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星屑の咆哮 〜 六人の剣と魔獣士の槍〜  作者: ニンニクゴハン
3/15

星屑の咆哮 3

 

 太陽の光を浴びて、星辰は思い切り伸びをする。

 朝特有の冷たい空気が肺を満たし、新しい一日が始まったことを実感する。


「早いな、星辰」

「あ、あの、おはようございます……」


 合流場所の小屋の前で、星辰が朝の軽い運動をしていると、背後からふたりに声をかけられる。

 天狼の付き人の、和楓と佳蓮の声だ。


 星辰は運動を中断して、いつも通り元気よく挨拶を返すと、佳蓮は小さな肩をビクッと震わせて、和楓の身体の陰に隠れてしまう。


 和楓はかなり大柄で、とても筋肉質な身体をしている。反対に佳蓮は男性にしてはかなり華奢で声も高く、律空と少し違うタイプの中世的な顔立ちだ。


「あれ、もしかしておれの声うるさかった?」

「いや、そういうわけではない。佳蓮は臆病でな。大目に見てもらえるとありがたい」


 和楓曰く、極度の人見知りの佳蓮が自ら人に声をかけるのは珍しいことらしい。星辰は改めて自己紹介を済ませて、和楓と握手を交わす。

 そのやり取りを和楓の陰から見ていた佳蓮と目が合い、星辰は試しに佳蓮にも手を伸ばしてみる。

 情けない声をあげて、佳蓮は完全に隠れてしまったが、それでも恐る恐ると星辰の手を握り返す。


「おれ星辰! って今聞いてたか! よろしくね、佳蓮!」

「ひぃぃ、ぼ、ぼくなんかがすみません!」


 佳蓮は逃げるように、大慌てで平屋の中に駆け込んでいく。


「佳蓮も元気いっぱいだね!」

「あれは元気とは違う気がするが……ともあれ、旅の間、よろしく頼む」


 和楓は星辰に会釈をすると、佳蓮の後を追うように、平屋の戸を引いて姿を消した。


 運動を再開してしばらくすると、大きなあくびをしている桜夜さくやがやってきた。

 手を振る星辰の顔を見るなり、桜夜はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。


「おはよー桜夜ー!」

「お前本当にうるさい……」


 桜夜は星辰の横を素通りして小屋に入っていく。寝起きの桜夜はいつも素っ気ない。しかし星辰がめげずに話しかけ続けていれば、すぐに相手をしてくれるようになる。

 運動もきりがいいので終わりにして、星辰は勢いよく戸を引く。


「ひぃぃ和楓さんんん」

「うるさいぞ、佳蓮さん怯えてるじゃねぇか」

「ごめんごめん!」


 朝から大騒ぎしていると、裏口から律空と桜子が朝食を運んでくる。

 どことなく虚ろな目した律空は、気の抜けた挨拶をすると、そのまま何も言わずに裏口から出て行ってしまう。


「律空ったら、昨日長老さまをお部屋に案内して戻ってから、ずっとあんな感じでねぇ。あんた達ケンカでもしたのかい?」


 思い当たる節はあるものの、実際にケンカをしたわけではないので、星辰と桜夜は首を横に振る。


 律空はとにかく心配性で、星辰が旅に出ることに猛反対していた。

 そのため、星辰と桜夜が長老会議に参加することを律空には隠していたのだが、長老たちをいつでも迎えに上がれるように、早い時間から平屋の外で待機していた律空は、旅に出ることを推し進めるふたりの会話を、幸か不幸か聞いてしまった。


 自分だけが蚊帳の外にいることや、長老たちが出立を許可してしまった以上、星辰と桜夜を引き留めることもできず、今の律空の中には無力感や憤りが渦巻いていた。


 律空の複雑な心情には、桜夜だけではなく、星辰も気づいている。

 だが律空に隠して事を進めると決めた以上、この件に関して、星辰たちから話を振る権利はないのだ。


「もう時間だってのに、あと一組は来てないんだね」

「きっとそろそろ来るよ!」

「そうかい。ふたりとも失礼のないようにね。──不束者ですが、よろしくお願いしますね」

「いえ、とんでもありません。こちらこそよろしくお願いします」


 桜子は和楓に頭を下げると、鼻歌を歌いながら小屋を後にする。


 ちょうど桜子と入れ違うようなタイミングで、玄関の戸が開く。何かを察知した佳蓮が、和楓の陰に逃げ込む。


「悪い、待たせたな。──ほら、お前も頭下げろって」

「うるせー。なんでおれが謝らなくちゃいけねーんだ!」

「だからそれはお前の支度が遅いからだろ! いや、申し訳ない、ほんと……」


 入ってくるなり凛斗と千春が言い合いを始める。

 人の好さそうな顔の凛斗は、千春の頭部と腕を掴んで、強引に頭を下げさせる。

 柔和な顔立ちに反して、凛斗はかなりの腕っぷしだ。


「はーなーせ! 面倒に巻き込まれるから、ババアの付き人なんてしたくなかったのによ!」


 目を三角に吊り上げた千春は、凛斗の手を振りほどいて、座布団の上であぐらをかく。


「ねぇ、ババアって鼓さまのこと? 千春のおばあちゃんなの?」

「そうだけど、お前なんでおれの名前知ってんの」

「いま千春って呼ばれてたから! おれ、星辰!」

「あっそ」


 握手を求めて伸ばした星辰の手を無視して、千春は頬杖をつく。

 行き場を失った悲しい状態の星辰の手が、元の位置に戻ってしまう前に、凛斗の手が星辰に差し出される。


「ごめんな~、こいつ今遅めの反抗期なんだ。──おれは凛斗。こっちは千春」

「誰が反抗期だ!」


 反抗期の見本のような態度の千春を見て、星辰の目はキラキラと輝いているが、また面倒な言い合いが始まる前に、桜夜が星辰の目をふさいでしまう。


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