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腕の中をのぞき込んでいたツイードは、その答えに安堵したのか微笑み、そしてすぐ足許に横たわるのがクロシェと知って目を見開いた。
「ジェラルド長官?!」
「生きている。楽観視出来る状態ではないが、傷はサクラがすべて治しているようだから、あとは養生させる以外にやれることはない」
すぐに片膝をついて容態を確認する彼にそう言えば、「そう……ですか」と軽く眉根を寄せた表情になり、ゆっくりと立ち上がる。クロシェの副官を務めるツイードには、衝撃の大きさが一入であることも見て取れた。
「ここはエルネスト公爵未亡人の隠れ家のようだ。そこに倒れている、額に傷がある男の腕には、フィルセイン家の家紋がある。屋敷内をくまなく調べて報告を。私たちは怪我人を連れて、先に戻る」
「承知しました。護衛として半数をお連れください。バララト殿とは途中で行き会いました。馬車の手配と、レフレヴィー長官、ならびにアルゼットたちを回収してからこちらに戻るとのことです」
ツイードの報告に頷けば、隊を半分に分けると、すぐさま屋敷の中へと入って行く。
「バララトが戻るまで、襲撃者の身元がわかるものがないか、検めてくれ。手を組んでいる者が、まだほかにいるかもしれない」
御意、と低い声が一斉に応じ、それぞれ死体を検分し始める。バララトが合流する頃までには、いくつか手掛かりになりそうなものも見つかり、それらをツイードに託すと、クレイセスは急ぎ、王都への帰路に着いた。
バララトが調達出来たのは二台。大人が横になれる寝台が二つついた幌馬車と、鉄格子の嵌まった護送用。護送用にはもちろんメイベルを乗せ、中の監視にはバララトが入った。寝台にはサンドラとクロシェを寝かせ、クレイセスがサクラを抱えて間に座る。イリューザーも巨体をねじ込むようにして、通路に挟まった。馭者台にはそれぞれビルトールとアルゼットが座り、アクセルとシンのほかは、営所から借りてきた騎士たちに護られる形での移動だ。