初心者ダンジョン④
今度の転移先は真っ白な空間だった。リノ、リュネも隣にいる。10m先には巨大なブヨブヨした半透明の物体が佇んでいた。
「ボスは巨大スライムみたいね」
「スライムだと、あたしの棍棒はあんまり意味がないかぁ〜」
リノがガッカリしてる。
「そうね、スライム本体にはあまり意味がないでしょうね。けど、あの巨大スライムが作り出す私たちの分身には役立つはずよ」
「分身、、? あ、そうだった。分身を作って攻撃してくるんだったな。よしっ!!」
リノが気合いの掛け声と共にみんなの先頭に立つ。巨大スライムの体がブルブルブルと震えると、腹部の部分が分裂する。さらにその塊が3つに分かれたかと思うと人型になっていき、僕ら3人とそっくりになる。装備も全く同じ。リノとリュネに化けたスライムがそっくりなんだから僕に化けたスライムも僕にそっくりなんだろうな。黒髪で冴えない顔つき。水色の瞳は妙に大きい気がする。自分を見るって不思議な感覚だ。
「くるぞ!」
リノが警告の声を発する。リノスライムが無言で突進してくる。見た目は同じでもなんというか無機質な感じがする。元がスライムだからか、ガチャガチャなる金属音もない。
「強打」
リノがリノスライムに向けて棍棒で思いっきり横に振って強打する。リノスライムのこめかみに直撃した。リノスライムの頭部がスライムになって吹き飛んだ。え? かわ、、いやすごい。
にしてもリノスライムは全く反応してなかった。攻撃のそぶりもなくただ闇雲に突進していた。
「リノは目が悪いから、よく人に当たったりしてたの。攻撃も全然当たらなくてちょうど今のリノに化けたスライムみたいにぶつかるのも、しょっちゅうだった。たぶんメガネの効果がないのね」
リュネが予想を口にする。なるほど、スライムの方は視力効果が付与されていないから、あんなことに。
「次は〜、、、、リュネは殴りたくないからルックだ!!」
リノがルックスライムに狙いをつけて向かっていく。いや僕なら殴っていいのか、、っていやそれよりリュネスライムの杖の先端に魔力が集まっている。
「リノ、リュネスライムが魔法を放ってくる!!」
「大丈夫よ」
僕の計画に対して応えたのはリュネ。なんでと聞こうとしたら爆発音が響き渡った。リュネの右半身が掲げていた杖と共に吹き飛んでいる。スライム吹き飛んだ部分がスライムに戻ってなかったら、、、想像すると吐き気がした。
「私、魔法をロクに使えなかったのよ。うまく魔力を操作できなくて暴発するの。流石にあんな風になったことはないけど」
そうか、リュネは色んな属性持ちのせいで魔力操作できてなかったから、そんな状態で魔法を放とうとすると暴発するのか。
「ルックに化たスライムもあっさり倒されたみたいね」
リノがルックスライムを殴打して倒していた。本来、こんなにあっさり勝てないはずだけど、僕らは問題がありすぎたようだ。
—————突然、ぼっと突風が巨大なスライムから放たれる。リノが突風に煽られてこちらまで転がってくる。そして巨大なスライムはまた僕たちそっくりのスライムを3体、生み出した。巨大といったが最初は3mくらいあったのが今は1m程度しかない。
「何回やってもおんなじだぜ!!」
リノが立ち上がり、突進する。リノスライムがそれを迎え撃つ。その後ろでルックスライムが付与魔法を発動させたのが、見えた。魔力の流れからルックスライム、リュネスライム、リノスライムに何かを付与しようとしてるのが分かる。きっと今の僕たちと同じように視力強化だ。ただその付与が弾かれた。
「元がスライムだから、メガネって認識されてない?」
これならルックスライムは仲間を強化できない。さっきと同じ展開になるはず。リノ同士の殴り合いをサポートすべく僕は槍を構えて前進する。
「ルック、私のスライムに気をつけて! たぶん自爆するつもりよ!!」
リュネが声をできる限り大きく張り上げて伝えてくる。リュネスライムは杖を胸に抱きしめるように抱えて魔力を溜めている。そして、リノの方に向かって歩き出す。リノはリノスライムを攻撃したがまだ倒せていない。リノスライムも反撃で棍棒を振り回しているため、戦いは膠着している。
僕は槍を突き出したまま走ってリュネスライムを狙う。槍なら多少は距離を稼げるはずだ。その間にルックスライムがまた付与魔法を発動させた。今度の狙いは僕とリノ。正確には僕とリノのメガネに向けて。
突然、体が硬くなった。ガチガチに全身が固まってうまく動けない。硬化の付与魔法? あれは人には掛からなかったはず、、メガネを媒体に掛けることができたのか、、僕が知らない掛け方でルックスライムはこちらの動きを再現してきた。
リュネスライムがリノスライムの隣まで来ている。リノは硬化していてまともに動けない。
ドーンっと爆発音と共にリュネスライムが自爆した。リノが爆発で吹き飛ばされる。僕も爆発の衝撃で地面に転がった。リノスライムとリュネスライムは四散している。壮絶な自爆だった。
「火球」
リュネがルックスライムに火球を放つ。立て続け2発目、3発目と放った。1発目を避けた方向に放れた2発目をかわすためにルックスライムは体制を崩して3発目は直撃した。その間に僕がリノの様子を確認する。よかった、生きてる。金属鎧を着込んでいたし、硬化の影響で守備力も上がっていたおかげかもしれない。
「付与魔法 筋力強化
付与魔法 視力強化
・筋力強化
」
僕は僕のメガネに付与魔法を立て続けにかけた。付与魔法での強化の重ね掛けは、失敗すると効果を打ち消すことができる。これで無理やり、ルックスライムにかけられた硬化の付与を解除するのと視力強化を再度、掛け直したあとに槍でルックスライムを攻撃する。肉を刺す感触にはまだ慣れないが穂先がルックスライムの胸元に沈む。穂先を引き抜くときに無色に近いスライムの液体が飛び散った。普通なら致命傷だけど、スライムだから分からない。もう一度、槍を突き刺す。グニャリとルックスライムが液状になり消滅した。
「はぁはぁ、、」
倒せたことで安堵と疲れが溢れる。
「まだよ。本体が残ってる」
リュネに油断するなと注意を受ける。残ったスライムに視線を向けると、特に何かをするわけでもなくただ佇んでいた。ここからがボス戦、本番なのだろうか。僕は槍をゆっくりと握りしめなおした。




