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荒い運転

 教会の女神像は傷ひとつもなく、美しい形を保ったまま動物達を従えている。

 ギャンブルの快楽に溺れてしまったことで罰を与えられた、そう思った方が気持ち的には楽かもしれない。

 だからってこんな、獣の姿にされるなんて思いもしなかった。

 呪いを解く方法なんて本当にあるのか、先を歩く白い毛の兎男ことロックが言ってることを信じていいのかも分からない。

 裏の割った窓から出れば、薄明の空が広がっていた。

 とはいえ辺りは森林公園の木々が鬱蒼として、空以外は暗い雰囲気が漂う。

 どっかの裏道から入ってきたんだろう、丸みのある小さなベージュカラーの乗用車が停まっていた。

 ちゃんと車が駐車できるよう草や木を除去して、ギリギリ1台分のスペースを確保してある。

 当時の教会関係者が使っていたのかもしれない。

 ロックは自慢げに車を撫でる。


「よしよし、待たせたな」


 車に喋りかけてやがる。


「どうやって宝石を取り返すんだよ、なんか良い案があるのか?」

「焦るな焦るな、いいかい相棒、どんな仕事も準備ってのが重要なのさ。まずは便利屋に寄る、武器を調達する、それから……マルセル・ファミリーにご挨拶しようじゃないか」

「はぁ? ど、どういう意味だよ」

「まぁ乗ってから話をしようか、やったな相棒、この車は中古にも出回ってないレア車だぜ」


 車なんか移動手段ってこと以外関心ねぇよ……——。


 


 ――車内は激しく縦横に揺れ跳ねて、頻繁に頭が天井にぶつかる、フロントガラスに顔がぶつかりそうになる。

 道路になんの凸凹もなきゃ、ほぼ直進、あとはちょっとした軽いカーブがあるだけだっていうのになんでこんなに荒いんだ! 話どころじゃねぇ!!


「うおぉああっ!」

「随分はしゃぐじゃないか。お気に召したか?」

「おぅぅああっおま、お前免許持ってんのか!!」

「ちゃんと持ってるさ、自慢じゃないが免許取得してから一度も事故ったことがないのさ」

「嘘だろっ!?」

 

 この得体の知れない兎男と出会ったばかりだってのに、もう……嫌気が差してきた。

 地獄のような時間が続き、やっと、やっとだ、車がどっかに駐車する。


「あぁ――気持ち悪い……」

「さぁ着いたぜ、便利屋のところに行こうじゃないか」


 なんにも食べてないってのに、吐きそうだ。

 直角でもないコーナーを片輪が浮くぐらいの強さで曲がる奴がいるか?

 止まれの道路標識に差し掛かった辺りで、車窓を突き破る勢いで急ブレーキを踏む奴がいるか?

 車窓を開けて、外の空気を取り込んだあと、ふと凭れたシートからサイドミラーが覗ける。

 頭に生えた尖った三角耳と青みがかった黒い体毛、鋭い眼光と突き出た鼻、大きな口、くたびれたうえ血がついているビジネススーツ。 

 サイドミラーの角に手を伸ばす。

 そっくりの動きをする狼男が、俺だなんて、やっぱり夢じゃないのか。


「くそ……」


 ミラーの角度を下向きに変えると、車の後ろ側にある背景が見えた。

 古い2階建てバスを改装し、タイヤは側に積んであるだけだ。

 使われなくなった製材工場の路地裏にうまく突っ込んでいる。

 窓枠を切っては繋げてカウンターにしているような、多分、店だろう。

 呼吸を整えたあと車から降りて、謎の店へついていく。


「よぉビッグJ」


 カウンターの座席で寛いでいるのは、ふくよかを通り越した巨体の男。

 100㎏は軽く超えているであろう男を、ロックは「ビッグJ」と呼んだ。

 ボサボサの金髪、暴飲暴食で荒れた肌、気怠い表情を浮かべている。

 

「んー……よぉロック。仕事か?」

「おうとも、武器をいくつか調達してほしいんだ。費用はアル坊に請求してくれ。できたら派手なのがいい」

「んー、仲間か?」


 狼男がいても薄い反応だ。


「そう、最高の相棒、フリトさ。例の宝石を少年が横取りした、その情報も調べてくれ。シニョリーナは?」

「ダニエラなら部品探し……武器は今夜だな?」

「あぁ頼む」


 短いやり取りを終えればまた車に戻る……。

 乗る前にロックはタバコで一服、有害物質の煙が風に舞う。


「あいつもギャングとかの奴か?」

「いいや、ただの便利屋。自転車、オートバイ、乗用車、家電、武器までなんでもござれの知る人ぞ知る名店さ。相棒、銃の扱いは?」

「おい、俺はずっと真面目なサラリーマンやってんだ、一度もねぇよ!」

「おっとそうだった。まぁいいさ、武器はこのロック様にまかせて、アンタには力仕事を頼もう。さてさて、今夜の挨拶まで時間がある、まずはボスのところに行こうじゃないか」


 静かに笑って、運転席のドアノブに手を伸ばしやがる。短時間で刻まれた地獄の気持ち悪さが一瞬にして甦ってしまう。

 運転免許証をロックに見せ、


「待て! 俺が、運転する――」

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