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02.なにか大事なものでもあるのかい?

 乾いた風が頬をかすめ、澱んだ空気がほんのりと漂っていた。


 農作業に励む村人たちが、手を止め、よそ者であるエクトルにちらりと目を向けると、無言で作業に戻る。その視線には、明らかな警戒がこもっていて、彼の存在がこの村の平穏な日常には明らかに馴染まない異物であることを示していた。


 ルニエ村に足を踏み入れた途端、通りの角に立っていた鎧姿の兵士が二人、見慣れない青年の姿に気づいた。


 一人は威嚇するような鋭い目つきでエクトルを睨みつけ、もう一人は軽薄そうな笑みを浮かべ、エクトルにじりじりと近づく。


「おい、お前、この村の者じゃないな?」


 先に口を開いた兵士が、無遠慮な態度でエクトルの前に立ちはだかり、値踏みするように彼を上から下までじろじろと見回す。その仕草には、自らがこの村を支配する者であるかのような横柄さがにじみ出ていた。


「ああ、ほら……関所の通行許可証を見せろよ」


 もう一人の兵士が、面倒くさそうに片手を差し出し、さも当然と言わんばかりにエクトルに命じる。言葉には疑いよりも、よそ者を見下すような侮蔑が込められている。


 エクトルは微かに肩をすくめ、冷静な無表情を保ちながらポケットから通行許可証を取り出した。それから、兵士の冷笑を真正面から受け止め、皮肉を込めた軽い笑みを浮かべて、こう言い放つ。


「こんな田舎まで、ずいぶん厳重な警備をしているんだね。よほど大事ななにかがあるのかい?」


 その言葉に、兵士の一人が表情を険しくしたが、もう一人はあくまで冷笑を崩さず、ゆっくりとエクトルから許可証を受け取った。その態度には、外からの者がなにを言おうと、決してこの地の秩序を揺るがすことはできないという、薄暗い権力の自信が漂っていた。 


「王都からの命令さ。……一月前、王都で反乱が起きただろう? 逃げ出した反乱分子が、どこかに潜伏してるらしい。俺たちはそいつらを見つけ出せってわけだ」

「反乱分子って?」

「反乱分子は反乱分子だ。……チッ、いちいち聞くな」


 兵士は苛立ちながら答えたが、どこか遠慮がちな、不自然さが混じっている。


(反乱分子か……ナイトシェードの名を、避けている……?)


 エクトルは一瞬そう思ったが、その疑問を口にすることはせず、淡々と頷くに留めた。それからも相手の意図を探りながら、慎重に言葉を選ぶ。


「なるほど。それでこんな静かな村にまで警戒を張り巡らせているわけか。……王都の恐れというのは、なんとも深いものだな。その反乱分子に対して」


 皮肉を込めたその言葉にも、兵士たちは気づく様子もなく、ただじっくりと通行許可証に目を通している。

 一人がようやく確認を終え、許可証をエクトルに返しながら吐き捨てるように言った。


「……本物のようだな」

「偽物だったら困る」

「違いない。……が、ほれ」


 その無遠慮な態度のまま、もう一人の兵士が手を差し出す。

 当然のごとく、エクトルは無言で硬貨を取り出し、兵士に渡した。


「よくわかってんじゃねぇか」


 兵士は硬貨を握ると、にやりと笑みを浮かべた。


 それからエクトルは、軽く頭を下げただけでその場を去った。彼の背中を追いかけるように、兵士たちの薄笑いが後方から聞こえる。反乱分子とやらを捕縛する任務を、彼らが暇潰し程度にしか考えていないのは明白だった。


(しょせんそんなものか、王国兵士は……)


 エクトルは小さく息を吐き、無言のまま村の中へと歩を進めた。

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