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男装の麗人

ここから2章クライマックスに突入します。


2章は、今回アップ分も含めて、あと8話です。

 ダリオは、紅い(スフィア)の群れを目指した。森の中を真っ直ぐに進み、遺跡(ルーインズ)に辿り着く。以前と変わらず、門番のスケルトンが二体、微動だにせず立っていた。胸には紅い(スフィア)が光っている。

 最初から身を隠すこともしない。ダリオは、この遺跡(ルーインズ)に侵入するのではなく、用があって訪問しに来た。この衛兵スケルトンに通してもらうのだ。静かに進み、スケルトンの目前で息を吸い込んだ。

「僕はダリオ。ウルリスに言われて来ました」

 衛兵スケルトンに反応はなかった。落ちくぼんだ眼窩に眼球はなく、視線を伺うことはできなかったが、ただ前を見つめているように見えた。白い骨が、高くなった日に照らされ、輝いている。

「あの。この中にいる人に会いたいのです。入れて頂けないでしょうか?」

 返答は、変わることなく無言だった。これでは衛兵ではなく、ただの人形のようだ。ダリオは、二度三度と声をかける。しかし、その声は遺跡(ルーインズ)を覆う静寂に吸い込まれていった。本当に衛兵ではなく、ただ突っ立っているだけなのかもしれない。紅い(スフィア)があるにもかかわらず、ただ立っているだけというのは不思議なことに思えた。もしかすると、命令を受けていないのかもしれない。

「入りますよ」

 ダリオは、二体のスケルトンに交互に視線を送りながら、恐る恐る足を踏み出した。近づき、横に並び、ついには二体のスケルトンの間を抜ける。それでも衛兵スケルトンが動き出すことはなかった。

『どうなってるんだ?』

 心に疑問を浮かべ、ダリオは先に見える建物の入口に向かった。建物は、聖転生レアンカルナシオン教会に似ていた。だが、大きさはチルベスの聖転生(レアンカルナシオン)教会よりも大きい。

 ダリオは、入口のドアに手をかける前に、もう一度振り返って衛兵スケルトンを見た。やはり、元の位置に立っているだけだった。

 入口ドアに向き直り、取っ手に手をかけ引いた。片手は、背負った剣の柄に添えておく。大きなドアが、軋むこともなく開いた。

「失礼します」

 何もいないことは(スフィア)の位置で分かる。それでも、声をかけてから踏み込んだ。

 入口を入ると、石作りの通路が右に折れる。その先には、左右に小部屋があり、中に紅い(スフィア)が見えた。ドアが閉まっているため中の様子は分からない。一つだけ見える紫のスフィアは上の階にいた。階段を探すが見当たらない。小部屋を無視して真っ直ぐに進むと、礼拝堂のような部屋に出た。正面には、教会と同じアンクが掲げられている。大きなものだったが、木製の粗末なものだ。地下にも上の階にも多数の紅い(スフィア)が見えたが、この階には少ない。礼拝堂も空だった。

 祭壇の左に上に昇る階段を見つけた。それを昇ると、廊下の両脇に多くの部屋のある階だった。紫の(スフィア)は、更に上だ。廊下の途中には、また衛兵らしきスケルトンが立っていた。二十マグナくらいの間隔で、二体ずつ並んでいる。

「失礼します。上の階に行きたいのですが」

 相変わらず反応はなかった。ダリオは、ビクビクしながら衛兵スケルトンの間を抜け進む。両側に並ぶ部屋には、やはり多くの紅い(スフィア)が見えた。中には動いているものもある。ダリオは、階段を探して廊下を進んだ。位置関係としては、建物の入口近くに戻った所で、上に向かう階段を見つけた。

 コツコツと響く石の階段を踏みしめる音を聞きながら、ダリオは三階に上がった。紫の(スフィア)は、この階に居た。一階の祭壇があるあたりだ。三階にも小部屋があったが、二階に比べると数は少なかった。廊下の先に、飾り彫りのされた木製のドアが目に入る。一階の礼拝堂と同じくらいの大きな部屋がありそうだった。紫の(スフィア)もそこにいる。ダリオは、ドアに手をかける前に、その重厚なドアをノックしてみた。

 期せずして、そのドアが両側に開く。二体のスケルトンが引き開けていた。部屋の中には、四十マグナはあろうかという長机があり、その最も奥に、派手な衣装を身に纏った人影が見えた。胸には紫の(スフィア)が見える。ウルリスと同じくらい、激しく輝く(スフィア)だった。

 ダリオは、意を決して部屋の中に足を踏み入れた。部屋の壁際には、スケルトンが列をなしている。心臓が口から飛び出しそうだった。

 あまり奥まで行くのはよろしくないだろう。数マグナほど進み、足を止めた。

「失礼します。僕はダリオ。ウルリスに言われて来ました」

 奥に座る人物は、右手にグラスを持っていた。中には赤い液体が揺らめいている。微かに酒の匂いがした。その人物は、グラスを置いて静かに立ち上がった。

 動作が優美だった。顔立ちは端正で、波のようにうねる長い金髪が後に垂らされている。女性だった。ただ、身に纏っている服は男性用のものだ。それに、身長も高い。男性でも長身と言えるほどだった。年の頃は二十代前半だろう。

『男装の麗人』

 その一言で言い表すことのできる人物だった。腰には剣も吊されている。大きな青い瞳が、夏空のように輝いていた。

「久々の客人かと思いきや、子供か?」

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