ⅷ
「二人ともが、重体だ」
「何……?」
ハーシェルとユリゼラの表情は、一気に不安と緊張を帯びたものになる。その視線を受け止めながら、クレイセスはまだ推測が大部分を占めることを前置きし、一連の事態を報告した。
「エルネスト公爵を、招喚しよう」
話を聞き終え、ハーシェルは開口一番、そう言った。
「クレイセス。メイベルは、こちらに引き渡してもらえないか」
「なぜだ」
「お前たちが戻って来たら本格化する、ちょっと面倒な話が議題として提出されている。それにあたって、セルシア騎士団が公爵家を弾劾する材料を得るのは、今はまずいんだ」
クレイセスは目を細めたが、推測出来ることはあるのだろう。
「少し、考えさせてくれ。それより、セレトを貸してもらえないだろうか。まずはサクラを着替えさせたい」
アクセルが湯を運んで来たのを見て言ったのに、ユリゼラが「私が」と名乗り出る。
「今からセレトを呼ぶのでは、せっかくのお湯も冷めてしまいます」
ハーシェルが「一人で支えられるのか?」と問えば、「大丈夫ですわ」と微笑む。「それに」と、ユリゼラはクレイセスに視線を移して言った。
「明日の朝までは、サクラのことは私が見ています。あなたも含めて、騎士たちは皆ひどい顔色をしているわ。まずは、休んで」
「そうしろ。俺もついているから心配するな。何かあればすぐに呼びに行く」
言うと、ラグナルも言い添える。
「私も、最奥の前で警護致しますので。ひとまずは」
ラグナルにまで気遣われるのは意外だったのか、クレイセスは僅かな逡巡を見せたのちに、「頼みます」と頭を下げ、騎士たちを連れて出て行った。それを見送ってから、「少しの間、お二人とも出ていらして」とユリゼラに言われ、ハーシェルとラグナルも最奥から出る。そこにはバララトとアクセルがいて、真剣な顔つきで話をしている最中だった。