第7話「発電室へ強行突破大作戦」
「ミィ、ポチ太郎、遅すぎ」
俺は目を擦りながら言う。
「なんだよ、もしオイラ達が来てなかったらお前死んでたんだぞ!!」
相変わらず元気がいいポチ太郎。
「そうよ、力もないくせに偉そうに!!」
ミィはいつもと変わらずツンツンしてるし。
「力って・・・てかお前ら」
俺はポチ太郎が持っている殺虫剤をちら見。
「よく相手が虫だって分かったな」
「ああ、それなら、山田が教えてくれたのよ」
「山田って、あのクリオネ幼児の!?」
「そう、社長が店内の監視カメラの画像を送って山田が解析、その結果、三匹の半獣の中に豹と蜂がいるって事が分かったのよ」
「じゃあ、あと一匹は!?」
「それが、何か映りが悪くて解析できないんだってさ」
なんだそれ!?
「うぅ・・・」
やべ、秩父が目を覚ました!!
「よくも・・・わたくしの可愛い蜂ちゃん達を・・・」
「ポチ太郎、殺虫剤よ」
「あ〜い」
プシュ〜!!
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
顔面に噴射。容赦ねぇなコイツら。
「信良、寄居やその他まだ未発見の客は全員発電室にいるって山田が言ってたわ」
「そんな事まで分かるのかよ!!」
「早くいきな。ここはあたし達で何とかしておくから」
「わ、分かった」
俺は発電室の場所をミィから教わり、部屋を後にする。
そしてダッシュ!!
「真理子さん・・・」
早くしないと・・・まだ半獣は一人残っているわけだし・・・
とにかくダッシュだ!
「前より動きが遅くなっているぞ、烏森」
「うるせー」
豹太は両手に日本刀を構え、立て膝をついているブラックの前に立っていた。
「・・・っは!!」
豹太は一気に跳躍、右手の日本刀を水平にし、ブラックの脇腹目掛けて横に斬撃を入れる。
「くそっ!!」
ブラックは直ぐさま後躍し、斬撃をかわす。
しかし、豹太はそこから一歩踏み込み、左手の日本刀で追撃。
「くっ・・・」
ブラックはすぐに受け身の体制へ。両腕を顔の前で組み、斬撃を腕で受け止める。
ブシュッ!!
ブラックの腕から血が滴り落ちた。
「・・・どうした、その程度か?」
「はぁ〜、やりにくいなぁ〜」
ブラックは一瞬で烏の姿に変化。
「・・・なぁ烏森」
「ん?」
豹太は相変わらず隙を見せない。
両手には構えたままの日本刀。
「お前、もう一度こっちで働かないか?」
「あ!?」
驚くブラック。
「別にいいだろ?条件は悪くない。また昔みたいに派手に殺し合いしないか?」
「・・・・・」
しばらくの沈黙。
「・・・無理だな」
「何故?」
「確かに、昔は人間の殺意ってやつに興味があったから戦闘屋に入っていたんだ。だが、今は人間の恋心ってやつに興味があるんだ。戦闘屋じゃ、恋の悩みなんて皆無だろ?」
ヒュっ!!
豹太は右足を軸に回転、かなりの速さで斬撃を仕掛けた。
しかし、ブラックは一気にその場で上昇。斬撃をかわす。
「・・・やはり、お前の俊敏性はすごい。この俺の斬撃をこうも簡単にかわす奴など、他にはいない」
「簡単じゃないよ。かなりタイミングはシビアだし」
「・・・フッ、じゃあ俺もそろそろ本気で行くか・・・」
そう言うと豹太は二本の日本刀を投げ捨て、両腕を床に付けた。
そして・・・
「変化」
豹太は人間の姿から豹の姿に変化した。
「いくぜ烏森、気ぃ抜くなよ」
「・・・来な」
次の瞬間、豹太はブラック目掛け飛び掛かった。
「ここか・・・」
俺は何とか発電室に到着。
「・・・行くしかないよな・・・」
辺りはあまりにも静かすぎ。
何か不気味だなぁ。
「・・・・・」
改めて考える。
怖えぇ〜・・・
無音って、何か恐怖倍増させる気が・・・
「見つけた・・・」
「うわっ!!」
突然の声にスーパービックリ!!
軽く跳びはねてしまった・・・。
「・・・大丈夫ですか?」
声は後ろから聞こえる。
さぁ、勇気を持って振り返ろ、俺!!
