メガネ限定付与魔法の誕生
「はぁ、はぁ、はぁ」
白い息を吐きながら、町外れの草原から走って戻ってきた。まだ朝早く薄暗い中、貧困街で活動している人はいない。いつもならぼんやりとしか見えない町の景色が落ちているゴミまではっきり見える。
目的地である場所であと少し。
『雑貨屋ファルガガ』
錆びついた鉄の看板を屋根につけた古びた煉瓦の家。
「ファルじいさん! ファルじいさん!!起きてください!」
まだ早朝で店は開いていないため扉を叩く。
「朝っぱらからうるさいのぅ。その声はルックか?」
立て付けの悪い扉を開けてくれてたのは、ドワーフのファルガガこと、ファルじいさん。身長は148cmと僕とほぼ同じくらい。もじゃもじゃした白髪混じりの黒髪はボリュームはすごいけどおでこの方から後退しているのがわかる。おなじく白髪混じりの黒いヒゲは胸元を隠すくらい伸びている。腕は逞しく筋肉が盛り上がり、手はゴツゴツしてる。お腹はめっちゃ出ていてタプタプしてるけど。昔あった事故の影響で目が悪いらしい。目の前にいる僕の顔もじっと目を細めてようやく分かるらしい。
「なんじゃその顔につけたヘンチクリンは?メガネのつもりか?」
「いいから、これをかけてみてよ」
そう言って僕は枝とツルで作り上げたメガネもどきを外して、ファルじいさんに掛けてあげる。
「な、なんじゃこれは!!?」
「どう見える?」
「あぁ、見える、見えるぞ。何でこんなもので、、、まさかルック、おまえの付与魔法なのか?」
「そう、そうなんだ! 付与に初めて成功できたんだ!!」
僕は喜んでそう返事をした。
「こんな木の枝とツル、濁った氷で出来たものにこれだけの付与を、、、ル、ルック、ちょっと待っておれ!!」
そう叫ぶとファルじいさんは店の奥に慌てて引っ込んでいった。しばらくすると興奮した様子でもどってくる。手に何か持っている。
「それってメガネ? ファルじいさん、メガネを持ってたの?? 貴族や商人のお金持ちしか持ってないんじゃ??」
ファルじいさんの手にあるのは薄汚れた灰色の金属で出来ていて、前にたまたま見かけた商人が掛けていたメガネは金色で豪華な作りだったけど、形は確かにメガネそのものだ。
「いやこれはメガネではないぞ。昔、どうにか自分でメガネを作れんかと試してみたんじゃが、肝心のレンズが作れんかった。まぁこれもガラスじゃから高価なものには間違いないがこれを掛けても目は良くならん。というかむしろ曇ったガラスのせいで何も見えん。
じゃがな。これにおぬしの付与魔法掛けたらどうなると思う?」
そう言いながらファルじいさんがメガネを手渡してくる。試しにメガネを覗きながら部屋の景色を見るが、白いモヤみたいになって全然、見えない。
「はよう、付与魔法をかけてみてくれんか?」
「は、はい」
うまくいくだろうか。うまくいくかもしれない。
期待と不安を胸に僕は付与魔法・視力強化を唱える。
「おぉ、、、」
ファルじいさんがツルで出来たメガネを外し、さっき付与魔法をかけたメガネに掛け直す。
「おおおお〜〜!!! 成功じゃ。しっかりと見えるぞい」
歓喜に震えているファルじいさん。いつも呆れられたり怒鳴られたりしていた自分の付与魔法がはじめて人の役に立ったことが嬉しい。
「ルック、効果時間はどれくらいじゃ?」
「えっと、、、」
僕が意識すると眼鏡の横にウインドウが現れる。
付与:視力強化
効果時間:あと2日
「あと2日って表示されてるよ?」
あれ、視覚強化の付与魔法の効果時間の基準は時間くらいだったはずと疑問に思いつつ口にする。
「ふ、ふ、2日じゃと!?? 視力強化の効果時間は確かベテランの付与魔術師でも効果時間を重視しても1日くらいが限度のはずじゃ。なるほどのぅ。同じ戦士クラスでも剣が得意なもの、斧が得意なものがおるように付与魔術師にも付与する対象に得意、不得意があると聞いたことがあるが、おまえさんの場合はそれが極端なんじゃろう」
「それってどういうこと?」
「いいか、ルック。おまえさんの付与魔法はメガネに付与することに特化した魔法なんじゃ。まぁ実験や検証はまだまだやる必要はあるがの。とにかくメガネにしかかけれない付与魔法。その名もずばり、メガネ限定付与魔法じゃ!!」
ビシッとファルじいが断言する。
メガネ限定付与魔法???
「あぁ、こうしちゃおれん。ルック、3日後にまた店に来てくれ。さぁ帰った、帰った」
よくわからないままファルじいさんから店から追い出されてしまった。鍵も掛けられた。
呼んでも返事もない。
え、えっと、、、え? これってどうしたらいい???