ⅳ
「サクラ!」
門扉を飛び越え、クレイセスは着地と同時に飛び降りるとサクラに駆け寄り、メイベルから離す。
「クレイセス……?」
サクラを包んでいた淡い光が萎むように消え、微かな声が自分を呼んだ。
「わたし……今、何を、しようと……」
「サクラ?」
目を見開いてガタガタと震えだしたサクラに、クレイセスはその視界を遮るようにして抱きしめる。メイベルの甲高い悲鳴はずっと止まず、けれど矢が刺さったままの腕を押さえて逃げようとするのを、駆けつけたカイザルが意識を落として取り押さえた。
「サクラ様! これは……ジェラルド長官?」
アクセルが駆け寄り、足許に転がっているのがクロシェであることを見て取ると、そのあまりに血にまみれた姿に、胸元に耳を寄せて心音を確認する。クロシェの、見たことがないほど白い顔色に、先程の額の痛みはまさか本当にと、クレイセスは抱き上げたサクラを支える腕に、自然と力が籠もった。
「生きています。ですが、ひどく弱い。怪我は……ないようですが」
ざっと検分したアクセルが、「サクラ様が?」と見上げたときには、サクラはすでに、意識を失っていた。
「クロシェの怪我を治癒したんだろう。両手が血まみれだ。……状態から見るに、クロシェは腕を、落とされたか」
「そのように、思います。左腕の服のつなぎ目が、ぐるっと完全に切れていますので。……サクラ様は落とされた腕を、繋げられたのでしょうね」
青い騎士服は左側だけがやたらと血に染まっており、その部分だけが黒く見える。
「どのような状況かはわかりませんが、それでもジェラルド長官は全部仕留めたのですね。この人数、異能も含めておひとりでとは、さすがの腕です」
バララトが、周囲に転がっている人間に息がないことを確認しながらそう言う。そして額を切られた一人の袖を捲ると、「フィルセインとの繋がりは確実ですね」と、カイザルが荷物のように担ぐメイベルに目を遣った。
男の腕にはくっきりと、フィルセイン家の紋章が彫られていた。