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碧(あお)のスカラベオ 僕は世界を呪ってない!  作者: 霞ヶ浦巡
第3章 碧いスカラベオと遺跡の秘密
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騒動の噂(マナテア視点)

 正面入り口から礼拝堂に足を踏み入れ、マナテアは室内を見まわした。正面にある七色のステンドグラスを通り抜けてくる光は、もう赤や橙のものばかりになっている。副助祭のラルタルが、壁に掲げられたランプに火を入れているところだった。室内の人は多いにも関わらず、気配は乏しい。皆、死にかけているからだった。壁際の椅子に、別の理由で動かなくなっている人物を見つけて歩み寄る。

「教授、お疲れ様です」

 目を開けたアナバスが、目をこする。

「おお、やっと交代じゃな」

 カナッサは回復していたが、マナテアとアナバスは、交代での治療を続けていた。ショールたちがアンデッドの浄化に当たっているため、マナテアとアナバスが治療の主力になっているからだ。二人が交代で治療に当たる方が効果的だった。

「いかがですか?」

 アナバスのことではなく、治療の状況のことだ。アナバスがぐったりしている理由は、治癒(ヒール)を続けたことによる魔力切れだ。

「朗報……と単純には言えないが、長椅子に空きができたぞ」

 振り返り、礼拝室に並ぶ長椅子を見やる。確かに後の方にある長椅子に、誰も横たえられていないものがあった。

「それでも、何よりです」

 必ずしも朗報と言えないのは、患者が完治したのではなく死亡したことで長椅子が空いたからだろう。それでも、新たな患者が少なくなっているからこその結果だった。

 状況を聞いて引き継ぎを行う。聖転生(レアンカルナシオン)教会までの護衛についていたゴラルは、ラルタルから引き継ぎを受けていた。

「光明が見えてきたとは言え、まだまだ厳しいですね」

 マナテアは、長椅子に並ぶ患者の列を見ながら言った。

「そうじゃな。とは言え、ヌール派の教会よりはマシじゃろう。トムラ司祭は浄化に回ると言っておったから、薬での治療だけになっているはずじゃ」

「その薬での治療も、大変なはずです。先日、封鎖団の許可を得て採集に行ったと聞きましたが、どれだけ確保できたのか……」

 封鎖団がダリオに許可を出したことは、聖転生(レアンカルナシオン)教会内でも噂になっていた。

「それじゃがな、ずいぶん多く採ってきたそうじゃぞ」

 それなら、ダリオは治療に勤しんでいるだろう。マナテアは、笑みを浮かべて言った。

「そうなのですか。それは良かったですね」

 彼女の答えに、アナバスがにやりと笑う。

「それは良かったんじゃがな、一騒動あったそうじゃ」

 アナバスは、話したくてうずうずしているようだ。いつものことなので、いつものように水を向けてやる。

「騒動ですか?」

「なんでも、封鎖団から監視の騎士が付いていったそうなんじゃが、森の中で見失ったそうじゃ。動き難い、見通し難いとは言え、余程間が抜けてなければ、見失うことなどないはずじゃ……わざと撒いたのでなければの」

「教授、滅多な事は……」

 マナテアが口を濁すと、彼は肩をすくめた。

「ただの推測じゃ。あの少年は、なかなかに興味深いな。儂は専門外じゃからよく分からないが、ヌール派教会でもらってきた薬は、確かに効果があったぞ」

「分けてもらったのですか?」

「ちょこっとだけな」

 悪戯そうな顔を見れば分かった。くすねてきたか、口で丸め込んで持ってきたに違いない。

「紹介状を書いてもらったのに、行儀の良くないことは止めて下さい」

 マナテアが注意すると、アナバスはやれやれと言って立ち上がった。

「もう、足下は暗くなっているでしょう。気をつけてお帰り下さい」

 アナバスを見送り、マナテアは患者を見て回ることにした。一人でも多く助けたい。同じ思いを抱いているであろう、それでありながら、いろいろと怪しい動きを取っている少年を思い出しながら。

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