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命の欠片 ―黒衣のセルシアⅣ―  作者: 吉野衣織
Ⅰ真夜中の凱旋
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 イリューザーは金色の塊のように疾走していく。人通りの多い街道を横切り、人気(ひとけ)のない山道へと進み行くそれが急に、足を止めた。二つの細い道が分かれているのに、イリューザーは怒りを含んだ目で空を見上げ、空気の匂いを嗅ぐ。


「……っつ」

 クレイセスの(ひたい)に突如走った鋭い痛み。それに思わず手を当てれば、瞬間、クロシェの顔が(よぎ)る。


(まさか)


 フィデルは、それを持つ者の生死がわかるという。それは主君だけだと思っていたのだが、持つ者たちのそれが、互いにすべてわかるというのかと、クレイセスは指先が冷えていくのを感じた。ただそれにしては、バララトやアクセルにその気配は見られない。


「……お前は」

 大きめの羽虫が、勢いよく向かって来たのを払おうとして、クレイセスは寸でのところで止まる。それは飛べなかったはずの精霊で、目の前で(せわ)しく何かを伝えようと全身を使って動くのに、クレイセスは頷いた。


「連れて行ってくれ、サクラのところに」

 言えば、精霊は飛んで来たほうを指さすと、いち早く走り出したイリューザーの(たてがみ)に飛び込んだ。


 イリューザーの足にもう迷いはなく、四騎はそれを追いかける。




「あれは……!」


 アクセルが言うなり、手綱(たづな)を放して背にしていた弓矢を構えた。緩やかな下り坂、その先にある屋敷の庭に、いくつも転がる人型に囲まれて座したサクラと、小さな刃物を向ける、メイベルの姿。


 しかし遠目からでも、サクラの様子がおかしい。淡く金色に包まれた彼女には、抵抗の素振りすらなく、すでに意識がないようにも見える。


 クレイセスは姿勢を低め、全速力で馬を走らせた。


 その横を、アクセルの放った矢がすり抜けていく。それはまっすぐにメイベルに向かって飛び、刃物を握った彼女の手首を貫いた。


「きゃあああああ……!」


 目の前の絶叫に意識を取り戻したのか、貫かれた反動によって傷ついた頬の痛みに拠るものか、サクラが弾かれたように()()った。


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