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灯籠渡の浪人  作者: 川蝉
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序章 浪人

初めまして、川蝉と申します。

これからゆっくりですが書いていこうと思います。

よろしければ読んでやってください。

 息を吸う。


 息を吐く。


 息を吸う。


 息を吐く。


 目を閉じる。


 視界が漆黒に包まれるのと同時に全身の感覚が研ぎ澄まされていく。川底についた膝から下を打つ水の冷たさ。鼻腔をくすぐるほのかに香ばしく甘い香り、頬を撫でる冷えた朝の空気。

 それらの感覚が閉ざされた目に変わり、漆黒の視界に情景を浮かべていく。

 山間の宿場町を雄大に流れる川。そのほとりに聳える木々に咲き誇る橙色の花とそこからはらはらと舞い落ちる花びら。最初はモノクロで、最後は色まではっきりと思い浮かぶ。


 腰の刀に手を添える。片方は鞘を握り、もう片方で柄を握りしめる。微かに耳に届く金属音。


 息を吸う。


 息を吐く。


 息を吸う。


 息を吐く。


 少しずつ小さく穏やかに落ち着かせ、自らの呼吸音すら川を流れる音に紛れ込ませるように小さくしていく。


 それと同時に目の前の情景にほのかにあるはずのないものが写り始める。

 それは火を灯した古びた石の灯籠。長らく人の手入れを受けていないのか、その表面は苔むしてひび割れている。


 大きくなりかけた呼吸を整え、見えるはずのない幻覚を振り払う。今集中するべきは目の前を落ちていく花びらだ。


 息を吸う。


 息を吐く。


 息を吸う。


 息を吐く。


 一枚の花びらが目の前をゆっくりと落ちていく。ついていた足を上げて踏み出すのと同時に、刀を鞘から引き抜く。


「どうして助けてくれなかったの?」


「っつ」


 その瞬間、頭の中で響き渡る声。それを誤魔化そうと力任せに刀を振り下ろした。

 目を開く。目の前を舞い落ちていた花びらは斬られることなく落ちていき、そのまま水面に微かな波紋を作り着水した。


「ふぅ......。」


 ため息を一つついてから刀を鞘に収めた。目を閉じるとまた声が聞こえてきそうで、そうでなくとも声の余韻のようなものが頭の中にこびりついていて、どうしたらいいのか分からない僕は川の水面に顔を突っ込んだ。皮膚を突き刺すような冷たい感覚が、頭の中に残る声の残渣を洗い流していく。


「はぁ…ふぅ……。」


 水から顔を引き上げた。流れていく川の水面に顔から滴った水が幾つもの波紋を生んでいく。歪み映る自分の顔を見て、さっき思い浮かんだ灯篭の情景が蘇る。

 穏やかに火が灯る灯篭。あの灯篭は、あの道で見たものと同じだ。僕がこの世界に来ることになった、あの不思議な道にあった灯篭と---。

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