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星屑の咆哮 〜 六人の剣と魔獣士の槍〜  作者: ニンニクゴハン
5/15

星屑の咆哮 5

年内に完結させたくて、投稿スケジュールを金土日に変えました'~'


 天狼と鼓は、南の村の狩人をふたりずつ連れて、それぞれの帰路につく。


「ふん、せいせいしたぜ」

「千春、お前なぁ……」


 鼓の背中に向かってべーっと舌を出す千春を凛斗が諫めるが、千春は聞く耳を持たずにそのままズカズカと歩みを進める。


 佳蓮は佳蓮で、天狼を見送るなり木に登り、それから降りてこなくなってしまった。木の枝が揺れる音で、近い距離にいることはわかるのだが、はぐれてしまった時にすぐに気づけない可能性を考えると、できれば一緒に地面を歩いていてほしいところだ。


 そんなことは知る由もない佳蓮は、木の上での活動を満喫している。


「そう言えば、帰れずの山なんて物騒な名前だけど、ひとりだけ帰ってこれたやつがいたらしいな。そつは祈祷師だったらしいが、みんなは聞いたことあるか?」

「あ、あの、ぼくその話、聞いたことあります……」


 地面を歩く四人は凛斗の質問に首を横に振るが、木の上にいる佳蓮だけが違う反応をする。


「お、佳蓮ほんとか? 昨日の桜夜の考えがあってるとすれば、人の輪の中に帰しても問題ないと神に思われたんだろうな」

「戻ってからどうなったんだ?」

「さぁな。そういう話もあるって程度しか知らない。佳蓮は?」

「結局村に帰った頃には、居場所がなくなってて、しかたなく森の中で誰にも見つからないように、隠れて生活してたって聞きました」

「なんだそれ、後味悪いな」


 星辰と一緒に少し先を歩いていた千春は、佳蓮の話を聞き終えてから、小さな声で悪態をつく。


「みんな、ちょっと待って。何か音が近づいて来てない?」

「佳蓮、上から見えないか」

「な、何かって言われても……。あ、誰か、人が走って来てます! か、和楓さん、矢で威嚇しますか!?」

「待て、そこまでしなくてもいい」


 わざわざこんな山の麓まで追いかけてきて、ようやく人の姿が見えたと思えば、木の上から牽制されるのは、いささか不憫だ。


 和楓は今にも番えた矢を放ちかねない佳蓮を制する。


「やっと追いついた……」

「律空!?」


 かなりの距離を走って追いかけてきていたのか、律空は激しく肩で息をしている。

 星辰と桜夜は、突然の幼馴染みの登場に動揺しつつも、律空に駆け寄り背中をさする。


「どうしたんだよお前、何でこんなとこまで追いかけて来たんだ?」

「そんなの……ふたりのこと……心配で……」

「待て待て、聞きたいことはあるだろうが、先に休憩させてやれ」


 振り絞って出した律空の声は、荒い息の音で半ばかき消されている。それでも構わずに質問を続けようとする星辰と桜夜を、凛斗がなだめる。


 太陽はちょうど頭の真上の位置にまで来ている。それに村を出てからずっと歩きっぱなしだったため、いい加減休憩を取るべきだ。

 こんな場所を訪れる人間はめったといないが、六人は念のため道の端に寄って、各々楽な姿勢をとる。

 佳蓮は付近にある木の中で、一番低い場所にある枝を使って休憩している。


 しばらくして、ようやく呼吸も落ち着いてきた律空は、和楓が差し出した水筒を受け取ると、感謝を伝えてから遠慮なく水に口をつける。


「あんた、昨日の長老会議のあとに、おれたちを迎えに来てくれた人だよな」

「はい、律空です。よろしくお願いします」


 律空は四人それぞれに頭を下げて、丁寧に挨拶を済ませる。


「律空、怒ってたんじゃないの? どうして追いかけてきてくれたの?」

「怒ってたけど、それより心配が勝っただけだよ。ぼくが星辰に入れ知恵したようなものなのに、他の人たちを巻き込んでおいて、ひとりだけ安全な場所にはいられないしね」

「それで、プンプンしながら心配して追いかけて来た律空はこれからどうするんだ?」

「六人さえよければ、ぼくも一緒に旅をさせてほしい。みんなどうだろう」


 律空はそれぞれの顔を見ながら、一人ひとりに同行の許可を求める。


「ぼくに指示してくれる人が増えるってことですよね、なら賛成です!」

「弱かったら置いていくだけだ」

「だ、そうだ。和楓も賛成みたいだし、おれも人手が増えるのは大歓迎だ」

「ありがとう。足を引っ張らないように頑張るよ」


 新しく律空を迎えて七人になった旅の一行は、織に持たされた荷物から携帯食料を口に放り込んで、旅を再開する。


 草をかき分けて出来た道を歩いていた七人だが、進むにつれて草の背は高くなり、道は険しくなっていく。獣の臭いもかなり濃く、ピリピリとした剝き出しの敵意を肌で感じる。

 星辰たちは未開の地と、獣の縄張りに足を踏み入れたのだ。


 全方向から常に敵意を感じるというのは、想像以上に気力を消耗する。

 長く続く緊張状態により、肉体だけではなく、精神的な疲労も募っていく。


 会話もなく、黙々と歩き続ける六人。辺りからは、常に茂みの揺れる音が聞こえる。


