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命の欠片 ―黒衣のセルシアⅣ―  作者: 吉野衣織
Ⅰ真夜中の凱旋
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「サクラ!」

 門扉を飛び越え、クレイセスは着地と同時に飛び降りるとサクラに駆け寄り、メイベルから離す。


「クレイセス……?」

 サクラを包んでいた淡い光が(しぼ)むように消え、(かす)かな声が自分を呼んだ。


「わたし……今、何を、しようと……」

「サクラ?」


 目を見開いてガタガタと震えだしたサクラに、クレイセスはその視界を(さえぎ)るようにして抱きしめる。メイベルの甲高(かんだか)い悲鳴はずっと()まず、けれど矢が刺さったままの腕を押さえて逃げようとするのを、駆けつけたカイザルが意識を落として取り押さえた。


「サクラ様! これは……ジェラルド長官?」

 アクセルが駆け寄り、足許に転がっているのがクロシェであることを見て取ると、そのあまりに血にまみれた姿に、胸元に耳を寄せて心音を確認する。クロシェの、見たことがないほど白い顔色に、先程の(ひたい)の痛みはまさか本当にと、クレイセスは抱き上げたサクラを支える腕に、自然と力が籠もった。


「生きています。ですが、ひどく弱い。怪我は……ないようですが」

 ざっと検分したアクセルが、「サクラ様が?」と見上げたときには、サクラはすでに、意識を失っていた。


「クロシェの怪我を治癒(ちゆ)したんだろう。両手が血まみれだ。……状態から見るに、クロシェは腕を、落とされたか」

「そのように、思います。左腕の服のつなぎ目が、ぐるっと完全に切れていますので。……サクラ様は落とされた腕を、繋げられたのでしょうね」


 青い騎士服は左側だけがやたらと血に染まっており、その部分だけが黒く見える。


「どのような状況かはわかりませんが、それでもジェラルド長官は全部仕留めたのですね。この人数、異能も含めておひとりでとは、さすがの腕です」


 バララトが、周囲に転がっている人間に息がないことを確認しながらそう言う。そして(ひたい)を切られた一人の袖を(まく)ると、「フィルセインとの繋がりは確実ですね」と、カイザルが荷物のように担ぐメイベルに目を遣った。


 男の腕にはくっきりと、フィルセイン家の紋章が彫られていた。

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