ⅶ
揺られながら、クレイセスは眠り続ける寝台の二人を見つめる。こんな姿のサンドラとクロシェを見るなど、初めてのこと。自分が動揺していることは、自覚としてあった。
そして、腕の中で眠り続ける主君。
メイベルは宴の折、サクラに恥をかかせるつもりが返り討ちに遭い、さらにクロシェがあからさまな好意を示すことから、悋気を募らせていた。下手をすれば、彼女によって殺されていたかもしれない。
(間に合って)
(良かった)
ぐっと抱き締め、彼女が生きていることを確認しながら、己を落ち着かせる。
まさに、生きた心地がしなかった。
己の失態だけを苦く噛み締め、クレイセスは気持ちを切り替えるべく、今後へと頭を巡らせた。
*◇*◇*◇*
セルシア凱旋の報は、夜半、後宮にいた王の元に届いた。あり得ない時間帯に、ハーシェルとユリゼラは何某かの異変があったことだけを察しながら、最奥へと急ぐ。
「クレイセス!」
半年ぶりに見る従弟の振り向いた顔には疲労の色が濃く、もうそれだけで、ただならぬ事態が起きたことを確信する。最奥の主の姿はなく、奥の寝台を見れば横たえられた半身が、レースの向こうに見えた。
「昨日、サジェで襲撃に遭った」
「は? 昨日……? サジェって……あそこから一日で戻って来たのか」
本来なら三日を要する道程。それを一日半で戻って来るなど、強行軍にもほどがある、とハーシェルは騎士たちが疲れ切っている理由を悟った。不眠不休なのだ。
「フィルセインとメイベルが手を組んだ。サクラを攫われ……危うく、目を奪われるところだった」
その言葉に、ユリゼラが弾かれたように寝台へと駆け寄る。ハーシェルも遅れて様子を見に行けば、ぐったりとはしていたが、左目の下に薄く入った朱線以外に、傷は見られなかった。
「ガゼルはニットリンデンに残したんだったな。サンドラとクロシェはどうした」
いつもなら、このようなときには必ずいるはずの顔ぶれがないのに訊けば、「二人とも、ジェラルド邸に置いてきた」と、単調な声音が答える。