「千春さん、止まってください!」

「なんだよ、ビビりチ──うわっ!」


 木の上にいた佳蓮が、突然千春を呼び止める。

 急に大声で名前を呼ばれた千春が、驚いて足を止めると、佳蓮の放った矢が、千春の側頭部のぎりぎりを通り過ぎる。


「おい、てめぇ何しやがる!」

「ひぃぃだって、何かが千春さんに飛び掛かろうとしてたからああ」

「なにこれ、大きいナメクジみたい!」


 木の上で委縮しながらも、千春に前を向くように佳蓮は促す。


 星辰の言う通り、異様なまでに成長した深緑のナメクジを、矢が貫通している。

 人間の頭ほどあるナメクジは、程なくして絶命する。


「囲まれてますよ! さっきまでいなかったのにぃぃぃ」

「落ち着け佳蓮。数はわかるか」

「色のせいで正確にはわからないけど、たぶん十匹くらいはいます!」

「わざとおれ達のそばで音を鳴らして、耳が慣れた頃に襲ってきやがったか……魔物の出現で、動物はこんなに賢くなるんだな」

「なに感心してんだ凛斗!」


 輪を作って近づいてくるナメクジの大群を前に、六人は背中を預けるように身を寄せ合い、千春以外は得物を構える。


「来るぞ……」

「わかって、る!」


 飛び掛かってきたナメクジに怯むことなく、千春は拳を叩き込む。


 ナメクジの身体を覆う粘液で、拳打の威力は削がれるが、これは千春の想定の範囲内だ。矢筒から矢を取り出して、転がっているナメクジにトドメを刺す。


「律空、頼んだ!」

「わかった」


 桜夜は、小ぶりな刀を二本とも抜刀し、そのうちの一本をナメクジに向かって投擲する。

 狙い通り深すぎず、浅すぎない程度に、桜夜の投げた刀がナメクジに突き刺さる。


 柄尻には二本の刀を繋ぐように鎖がついており、手元に残ったもう一本の刀を使って、少し距離のあるナメクジを引き寄せると、薙刀を構えた律空がためらいなく一刀両断する。

 そのままの勢いで、律空は背後に迫って来ていたナメクジも斬りつける。


 和楓は重い斧を振り下ろして、眉ひとつ動かさずに確実に仕留めている。今朝の言葉通り、まさに一撃必殺だ。

 間合いが短く機動力の低い和楓を、佳蓮の弓がうまく援護している。同じ村の狩人なだけあって、連携は完璧だ。


「ごめんね、できるだけ痛くないようにするから!」

「おまえ、めちゃくちゃ器用な戦い方するな……」


 槍を余すことなく使いこなし、手数が増えようとも身の安全を優先した戦い方をする凛斗と、体術も絡め、まるで短槍を手足のように振り回す星辰の戦い方は、同じ槍と呼称される得物を扱っていても、動き方はまるで違う。


 ようやく襲撃を切り抜けた頃には、空は茜色に染まっていた。


「疲れた……動きすぎて気持ち悪い……もうむり」

「いま横になったら寝ちゃうんじゃない」

「おれが寝ないように見張っててくれよ、律空〜」


 普段から狩りにも出ず、星辰と律空の準備運動に付き合う時にしか身体を動かさない桜夜は、大胆にも武器を手放して仰向けに寝転がる。


「そうだな、さすがに疲れたな」

「時間も時間だ、野営の準備を始めるか」

「おれ何すればいい?」


 早速野営の準備に取り掛かる星辰と和楓と凛斗は、雑談を楽しみながら火起こしに取り掛かっている。

 佳蓮は佳蓮で、いつの間にかどこかに行ってしまったようだ。和楓曰く、森で佳蓮が姿を消すのはよくあることらしい。


「飯、どうする? できるだけ持たしてもらった食料は温存したいし、今から探しに行くか?」

「いや、佳蓮がどこかに消えたなら、何かしらの獲物を見つけたということだ。時期に帰ってくるだろう」


 華奢な見た目に見合わず、佳蓮は相当な野生児のようだ。

 律空は寝転がっている桜夜の頬を時折り叩き、彼が完全に寝てしまわないように見張っている。


 特にやることのない千春は、少し離れた場所で得物の手入れをしていた。

 何度か弓でナメクジを殴っていたからだろう。丁寧に粘液を拭っている。


「和楓さん、ご飯獲って来ましたよ!」

「助かった」


 既に締めている、丸々と肥えたの成鳥を大切に抱えて、佳蓮は地面を走って帰ってくる。


「この鳥がこんなに大きく成長してるのは初めて見たよ」

「これも魔物の影響なんでしょうか。ぼくと目が合ったのに動く気配もなくて」

「ありえるね……こっちの調理はぼくに任せて」

「えぇなんでそんなに動けんの……」


 その場に取り残された桜夜は、律空の背中を見送る。

 まさか初日からここまで体力を使うことになるとは思わなかった。窮地に陥ればすぐに逃げてやろうと思っていた桜夜だが、果たしてそんな状況で逃げるだけの体力は残っているのだろうか。


 一抹の不安が脳裏を過るが、桜夜は思考を振り払うように頭を左右に振って、考えることを放棄する。


数え切れない回数の脱色により、髪の色落ちがかなり早いのですが、今週の頭くらいかは完全に栗色になってしまいました。

顔を覆う影の色が少し柔らかくなってしまった。

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