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碧(あお)のスカラベオ 僕は世界を呪ってない!  作者: 霞ヶ浦巡
第3章 碧いスカラベオと遺跡の秘密
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スサインとの会話②

 ダリオは、スサインの話を聞き、必死に思考を巡らせた。

「だとすれば、スカラベオを体に入らせないようにすれば、白死病は防げますか?」

「常にそうしていれば可能かも知れぬ。だが、今まで発生してきた白死病蔓延の経過を考えても、白死病が発生してから体に入らせないようにしても無駄かもしれない。スカラベオが体に入り、直ぐに白死病が発病するとは限らぬ。むしろ、ある程度経過してから発病する可能性が高いだろう。特に、誰かが人為的にスカラベオを使っているなら、そうしている可能性が高い」

「人為的ですか?」

 ダリオが問うと、スサインはさも当然とばかりに答えた。

「魔導具ではないかと言ったはずだ。スカラベオが原因だとすれば、それを用いた者がいると言うことだ。そして、そのことを悟られたくはないだろう。原因がスカラベオだったとしても、今までスカラベオが一度も目にされていないとは考え難い。白死病とスカラベオを結び付けて考える者がいなかっただけではないか。そのようにするためには、スカラベオが体に入った時と発病の時をずらした方が良い。魔導具なら容易いことだ」

「では、白死病が発生し始めた時には、既にスカラベオが患者の体の中にいて、発症させる時を待っているということですか?」

「我ならば、そのように魔導具を作る。その可能性が高いということだ」

 そう言ったスサインは、スカラベオが魔導具だった場合の仮定の話として語ってくれた。

「そのスカラベオは、誰かが魔導具のスカラベオを撒き、人々の体に潜り込ませた後、しばらくしてから生命力を吸収し始めるのかもしれぬ。その後、何かの合図があるのか、それともある程度の期間が経過することで、魔導具自らの判断で吸収を始めるのかは分からぬ。いずれにせよ、生命力の吸収を始めると七日間にわたって吸収するのだろう。そして、患者が死亡したか、あるいは七日間の吸収する期間を経た後に体からでるのであろう。その後のことは分からぬがな」

 確かに、彼が言う通りの魔導具なのであれば、病の経過は白死病と同じようになりそうだ。

 魔導具のスカラベオによる生命力の吸収は、魔法のようなものなのかもしれない。強い(スフィア)を持ち、魔法抵抗力が強い者は、生命力の吸収に対して耐性があるのだろう。

 ウルリスは(スフィア)の強い者に治療を施していた。そうだとしたら、吸収される生命力が少なく、スカラベオも光らなかったはずだ。だから気が付かなかった。そして、マナテアの見たスカラベオは、魔法抵抗力が低い患者に、特別多くの治癒(ヒール)をかけた結果だったから、碧く光っていたのだろう。

 そこまで考えて、導き出される結論に気が付いた。

「では、七日間経過して、患者の体から出てきたスカラベオは、誰かが集めているのではないですか? 集めている人を見つけ出して止めさせれば、もう白死病を発生することはなくなるってことではないですか?」

 ダリオの言葉に、スサインはなかなか答えてくれなかった。

「話し過ぎたようだな……確かに、そうかもしれぬ。だが、この推測が正しければ、その者、いやその者の仲間は、四百年間、これを続けて来たということだ。その方に止めさせることができると思うか?」

 その者が誰なのか断言することはできない。証拠はない。しかし、不死王の呪いが原因だとして、四百年間これを続けていたとすれば、大きな力を持った組織であることは間違いない。

「街を封鎖しているのも、病気が他の街に広まらないようにしているのではなく、体の中にスカラベオの入った人が、街の外に出てしまわないようにしているのかもしれないってことですね……」

 ウルリスを狩った聖騎士団が、このスカラベオに関係している可能性が高い。そして、聖転生(レアンカルナシオン)教会が関係している可能性も高かった。ダリオが拳を握りしめていると、スサインの声ならぬ声が静かに響いた。

「我らの仲間は彼らに狩られてきた。その方の前世もそうだろう。我らが見つけることができなかったのかもしれないが、恐らく覚醒前に狩られていたに違いない。ポルターシュやサナザーラが警戒していたことも分かるであろう。今、その方にとって最も大切なことは、生き延び、覚醒の時を迎えることだ」

『まただ!』

 スサインも、ただ生き延びろと言う。理屈は分かる。だが、ここまで分かっていて、白死病を起こしている者を突き止める寸前まで来て、立ち止まることは難しい。

「その方の記憶は、我らにとっても重要なものだ。不死王が殺害された時の状況は、よく分かっておらぬ。ポルターシュは先に倒されていた。不死王の記憶だけが頼りなのだ。その方は、恐らくほとんどの前世で、覚醒前に殺されている。新たな記憶で不死王の記憶が薄れていることはないはずだ。初代教皇が、いかなる方法で不死王を倒したのか、吟遊詩で歌われる無限の癒やしなるものが本当かどうかは分からぬが、その謎も分かるかもしれないのだ」

 覚醒すると前世の記憶と能力に目覚める。しかし、人が覚えていることのできる記憶の量には制限があるのか、前世の更に前世の記憶は曖昧だ。この、覚醒することで目覚める記憶は、覚醒することで上から書き換えられてしまうと言われている。覚醒前の幼少期に死亡すると、書き換えることなく前世の前世の記憶を思い出すと言われている。

 それは、長い歴史の中で言われてきた経験則だったが、もしそれが正しければ、スサインの言うように、ダリオは覚醒した時に初代教皇に殺される前の不死王の記憶を思い出す可能性があった。

 確かに、それを思い出せば、不死王が世界を呪ったのかどうかもはっきりする。しかし、それはどんなに早くても三年後だった。それが我慢できるのであれば、ダリオはチルベスにも、そしてこの大聖堂(カテドラル)にも来ていない。

 しかし、そのことをスサインに話しても止められるだけだ。それには確信を持つことができた。ダリオは、別のことを話すことにする。

「分かりました。では、僕に不死魔法を教えて下さい。後三年を生き延びるために」

「今できることは何か?」

(スフィア)を掲げることと、幻痛(ファントム)だけです」

「ポルターシュから教わったのか?」

 ダリオは素直に話した。不死魔法については知らなすぎる。嘘を吐いてもボロが出る。

「ポルターシュは正しかった。我も、その方はそれ以上知らぬ方が良いと思う」

「どうしてですか?!」

「その方は、知れば使うであろう。使えば使うほど、教皇庁に見つかりやすくなる」

『誰も彼も同じことを言う!』

 ダリオは、悔しさに唇を噛んだ。

「だが……助言はしよう」

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