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碧(あお)のスカラベオ 僕は世界を呪ってない!  作者: 霞ヶ浦巡
第3章 碧いスカラベオと遺跡の秘密
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スサインとの会話④(ダリオ、サナザーラ視点)

 そんなことを考えていると、背後に駆け寄ってくる足音が聞こえた。またアンデッドが迫ってきたのかもしれない。慌てて振り向くと、暗闇の中を迫ってくる紫色の(スフィア)が見えた。紅い(スフィア)も見えるがそれらは動いていない。サナザーラだろう。

 心の中に、安心と同時に不安も沸き上がる。思わず後退った。ここに入ったことがバレたに違いない。

 ランプの灯りが見え、それに照らし出された怒りの形相が見えた。

「ごめんなさい!」

 駆け込んで来たサナザーラが口を開くよりも先に謝った。

「誰が勝手に入って良いと言ったか!」

「で、でも大聖堂(カテドラル)への立入は許可するって……」

 一応、許可のことを口にしてみる。詰め寄ったサナザーラに胸元を掴んまれた。

「そう思っているのであれば、こそこそする必要は無いはずじゃ。違うか?!」

 こう言われると返す言葉がなかった。

「ご、ごめんなさい……」

 サナザーラが大きく息を吸い込んだ。ダリオが身をすくめると、意識に声が滑り込んできた。

「もう良い。ここまで来ることができたのだ。それに、これはその方の過ちでもある。予想してしかるべきであった。入口に、番兵を立たせるべきだったのだ」

 サナザーラが「うっ」と呻き、胸元を掴んでいた彼女の手が緩む。

「申し訳ありませぬ」

「覚醒前でも別に構わぬのだ。ここまで到達できればな。ここが上とは違うということを話していなかったのであろう?」

 サナザーラの手が外れた。

「はい」

「その方は言葉が足りないのだ。話していれば、灯りも無しに入って来なかったであろう」

 サナザーラはスサインに頭が上がらないようだ。彼女が、アンデッドとなったのもスサインが魔法をかけたからだと言っていたことを思い出した。

 同時に、ここが上とは違うという言葉も気になった。襲ってきたアンデッドのことだろう。

「ここは、上とどう違うのですか?」

 尋ねるとサナザーラと目が合う。彼女の困惑した顔を見るのは始めてだった。どう答えるか悩んでいるように見えた。

「ここは、この大聖堂(カテドラル)で最も大切な場所。地上の大聖堂(カテドラル)は、ここを守るための城壁のようなものだ。ここまでの通路には、例えサナザーラが討たれたとしても、この部屋を守り続けるためのアンデッドが配されている。サナザーラの意にも従わないアンデッドだ。故に証として(スフィア)を掲げ続けることのできる者とアンデッドしか入ることができぬ」

 サナザーラは、アンデッドだから入ることができたのだろう。

「やはり、途中で(スフィア)を掲げ続けることができなくなっていたら、危なかったのですね」

「八つ裂きにされていたじゃろうな。だから会わせられぬと言ったのじゃ。それを……」

 サナザーラは拳を握りしめていた。ただ、まなじりに光るものも見えた。心配して駆けつけてくれたのだろう。

「ごめんなさい」

 改めて謝ると、スサインが言った。

「ダリオはもう帰るが良い。また訪れても良いが、我が話せることは多くないぞ。今日は喋りすぎた。我も悔やんでいるほどだ」

 彼らにとって、そしてダリオにとっても、教皇庁と聖騎士団が最大の脅威なのだろう。彼らに目を付けられないことが、身を守るために最も有効な手段と考えられている。ダリオには、まだ知りたいことが山のようにあったが、これ以上は難しそうだ。

 それに、ここに来るまでにも時間がかかったし、スサインとは長話をした。時間的にも、そろそろ帰らなければならないだろう。

「分かりました。また来ます」

 そう言うと、サナザーラからランプを差し出された。

「灯りがないとつらかろう。証を示せなくなれば八つ裂きじゃぞ。妾は手探りでも問題ない」

「ありがとう。僕はこのまま帰ります」

 ランプを受け取って踵を返す。片手で(スフィア)を掲げ、気合いを入れて走り出した。


     **********


「申し訳ありません」

 ダリオの足音が遠ざかり、サナザーラは宝玉(オーブ)に向けて跪いた。

「立ちなさい。この身に形は不要だ」

 サナザーラが静かに立ち上がると、再びスサインの声が響く。

死霊術師(ネクロマンサー)ではないその方に、ここまで辿り着くことができる者なのか、そうでない者なのか判断することは難しいであろう。仕方のないことだ。しかし、あの者の行動を予測して居なかったことは失策だぞ」

「はい」

「その上で問題なことは、今後もあの者が止まらないかもしれない……いや、止まらないであろうということだ」

「やはり妾が出向くべきか?」

 サナザーラは、腰に下げたロングソードに手をやった。いざとなれば、チルベス中の騎士と剣を交える覚悟もある。

「それは下策だ。目立ちすぎる。どんなに身を潜めたところで、数日で伯爵夫人(カウンテス)が攻めてきたと大騒ぎになるだけだろう。それに、チルベスまで行けば大して力を振るうこともできない」

「そうなると、妾にできることは白犬亭の主に鳩を飛ばし、報告させることだけじゃ」

「それは行いなさい。他にも考えるが、今は神に祈るくらいしかできそうにないな」

 ここにスサインの姿はない。もし姿があったなら、彼は首を落として嘆息していただろう。

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