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命の欠片 ―黒衣のセルシアⅣ―  作者: 吉野衣織
Ⅰ真夜中の凱旋
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 ニットリンデンの凄惨な状況については、クレイセスたちが詳細な報告を(したた)めていた。「楔」が、生まれて間もない精霊であることも、ただの黒い塊に見える姿のことも伝えられているから、ユリゼラには驚きしかないだろう。


「サクラは、凄いわね」

 しばらくして、ユリゼラがサクラを見て微笑んだ。

「黒くて小さな、何かの塊にしか見えない、と書かれていたわ。けれどこの子はもう、本来の姿を取り戻している」


「でも、まだ話したりは出来なくて」

「精霊は、精霊同士なら、思念や人には聞こえない音で意思の疎通をするそうよ。人の言葉を覚えてくれるまでには、とても時間がかかるものだと読んだことがあるわ」


 さらりと告げられた内容に、サクラは精霊を見る。

「あれ、じゃあ……あなた、ほぼ元通りってこと? 飛べるようにもなってるし……」

 サクラの問いかけに、精霊は首を傾げるようにして見つめ、やがてぴたりと首筋に抱きついた。


「あなたと、離れたくないと伝えてるように見えるけれど?」

 くすくす笑うユリゼラに、サクラはうーん、と思案する。


「この子、負の感情にさらされて変質したんですよね。今までは、騎士たちがくれる忠誠心の中にいたので、この子は姿を取り戻しやすかったと思うんです。でも……王宮の中だと、どうなんでしょうか……。どこから連れて来られたのか、ユイアトさんに訊いてみてもらえばわかるのかな……」


 首筋に取り付いた精霊を、指先でそっと撫でながら言えば、ユリゼラは頷いた。

「確かに、王宮というところは様々な感情の坩堝(るつぼ)だから、精霊が暮らすには不向きかもしれないわね」


 そこにノック音がしてサクラが返事をすれば、ユリゼラの侍女・セレトが、ユリゼラのドレスと食事とを用意して入って来た。


「おはようございます。サクラ様におかれましてはご無事のお戻り、お喜び申し上げます」

 セレトはそう言って深く腰を落とし、この世界における婦人の最敬礼をする。


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