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騎士ウェルタ

「ダリオには話したと思うが、俺は貴族の生まれだが五男坊だ。家督を継げる可能性はない。相続できるとしても家一軒が関の山だろう」

「そうなのですか……」

 貴族のことは分からなかったが、マナテアの向こう側でゴラルが肯いていた。間違いないのだろう。

「で、仲間はいるようだが、数は多くない。逆張りってやつだ。俺が与すれば当然それなりには遇してもらえるんだろう。どうだ?」

 そう聞かれても、ダリオはスサインが言っていたマナテアを逃がす先のことさえ知らない。どう答えるべきか分からなかった。ダリオは、助けを求めてサナザーラを見る。

「それは、騎士としてダリオに仕えるということだな?」

 サナザーラは、グラスを手にしたまま問いかけた。

「騎士として仕える? ダリオにか?」

「相応に遇されることを望むなら、騎士として仕えねばならぬのは当然。まあ、出世払いになるだろうがな」

 ウェルタからしたら、ダリオは薬の行商人にしか見えないだろう。サナザーラが、無理を言っているように思えたが、助けを求めたのに、今さら口は挟めない。

 ウェルタは、腕を組んで悩んでいたが、ややあって鼻息荒く言った。

「まあ、いいだろう。騎士としてダリオに仕えよう。だが、俺が騎士として仕えると言っても、その言葉を信じていいのか? 曲がりなりにも聖騎士……見習いだぞ」

 ウェルタに問いかけられた。ただ、ウェルタについても見極めるのはサナザーラの役目だ。

「ウェルタについても、信じるか否かは、サナザーラの判断に任せよと言われました」

 また、マナテアの時と同じようになるのではないかと危惧したが、サナザーラは興味がないとばかりにグラスを傾けていた。

「良いのではないか? ダリオに仕えるのであれば、見習いではなく正式な騎士、出世とも言えよう。それに……剣筋は悪くなかった。まだまだ未熟じゃが、素直な良い剣じゃ」

「サナザーラは、言葉ではなく、剣で判断するんですか?」

 驚いて尋ねた。

「当たり前じゃ。妾は剣士。言葉より剣の方が信じるに値する。スサインに妾に任せよと言われたのではないのか? 不満か?」

 どうにも理解しがたかったが、スサインはサナザーラを信じていた。ダリオも信じるしかなかった。

「いや、信じるよ」

 そう言うと、ウェルタが大きく息を吐いた。

「やれやれ、どうなるかと思ったぜ」

 そう言ってウェルタが立ち上がる。そして、長机を回ってマナテア達の後ろに来た。何をするのだろうと思っていると、サナザーラも立ち上がって近づいて来た。

 そして、何故か襟首をつまみ上げられる。

「何をしておる。立たぬか」

 サナザーラにつまみ上げられ、ウェルタの前に立たされた。サナザーラは、ダリオの右後ろに立っていた。マナテアとゴラルも立ち上がっている。

「騎士の誓いじゃ」

 サナザーラに耳打ちされ、ウェルタが両膝を着いた。

「我、ウェルタ・ホーフェンは、騎士として生涯変わらぬ忠誠を不死王ダリオに尽くすことを誓います」

「違う。やり直せ。我らは『騎士として魂が天に召されるまで』と誓うのじゃ」

 そうサナザーラが言い、ウェルタは怪訝な顔をした。

「大して違わないぞ」

「大違いじゃ」

 サナザーラに言われ、ウェルタはしぶしぶの呈で咳払いした。もう一度誓いの言葉を言うらしい。

「我、ウェルタ・ホーフェンは、騎士として魂が天に召されるまで変わらぬ忠誠を不死王ダリオに尽くすことを誓います」

 サナザーラが自分の剣を抜いた。今度は正しかったのか、その剣を手渡される。

「刀身の平らな部分で肩を叩け。軽くで良い」

「何か言わなくていいの?」

 小声で尋ねると「好きなようにすれば良い」と言われてしまった。ダリオは、サナザーラの重いロングソードで軽くウェルタの右肩を叩いた。

「ウェルタの忠誠に感謝します。白死病をこの世から消し去るために、いっしょに頑張りましょう」

 サナザーラからは「締まらぬな」と言われてしまったが、こんな時になんと言ったら良いかなど、見当も付かなかった。

「言葉などどうでもいい。だが、これで私が第一の騎士だな」

 ウェルタの一人称が元に戻った。何となくだが、この方が良いような気がした。そんなことを考えていると、サナザーラが妙なことを言いだした。

「バカなことを言うな。第一の騎士は妾じゃ」

「あなたも誓いを立てたのか? ダリオは作法を知らなかったようだが」

「とうに立てておる。四百年も前にな」

 その言葉を聞いて、ウェルタが眉根を寄せていた。

「それは、かつての不死王カスケードに対してだろう」

「妾にとっては同じじゃ。我が魂は、まだ天に召されておらぬ」

「そう言う意味なのか?」

 わざわざ訂正までさせられて誓わされた言葉に、ウェルタが戦いていた。

「いや、別の意味もあるぞ」

 サナザーラは、意味ありげな笑みを浮かべていた。

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