない!!」


ゴトーの弁明を聞き終えると、サラはニコリと笑って手を叩いた。


「うん、分かりました」

「…………」

「誤解だと仰るのであればそれを否定する根拠はありません。ゴトーさんがフラーラと共謀していた疑いを完全に払拭することはできませんが、疑わしきは罰せずということで上には報告しておきます」


あっさり言い分を認めたサラに、ゴトーは拍子抜けして言葉を無くす。


「…………」

「ん? まだ何か……ああ! 屋敷の修理費や警備の方の治療費については請求して下さればこちらで補填させていただきますよ? 慰謝料や迷惑料までおっしゃられるのであれば、そこは応相談ということになりますが」

「い、いや、そこまでは……」


確かに修理費や治療費を請求してやりたい気持ちがないわけではないが、こちらも相手方にローグがいると知りながら迂闊な行動があったことは事実だし、そこまで言うつもりはない。ましてや慰謝料などと恐ろしい発想は全くなかった。


「そうですか? 今回の一件でうちはしっかり利益を確保できてるので、そんなに遠慮しなくていいと思いますけどね」

「利益……?」


何のことだろうか? 今回の一件はフラーラにかき回されてローグギルドも被害を受けた筈だが──と、そこでゴトーはハッと息をのむ。


「ええ。東方群島との取引ルートについては既にうちのギルドで掌握しています。そこから得られる利益を考えれば、修理費や治療費ぐらいは何てことないと思いますよ。フラーラに横槍を入れられるリスクもなくなりましたしね」

「!」


やられた、とゴトーは唇を噛む。


「そうか……部下から君の姿が見えないと聞いていたが、裏でそんなことを……」


サラはゴトーの言葉を肯定も否定もせず曖昧に微笑む。その代わりではあるまいが、彼女はミモザに視線を向けて付け加えた。


「商品の一部はミモザ商会にも卸してあげる予定なので、そちらとは商売敵ってことになりますね。ほら、流石にいたいけな少女から根こそぎ奪うっていうのはアレじゃないですか。ローグが何を言ってるんだって思われるかもしれませんけど、一応私たちにも世間体ってものがあるので、そこはご容赦くださいな」


その言葉にミモザは顔を上げ、喜んでいいのか怒るべきなのか分からない複雑な表情を浮かべた。


サラはそこでワザとらしくポンと手を叩く。


「──って、そう言えばミモザ商会って営業停止処分受けてるんでしたっけ? しかもその理由が『ローグが経営に関わってるから』? あちゃー。そういうことなら色々段取りを組みなおさないといけませんねー」

「っ……!」


サラが何を言いたいかは明らかだ。


ゴトーがフラーラと組んでローグギルドを出し抜こうとしたという疑いは完全には晴れていない。ローグギルドに敵対する意思がないと言うなら、それを言葉ではなく行動で示せ、と。


今回の一件で東方群島との取引利権はローグギルドに押さえられて手が出せなくなり、その上同じ業界でその商品を扱われるとなると踏んだり蹴ったりだが、この状況で半端な態度をとるのは危険だろう。ゴトーは苦渋の決断を口にした。


「……いや。それに関しては訴えを取り下げよう。私も、これ以上ローグギルドと事を構えるつもりはない」


それは事実上の敗北宣言だった──が、サラはそれに大きな溜め息を吐く。


「はぁ~……分かってませんねぇ」

「何を──?」


ムッとするゴトーに近づき、サラは口調を崩して囁くように言った。


「……うちと事を構えるつもりはない? 意図してかどうかは別にして、あんたはうちのトップの商売にミソ付けようとしたんだよ? 決定的な証拠がないから報復しないってだけで、その疑いが消えたわけじゃあない」

「…………」

「こういう話は裏社会であっという間に広まる。うちのトップと揉めた人間となんて誰も関わりたがらない。そうなれば今まで当たり前にできてたことも難しくなるだろうねぇ」

「…………」

「別に脅してるわけじゃないけどさ。この業界馬鹿な奴も多いから、こういう話を聞くと忠誠心を示すとか言って、頼んでもないことやらかす奴もでてくると思うわけ」

「…………」

「分かる? あんたはとっくに揉め事の渦中にいるの。それを誤解だって否定したいなら、それなりの態度ってものがあるでしょ? 中途半端じゃ意味がないの」

「…………」




ゴトーがサラに追い詰められ情けない百面相を浮かべているのを横目に見ながら、ジグはミモザの我慢がそろそろ限界に達しつつあることを察し、早く終われと無言で天井を仰いだ。

次回、答え合わせ。

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