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碧(あお)のスカラベオ 僕は世界を呪ってない!  作者: 霞ヶ浦巡
第3章 碧いスカラベオと遺跡の秘密
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不審なダリオ(ミシュラ視点)

 ミシュラは、教会の裏手に出て、干してあるトロコロを見た。そろそろ裏返した方がいいかもしれない。手に持った毛布を、物干し用に張ったロープにかけた。

 少し温かくなって来たこともあるかもしれないが、ついに毛布に余裕が出てきたからだ。新たに発生する患者が減り、長椅子にも空きができている。毛布を軽くたたいて埃を落としているとダリオも教会から出てきた。眠そうな目をしていた。

「そろそろトロコロを裏返した方がいいんじゃない?」

「あ、そうだね。今やっちゃおう」

 ダリオの言葉を聞いて、ミシュラは板の端に置かれているトロコロに手を伸ばした。ダリオは反対側から手を付けてくれるだろう。そう思っていたが、予想外なことにすぐ近くのトロコロを裏返し始めた。

「白死病の原因は、やっぱりスカラベオだよ。注意深く見て欲しいんだ。もし見つけたら捕まえて」

 ダリオが、声を潜めて耳元に囁いて来た。

「耳から出てきたっていう話?」

 マナテアから聞いたという話を、ミシュラも聞かされていた。

「それもあるけど、それだけじゃない。多分、間違いないよ」

 昨夜、ダリオはこっそりと出かけて行った。妙にそわそわしていたし、早めに寝ると言っていたので、ミシュラは気になって起きていた。どこに行ったのかは知らない。何か調べてきたのだろう。

「分かった」

 ダリオに秘密が多いのは昔からだ。問い詰めたところで教えてくれない。ただ、最近は急に秘密が増えてきたような気がする。

「それと」

 言い添えようとしたダリオの顔は、少し緊張しているように見えた。

「ミシュラも、スカラベオが体に入らないように気を付けて。多分、大丈夫だと思うけど……」

「でも、気を付けるってどうしたらいいの?」

 そう言うと、ダリオは思案顔になった。これでは、どう気を付ければいいのか分からない。

「寝る時に耳に何か詰めておく……とかかな? あと、鼻も」

 耳だけならできるかもしれない。しかし、そんなことをしたら、物音がしても目が覚めないかもしれないし、鼻なんて論外だ。

「無理だよ……」

 そう言うと、ダリオは「とにかく気を付けて」と言って手を動かし始めた。一応気にしておこうと決め、ミシュラも手を動かした。

『スカラベオを気にする』

 そう自分に思い聞かせ、ふと思い出した。

「スカラベオと言えば、ミーナさんがベッドでスカラベオを見つけて驚いたって聞いたよ」

 ダリオは、変な顔をして「ミーナさんって誰?」と聞いてくる。

「エイトの付き合っている女の人。白犬亭のお隣さんだよ。会ったことはないけど、エイトから、ミーナさんの話を聞かされる」

 ミシュラ自身は、ミーナの話をよく聞かされる。ダリオも、エイトと話していることは多い。同じように聞かされているんじゃないかと思ったが違うらしい。

「そ、そう。そのスカラベオはどうなったの?」

「藁の間に逃げ込んじゃって、どこかに行ってしまったって」

「いなくなったのならいいんだけど……とにかく、ミシュラも気を付けてね」

「うん。でも、このことはエイトにも話して、ミーナさんに言った方が良くないかな?」

 ダリオは、しばらく考え込んでいた。

「いや、言わない方がいい。スカラベオが原因だって話は、広まらない方がいいんだ」

 ミシュラは、それでは助かる人も助からないんじゃないかと思った。しかし、ダリオには考えがあるようだ。ミシュラは、無言のまま、次のトロコロに手を伸ばした。

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