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ミシュラの帰還

ちょっと間が開いてしまいましたが、4章を開始します。


ただ、仕事が忙しくなってしまい、以前のような毎日投稿は難しいでしょう。

不定期で、2日に1回くらいのペースになると思います。


なお、4章で完結になるか、分割して5章で完結になるかは、未定です。

 ダリオは教会入口の階段に座り、通りを見つめていた。もう、あたりは真っ暗だ。それでも、ミシュラは帰ってこない。

 スサインの言う通りなら、あのスカラベオは聖転生(レアンカルナシオン)教会に関係している可能性がある。その謎に迫ることは危険だと言っていた。単に捕まえることに苦労しているのであれば良かったが、それにしては遅すぎた。

『ミシュラに頼むんじゃなかった……』

 ダリオは、かきむしるようにして上着の胸元を掴む。それでも視線を方々に延びている通りの先に向けていると、旧市外方面に向かう通りの先に強い(スフィア)が見えた。それは徐々に近づいて来ている。暗がりの中、通りの端を、建物に沿うようにして歩いてくるネズミだった。ただ、どこか怪我をしているのか歩き方がおかしかった。

 ダリオは、直ぐさま立ち上がった。(スフィア)を見れば分かる。間違いなくミシュラだった。

「乗って」

 駆け寄って手を差し伸べると、そのネズミはおずおずと手に載った。胸元に隠すようにして教会に駆け込み、作業場として貸してもらっている倉庫に入った。

「ちょっと待って」

 怪我をしているとしても、治療するなら人間の姿に戻ってもらった方がいい。ネズミ姿のミシュラを床に下ろし。彼女が着ていた粗末な服を横に置いてやる。そして、彼女に背を向ける。

「変身できたら変身して」

 しばらく耳を澄ませていると、かすかな衣擦れの音が響いた。

「もういいよ」

 聞き慣れたミシュラの声が響いた。ほっとして振り返る。彼女は左の肋骨あたりを押さえていた。

「どうしたの?」

「蹴られた」

 ミシュラは、顔を歪めて痛みに耐えていた。

「痛むのは胸だけ?」

「うん。他の所もぶつけたけど、大したことない」

「診せて」

 彼女が手で押さえていた辺りに軽く触れる。今でもガリガリに痩せているので、脇の肋骨辺りに触れれば、状態は簡単に分かった。

「骨が折れているみたいだね。魔法で治すよ」

 神聖魔法を使えることも、彼女には話してある。

「力を抜いて、僕の魔力を受け入れるようにしてね。それと、痛むだろうけど、我慢して大きく息を吸い込むようにして」

 ミシュラが肯いたことを確認し、彼女の肋骨に当てた右手に魔力を込める。

「我、ダリオが祈り奉り、奇跡を招来す。治癒(ヒール)

 苦痛に耐えていたミシュラの頬が緩む。

「すごい。痛くなくなったよ」

「大丈夫そう?」

 問いかけると、ミシュラは肩を引き、胸を張って深く息を吸った。

「うん。痛くない。大丈夫」

「それなら良かった」

 とりあえず、治療は終わった。ミシュラはスカラベオを咥えてはいなかった。蹴られたと言っていたし、何か問題が起こって見失ってしまったのだろう。ダリオは、そう考えてお茶を淹れることにした。顛末を聞くとしても、少し休んでからでいい。

 ところが、立ち上がったダリオの裾をミシュラに掴まれた。

「スカラベオが教会に行って、マナテアさんがそれを見たんだ。だから、異端だって言われて異端審問官って言う人が呼ばれるんだって!」

 ミシュラが何を言っているのか分からない。

「ミシュラ、ここを出たところから一つ一つ話してくれるかな。ゆっくりでいいから」

 彼女の両肩に手を載せ、こちらもゆっくりと話した。

「わ、分かった。えと、ネズミになって外に出たけど、スカラベオは見えなくて、匂いで追っかけたんだ……」

 彼女の話は長かった。結局、途中でお茶を淹れ、喉の渇きを癒やさなければ、最後まで辿り着かなかった。

「そのショールという人が、スカラベオを集めているみたいだね。司祭ってことは教会の人だと思うけど、どんな人かは分からないか……」

「ゴメン」

「それは仕方ないよ。ミシュラは名前を聞いただけなんだから」

 やはりスサインが言うように、白死病に関係しているスカラベオは、虫ではなく魔導具なのかもしれない。この話をスサインに伝え、彼の知恵を借りるべきだと思えた。

「ご苦労様だったね。すっかり遅くなっちゃった。クラウドやエイトにも謝らなきゃ。早く帰ろう」

 もう夕食の時間は過ぎている。食べる物は残してくれていると思うが、ミシュラがいつもやっている手伝いはできなかった。それを謝り、夜中に出かけることも言っておかなければならない。

 それと、マナテアのために異端審問官が呼ばれるという話も気になる。ただ、これはスサインに聞いても、彼女がどうなるのかは分からないかもしれない。トムラ司祭に聞けば分かると思うが、なぜそんなことを聞くのかと訝しがられるだろう。

 とにかく、今は白犬亭に帰り、夜中に出発する準備をすることが最優先だった。

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