くるっ!!
そして、そこにいたのは・・・
「な、なんだ・・・フコンか・・・ん?」
「どうしました?」
そこにいたのは明らかフコン。
しかし・・・
「・・・なぁフコン、その首に掛けてあるやつってまさか・・・」
コンバットヘルメットをかぶり、背中には大きなリュック、手には双眼鏡、そして首には黒い・・・
「これですか?これ、マシンガンです」
「なっ・・・」
お前は自衛隊かっ!!
「あ、ちょっと待ってて下さい」
その場でリュックをおろし、中をがさごそあさるフコン。
そして・・・
「はい!」
「・・・これって」
渡されたのはカンパン、ペットボトルの水、ヘルメット、防弾のチョッキ、そして、これは多分ハンドガン・・・
「さ、もうすぐ突入しますよ」
「・・・マジで?」
これは・・・銃刀法に違反するんじゃないですか
「くれぐれも、一般人には撃たないで下さいね」
「んな事、分かってるわっ!!」
ここに来て、何かテンションが上がってきた俺。
今なら行ける気がする!!
「・・・行きますよ」
「お、おう!!」
次の瞬間!!
ポイッ!
フコンが何かを投げた・・・なんだアレ?
ドカ〜ン!!
「ぶはっ!!」
ば、爆発した!!
凄い爆風・・・そして、発電室の扉が吹っ飛んでるし・・・
「フコン・・・今、なにを・・・」
「え?手榴弾を投げました」
「そ、そんな物まで・・・」
恐ろしい・・・
「さ、行きますよ」
超高速で発電室に突入して行ったフコン。
アイツ・・・何者なんだ・・・
「うわ・・・」
俺が発電室に入って最初に見たものは・・・床に俯せで倒れている大量の人間の姿。
「な・・・まさか・・・死んでる?」
変な異臭はしない、血痕などもない。
「・・・・・」
フコンは近くで倒れている人の腕を持ち、脈を計測中。
「死んでは・・・いないみたいです」
「そうか・・・」
ホッとした・・・って違う!!
真理子さん達を探さないと!!
「み、みんな〜!?いるぅ〜?」
発電室に響く俺の声。
「うぅ・・・」
不気味だ・・・物音一つしない。
その時
「誰だキサマ!!」
「・・・っ!?」
俺は部屋の入口の方に目を向ける。
そこには・・・見た事もない大男が立っていた。
「え・・・あの〜・・・その・・・」
誰だろ・・・?
「キサマ・・・もしかして川口のぶ・・・」
大男が何か言いかけたその時!!
ダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!
「あ・・・NOォ〜〜〜!!」
フコンが大男に向かいマシンガン発射!!
辺りに響く銃声、火薬の臭い・・・
「アカ〜ン!!」
脳内パニックin俺。
この狐、人にマシンガンぶっ放しやがった!!
しかも涼しい顔しながら撃ってるし・・・
「ふぅ・・・」
結局、弾切れになるまで撃ちまくり。
「あ・・・ああ・・・あああ・・・!!」
やっちまった。
「やりましたかね?」
「やりましたかね?じゃねーよ、完全に殺っちまったよ、コレ!!」
しかもさらに怖いのは・・・フコンの顔に一滴、血が付いている事・・・
右頬に一滴、紅いのがぴちゃっと・・・
「どーすんだよ、もう前科持ち決定だよ!!」
「大丈夫です。マシンガンと一緒にスコップも持ってきましたから」
「隠蔽する気!?」
恐ろしや、動物恋愛相談所・・・
「あ〜いたい・・・」
「へっ!?」
あれ、今、大男の声が・・・
「キサマ、不意打ちとは・・・卑怯なり!!」
「なっ・・・」
今・・・俺の目の前には全員血まみれの・・・大男の姿が!!
「なんで・・・さっき・・・マシンガンで・・・!?」
男はぴんぴんしている!!
