エピローグ 〜 クリアな世界 〜
寒い冬の早朝。吐く息も白い。防寒着どころかまともな服すら持っておらず、靴も薄皮の靴だけで寒くて寒くて仕方ない。
昨日、日が暮れる前に、ほんのわずかな厚みしかない水たまりに置いておいておいた細工の品を確認する。予想した通り寒さで、水たまりには、うっすらと氷が張っている。これなら大丈夫なはず。
細工といっても木の枝を2本、水たまりに突き刺し、突き刺した方の先端に8の字を横に倒したような形にツル草のツルを絡ませただけの簡単なもの。
持ち上げようとするとパキパキと軽い音で周りの氷が割れていく。ツルでできた丸の中の氷を割らないように周りの氷の膜を指先で砕いたあとに、2本の木の枝をゆっくりと引き抜いていく。
そのまま、そっと両耳に2本の枝を掛けて氷の膜を通して周りを見渡す。
耳や頬は冷たいし、氷は濁りすぎて景色が歪んでるし、むしろ何も見えない。
『付与魔法・視力強化』
下手くそ、ど底辺と言われた僕の付与魔法。
それでもひょっとしたらと望みをかけて唱えた呪文。
歪んだ景色が変わっていく。
透き通った氷。いつも以上にはっきりと見える景色。
朝焼けの空と草原がこんなにも、こんなにも、はっきりと視えるなんて。
「・・・なんて綺麗なんだ」