事後処理
礼拝堂に戻ると、早速ゴラルに問い詰められた。今は無理だったが、魂と肉体を保存する措置をとり、遺跡の中でも最も安全なこの場で守ってもらうようにしたと話す。ただ、肉体を一時的にアンデッドとしたことは伏せた。頭では理解しても、受け入れ難いだろうと思えたからだ。ダリオでさえ辛かった。魂こそが人だと言われても、それを見ることのできない者には、恐らく理解してはもらえない。
襲撃犯を追撃していたウェルタも合流していた。彼は、最後に襲ってきた襲撃犯を含め、五人の首を持って帰ってきた。再生して動き出すことを恐れたらしい。首も体も、サナザーラがスケルトンに処理させると言って引き取っていた。
最後の襲撃犯には、ダリオも会っていると聞かされたが、良く覚えていなかった。ウェルタは、ゴラルを刺した槍で気付くべきだったと悔やんでいた。しかし、そんなことを言ったら、ゴラルが刺された時に、ダリオは後方を警戒していなければならなかった。ダリオは、ただ首を振った。
みんな、いっぱいいっぱいだったように思えた。
その後、スサインが言っていたクルスという人物の居所を聞く間もなく、遺跡を後にした。ショールをおびき出した時間が深夜だったし、ゴラルとウェルタはボロボロだ。外見を繕うためにも、早めに戻る必要があったからだ。
地下通路を戻りながら、今後どうするかについても大まかに話した。計画では、ショール達だけが失踪し、知らぬ存是ぬを決め込むつもりでいたが、マナテアまで失踪してしまったことになる。
「何にせよ。大騒ぎになるな。マナテア様まで失踪したとなると、ショール司祭が異端審問にかけようとしていたことが正しかったと見られてしまうかもしれない」
ウェルタの言葉に、ゴラルが答えた。
「どうしようもあるまい。私は知らぬ存ぜぬを貫くしかない」
ゴラルは、遺跡から外に出てしまう方法も考えられたが、彼はオルトロに戻って報告するという。状況からすれば、マナテアは不死王関係者の転生者だったと思われると報告するという。それが、誰しも納得しやすいだろうと言っていた。それに、事実だった。
教会に戻るまでに魔力も多少は回復したため、できるかぎりゴラルを治療した。マナテアが治療していたとは言え重症だったし、外傷を残しておくことはできなかったからだ。
白犬亭に戻る前に、ウェルタが封鎖団事務所を確認した方がいいと言うので、彼に付いて行った。スフィアを確認し、誰かと鉢合わせないためだ。
「大当たりだ」
ウェルタは、そう言ってアデノールの書き残しを回収してきた。それが残ったままなら、ワイン蔵は徹底的に調べられ、地下通路も発見されてしまうことは間違いない。
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翌日の夜、ウェルタから聖転生教会の状況を聞いた。
案の定、大騒ぎになったそうだ。しかし、彼らが消えた手がかりはなく、ショールがマナテアを異端審問にかけると言っていたことから、やはりマナテアが不死王配下の転生者で、邪魔なショールたちを消したのだろうと言われているそうだ。
不寝番だった二人は、何らかの理由で巻き添えになったと言われているそうだ。
ダリオにとっては、苦い結末だった。
「やはり、そうなってしまうのですね。マナテアだけに汚名をかぶせる形になってしまいました……」
「仕方ない。以前から黒い聖女と呼ばれていたから、そう信じて納得してしまいたい者もいるようだ。それに、彼女の汚名は雪ぐのだろ?」
「もちろんです。ただ、僕は覚醒まで大人しくすると誓いました。彼女を復活させるためにも、当分は目立たないように、ただの薬屋として過ごします」
「それがいいのだろうな」
封鎖団の聖騎士やチルベス教会の関係者の中にも、失踪者のことを調べた方がいいのではないかと言う者もいるそうだが、一部に留まるそうだ。近衛聖騎士までもが突如として失踪している。大部分は、調査に及び腰なのだと言う。
ウェルタは、正式な聖騎士となることを目指してもらうことにした。特に何かを調べてもらうことはしない。ダリオが覚醒するまでは、ウェルタもとにかく周囲から不信感を持たれないことが最も大切だからだ。
「後は、封鎖が解かれれば、謎の失踪事件になってしまうんですね」
「それはそうなんだが……封鎖解除は少しもめるかもしれないな」
「どうしてですか?」
ダリオが尋ねるとウェルタは、苦い顔をした。
「治療団が派遣されていれば、封鎖解除は治療団の判断になる。ところが、治療団で残っているのはアナバス教授だけだ。教授は、教皇庁の要請を受けてアカデミーから参加しただけで、教皇庁の者という訳じゃないからな。チルベス教会が何やら言っているらしい」
「そうですか」
とは言え、もめたところで封鎖解除は近いはずだった。白死病は、体内に潜り込んだ魔導具のスカラベオが引き起こす。ショールがいなくなったことで、スカラベオが回収されなくなるだろうが、もう患者が増えることもないはずだった。
しかし、そのもめている理由が、ダリオにも関係があることだったとは、この時のダリオには知る由もなかった。