「やはり・・・」
フコンは相変わらずマシンガンを構えたまま。
「え、やはりって・・・!?」
「あの男は半獣です」
「えっ・・・」
男は筋肉質のがたいのよい体、濃い顔、角刈りの頭。
「ほう、やはりキサマ、川口信良だな」
男は腕を組んだ。
「我は所沢鮫介、動物戦闘屋社長なり!!」
「しゃ、社長ぉ!?」
社長って事は・・・めちゃくちゃ強いパターンですな、これ。
「川口信良、依頼主からの命だ。キサマの命、我が貰う!!」
「い、依頼主!?」
誰かが俺を殺そうとしている・・・
やべえ、なんか・・・
「覚悟ぉ!!」
所沢は右拳を握り、俺目掛けて走り出した。
「・・・っ!!」
ヤバイ、恐怖と所沢の威圧で足が動かない!!
しかし、俺はそんな極限状態の中で、また違う事を考えていた。
誰かが・・・俺を殺そうとしている・・・誰が・・・なんで・・・
何か泣きたくなってきた。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ハッと気付いた時には、所沢の拳はもう俺の目の前にあった。
しまった・・・
「首、貰った」
ジ・エンドオブ・俺
「呪縛“蒼鬼火”」
もうだめだと思い、目をつぶった俺、しかし、いつになっても攻撃がこない・・・
「・・・あ?」
俺は恐る恐る目を開ける。
そこには・・・
「なぬ、キサマ、半獣か・・・」
「・・・はい」
「えっ!?」
俺のすぐ目の前、そこには所沢の姿があった。
しかし・・・所沢は殴り掛かるようなポーズをしたまま、ピタリと動かない・・・。
さらに、所沢の周りには蒼い炎みたいなものがぐるぐると渦巻き、部屋を蒼く照らしている。
「ひ、人魂!?」
もしかして・・・ここ、天国だったりして。
「川口さん、早くその場から離れて下さい」
「え?」
俺から数メートル先に、狐の姿に変化したフコンの姿があった。
「もうすぐ術が解けます。早くしないと殴られますよ?」
術?
と、とりあえず所沢の前から離れよう。
数秒後
「ぬおっ!?」
所沢は突然動き出し、その拳はさっきまで俺がいた床を激しく殴りつけた。
ど〜ん!!
床のタイルは木っ端みじんに・・・
「ぬぬ・・・キサマ、ただの狐ではないな?」
所沢の問いに、フコンはコクリと頷く。
「私は狐火山の白狐。白狐半獣のフコン」
「狐火山・・・なるほどな」
「・・・・・?」
人間の俺にはさっぱり分からない。
「狐火山・・・それは京都は山奥にある“白狐”を奉る神聖な山」
フコンが空気を読んで説明を始めた。
「“白狐”とは、神通力をもつ神の使い。世間的には伝説の生き物で、実際には存在しない生き物だと思われています」
「なっ・・・」
現実感ねぇ〜・・・
「本当はジャンルがコメディーのこの小説で、こんなファンタジーな事、したくないんですが・・・」
「うん、分かったからフコン、世界観ぶち壊すな」
白狐ねぇ・・・さっきの人魂も神通力なのかな?
「フハハハハ、中々面白いではないか」
あ、所沢の事忘れてた・・・
「今回の依頼は川口信良と、その周辺の半獣、つまりは動物恋愛相談所の奴らの抹殺。初めはつまらんと思っていたが、まさかこんなにレアな奴がいたとは・・・楽しくなってきた」
「・・・・・」
依頼主は俺が動物恋愛相談所と関わりがある事を知っている・・・!?
「まあよい、我は鮫半獣、陸であるここでは変化できん。が、半変化ならできる」
「半変化?」
所沢はかるく深呼吸をすると、目をつぶった。
そして、背中から何やらヒレが生え、皮膚は鮫肌みたいにざらざらになり、口からは鋭い歯が!!
「半変化、それは人間と獣の間の姿に変化する事。獣の力と人間の力を受け継ぐ代わりに、ものすごく体力を消費するため、長くは持続出来ない」
フコンが説明してくれた。なんか・・・物分かりがいいな。
「行くぞ!我の力、見るといい」
目つき怖っ・・・
俺はさっきフコンから渡されたハンドガンを構える。
そう言えばアイツ、さっきマシンガンを喰らってもへっちゃらだったんだよな・・・
さすが鮫肌。
でも、俺には今、武器はこのハンドガンしかないわけだし・・・
「鮫肌アタック!!」
うわっ!所沢が全身を使ってタックルを仕掛けてきた。
「くそっ!!」
一か八か、川口信良初射撃、いっきまーす!!
次回、信良&白狐VS鮫、烏VS豹、犬&猫VS蜂、各戦決着!!