もう何度目かのプロローグ
こんにちは
初投稿よ
よろしくね
「角が、生えてるな。」
「角が、生えてるわね。」
「はい、角が生えております。わお。」
「お、弟につ、角が?」
ある日ある場所に、一人の人間が誕生した。
いや、本当に「人間」であるのか。
彼の右半身の頭部には、生まれたばかりだと言うのに捻れを、禍々しさを感じる角がそびえ立っていた。
その右目も、「無垢」とは到底表現できない、視覚的にも感覚的にも血に染まった様な赤色であった。
形容するなら、悪魔。
そんな子供が、自分たちから産まれたという状況を目の当たりにして、彼の父と母は、
「おお、俺達の子供もこうなったか。角か…………強そうだしなんかいいな!」
「ふふ、こういうことも起きるものね。」
そんな子供を己が世話をするという状況に陥ったメイドと、そんな子供が己の弟であるという状況に直面した姉は、
「では明日以降のお世話は私が担当いたしますので。しゅぴっ。」
「お、弟…………つんつん…………さすさす………」
このように、実に淡白なものであった。
彼がこの世に生を受けておよそ半年が経った。
メイド達の世話を受けながら育っていく彼は、人並みの赤子だったが、一つだけ、何も無い天井を見て頻繁に笑ったり、手を伸ばすという奇妙な特性があった。
メイドは赤子にしか見えない空想があるのだろうと適当に完結させ気に止めなかったが、事実、彼には彼にしか見えないものが見えていた。
それは「光」。
太陽の光ではない。
色とりどりの、飴細工のような、夜空に浮かぶ綺羅星のような、そんな淡い「光」が彼には常に見えていた。
彼は言葉を、感情の名をまだ知らない。
そのため、根源から湧き上がる感動は最も簡潔な、笑顔という形で発露した。
彼が常人より早く己の四肢で動けるようになったのは、「光」を掴むためかもしれなかった。
彼が爆誕してから一年の月日が流れた。
四足歩行から二足歩行に進化した彼は、そのたどたどしい両足で「光」や虫を追いかけていた。
虫も「光」も、一度は掴めるが、しかしこぼれ落ちてしまう。
それをまた捕まえようと走り回り、走り疲れると寝る。
そんな彼には基本メイドが付き添ったが、時偶父親や、【学園】の寮から帰省した姉が付き添うこともあった。
母親は共に遊ぶことはなかったが、よく遊ぶ彼を眺めていた。
そんな日々の中で、彼が異常に広い屋敷の中をメイドの付き添いで徘徊していた時のこと。
すぐ近くの部屋から、一瞬ながら、色とりどりの「光」がこぼれているのを見た。
彼は湧き上がってくる好奇心にまかせて、部屋の中に入っていった。
そこには彼の父親がいた。
しかし「光」はどこにもない。
そこで不思議に思いながら父親に目をやると、父親の手のひらの上に、火が存在していた。
触媒が存在しないというのに、手のひらの上の虚空に火が灯っていた。
だが彼はその火を気にも止めず、ただ「光」がどこにもないことに首を傾げていた。
彼が入ってきたことに気づいた父親は、首を傾げている彼と手のひらの火を勝手に結びつけて、
「これは魔法だ。」
と、そう言った。
父親は一度火を消すと、もう一度火を灯す。
それだけではない。
父親は火に続けて水を、風を、土を、草を。
その手の上に、小さな「世界」を再現した。
その時彼は、そこにある非日常に目を奪われていた。
彼は弾けるような満面の笑みを浮かべた。
それはまさしく、極彩色であった。
父親が魔法と言ったそれが顕現するその一瞬、溢れ出す鮮やかな「光」。
彼の世界に散りばめられた「光」の粒達が押し固められ、一気に弾けたかのような圧倒的な美。
彼はまだ「美しい」とか、そういう形容詞を知らないため、やはり根源から湧き上がる笑顔で思いを表現する。
あまりに彼がいい笑顔を浮かべるため、だいぶ得意になっていた父親は、博覧会を五巡ほどした所で気がついた。
彼の反応が、魔法が発現するよりも早いのである。
その時父親はふと、彼が虚空に手を伸ばして笑うことがあったという報告を思い出した。
そこで彼の父親は、一つの仮説を導き出した。
「魔素が見えてるのか?」
いやしかし。
そんなはずが。
否定は幾つも頭の中に浮かび上がる。
しかし、彼はどうしてもその仮説を捨てきれなかった。
自分の息子に、改めて目を向ける。
苦痛を表しているかのようにより増長し捻れたその角と、どす黒い鮮血がそのまま眼球と化したかのような深紅の目。
その異常で異質な異形。
特異という、特別。
改めて直視して、父親は唾を飲む。
もう父親は、確信していた。
「ヌル。」
父親は、彼の名を呼ぶ。
そして彼――――ヌルを抱き上げると、希望の光に満ちた笑みを浮かべ、言った。
「お前は、勇者だ!」
ヌルの人生は「光」に、光に満ち溢れていた。
今日中にもう一個出しますね。