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裏の理由

 白犬亭に戻り、香草茶をもう一杯もらった。入り口近くのテーブルに掛け、思考を巡らす。マナテアの言葉が気になっていた。

 白死病の原因がスカラベオにあると言えば、危険視されるということは理解できる。しかし、マナテアが以前から危険視されているという話は腑に落ちない。彼女はオルトロ領主の娘だ。地位もあり、祝福されし者(ギフテッド)でもある。

「どうしました? 許可がもらえるかどうかはともかく、封鎖団には連れて行ってもらえそうなんでしょ?」

 タイトナだった。まるで、身を隠すように角の暗がりにいる。それでも、存在感のある人なので静か楽器を磨いていても目立っていた。食堂には、彼の他にはクラウドしかいない。ウェルタは、マナテアが帰ったので自室に引き上げたようだ。

「ちょっと考えごとです。封鎖団のことじゃなく、別のことです」

「そうですか」

 タイトナは、手に持った楽器、トルバンと呼ばれるらしい、の弦を弾いた。主となる旋律を奏でる弦の他に、少し違った音の出る二種類の弦が張られた大きめの楽器だ。タイトナが練習のために曲を奏でているところを聴いたこともある。美しい調べを奏でる楽器だった。

「ウェルタさんが話していたのを聞きましたが、マナテアさんは祝福されし者(ギフテッド)だそうですし、そろそろ覚醒される頃だ。いろいろあるでしょうね」

「どう言うことですか? 何があるんです?」

 タイトナは、さも当然かのように言っていた。しかし、ダリオには皆目見当が付かない。今まで、ウルリスの行動のなぞるように生きてきたダリオには、知らない常識があるようだった。

「知りませんか……」

 タイトナはそう言って、目を伏せた。

「彼女が学んでいるアカデミーは、不死戦争の直後に作られたそうです。その頃は、とても小さなものだったそうですね。そこで学ぶ学生は、全員が祝福されし者(ギフテッド)だった。教皇庁の権威が及ぶ全ての領地から祝福されし者(ギフテッド)を集め、英才教育を施していたのだそうです。彼らは、聖職者や騎士となり、神の教えを広めるとともに、復活する不死王とその配下の軍勢と戦うことを期待されていた。これは、今も続いています」

 マナテアやアナバスから詳しいことは聞いていなかった。それでも、そのアカデミーが存在している理由は何となく想像が付いていた。不死魔法を使うことのできるウルリスとダリオは、聖騎士団に追われていたからだ。

「ですが、これは表の理由です」

「ということは……裏の理由もあるのですね?」

 ダリオの問いに、タイトナは首を振った。

「ある、と言われているだけです。噂です。ただ……間違いないでしょうね。誰も口にしないだけ。禁忌というものですね」

 そう言って、タイトナは裏の理由を教えてくれた。

「不死王を始め、彼の配下には多くの強力な魔法使いがいました。彼らが輪廻転生し、再びこの世に生を受けた場合、祝福されし者(ギフテッド)となる可能性が高い。アカデミーは、祝福されし者(ギフテッド)を集め、監視し、復活した不死王とその配下を探し出すために作られた……と言われています」

 ダリオも可能性は考えていた。誰もが輪廻転生する。初代教皇が打ち倒した不死王も、いずれ必ず転生してくる。不死王の復活を阻むと言っている教皇庁と聖騎士団が、彼らを見つけ出そうとすれば、手っ取り早い手段は、祝福されし者(ギフテッド)を監視することになるはずだった。

 ウルリスが、ダリオには一部の魔法しか教えてくれなかった理由も納得できる。教えてくれた神聖魔法を、決して人に見せるなと言っていた理由も納得できた。祝福されし者(ギフテッド)として名を知られるようになれば、アカデミーに呼ばれてしまうのだろう。そして、監視されることになる。

「マナテアも、不死王の配下の転生者かもしれない……と疑われているのですね」

「恐らくね。そして消されることを恐れているのでしょう」

「消される……のですか?」

「不死王の配下ならば当然でしょう。実際、アカデミーで学んでいた祝福されし者(ギフテッド)が、覚醒の時を前にして、忽然と姿を消すことは良くあることのようです。だからこそ、この裏の理由が噂されているんです」

 監視し、疑いが強いとなれば、教皇庁としてはそうするのかもしれない。恐ろしかった。その運命は、ダリオにも降りかかる可能性があるのだ。だが、まだダリオに手は伸びて来てはいない。

 マナテアが心配だった。彼女はもうすぐ覚醒する年だろう。しかし、ダリオにできることはなさそうだ。それが歯がゆい。

 彼女はスカラベオの情報をもたらしてくれた。わざわざ新市街まで出向き、口にすることで危険視されかねない情報を教えてくれた。それは、聖転生(レアンカルナシオン)教会の関係者であり、祝福されし者(ギフテッド)である彼女にとって、危険なことであるはずだった。

『ゴラルは反対しただろうな……』

 マナテアが口にすることのなかった不安と勇気、そしてダリオにかけてくれた優しさを、今さらながらに知った。ダリオは、そのことが苦しかった。

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