星屑の咆哮 4
交流を兼ねた朝食の時間を過ごした六人は、その後、安全な場所でできる最後の得物の手入れのために一度解散し、再び村の入り口で合流していた。天狼と鼓とは、途中まで道が同じため、ふたりが来るのを待っているのだ。
「和楓は斧で、佳蓮と千春は弓を使うんだね! 凛斗はおれと同じで槍使いかー!」
「星辰の短槍とは違って、おれのは普通の槍だけどな。──それにしても斧とはまた珍しいな」
「一撃必殺だ」
和楓が背負っている斧を、桜夜と凛斗が並んでまじまじと見ているせいで、隠れ場所をなくしてしまった佳蓮は、半泣きで近くにある家屋の陰に隠れている。
相変わらず千春はカリカリしており、特に会話に参加する様子はない。その様子は、悠然としている祖母の鼓とは似ても似つかない。
「千春は何にイライラしてるの?」
「あいつに関わったら、ろくなことにならないからイライラしてるんだ。ただでさえ付き人なんて嫌だったのに、こんな危険なことに巻き込まれるってわかってたら、自分で足折ってでも拒否したっての」
「あいつって鼓さまのこと? あ、それより千春は今いくつ?」
「聞いといてなんだよそれ。十八だ」
「じゃあおれと桜夜のひとつ上なんだね! そういえば佳蓮は十九歳って言ってたよ!」
「は? あのビビりチビが十九?」
千春の粗暴な態度は元来の性格のもので、それを反抗期だと凛斗に揶揄されているのだと思われがちだが、実際には反抗期真っ盛りなだけだ。
鼓と関わりのない場所では、穏やか──とは言い難いものの、年相応に落ち着いているし、星辰ほどではないが、反抗期のわりに素直な青年だ。
ただ、鼓と千春の間には、確実に深い溝ができているため、鼓の行動に巻き込まれる度に、千春は感情の制御ができなくなり、その苛立ちのせいで更に心が怒りに染まってしまうのだ。
「あら、待たせてしまったかしら」
星辰が構わずに話しかけ続けるおかげで気が逸れていた千春だが、鼓が視界に入ったことにより、再び苛立ちが募る。
「いえ、そんなことは──」
「おせーよ」
「おい千春」
「まったくあなたは。ほかの方々には決してそのような態度は取らないように」
鼓の忠告や凛斗の注意には耳を貸さず、千春は敵意のこもった目で鼓を一瞥してからその場を離れる。
「千春はまだ精神的にとても未熟ですが、それなりに腕は立ちます。できればよくしてやってください」
「はい、任せてください!」
星辰の返事を聞いた鼓は、昨日の星辰たちに見せたどの笑顔とも違う、少しだけ優しい笑顔を浮かべると、凛斗を連れて村の外に出る。
「あんな顔できるのに、孫とは仲悪いんだな」
「きっとお互いに譲れぬものがあるのだろう。──佳蓮、そろそろ天狼さまも来られるはずだ」
星辰と桜夜に見守られながら、物陰から出てきた佳蓮は、あっという間に和楓の陰に入り込む。
そうこうしているうちに、四人の狩人を連れた織と共に、天狼も姿を現す。
「佳蓮はまた隠れているのか。いい加減ひとりで立てるようにならんか!」
「うあああ、す、すみませんんん、やっぱり木の上じゃないと怖いんですううう」
天狼は呆れた表情でため息を吐くと、織から預かった狩人と本来の付き人を連れて、鼓と同じく村の外に出る。
「ふたりとも、昨晩の約束は忘れてはおらぬな」
「うん、ちゃんと生きて帰ってくる!」
「じぃちゃん、律空は?」
「出立の時刻は伝えておいたのだがな。来ておらぬのか」
「来てないよ。しばらく会えなくなるから、ちゃんと行ってきますって言いたかったけど、しかたないね」
律空が自分の意志でこの場に来ないと決めたなら、それは星辰や桜夜がどうこうできるものではない。少し寂しいが、別にこれが今生の別れというわけでもない。ほんの少しの寂しさを感じつつ、ふたりは覚悟を決める。
「行ってきます、織さま!」
「行ってきまーす」
「うむ、ふたりとも気をつけてな」
星辰と桜夜は、織に挨拶を済ませて、振り返らずに村を出る。




