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82. 自分に言い聞かせるジジイ

 

 塩太郎は、剣呑な雰囲気を、全く消す気の無いジジイこと、ハラダ・スエキチの前に、居合の構えで待ち構える。


「なるほどのぅ……これが姫様がわざわざ異世界から呼び寄せた、本物の侍という訳じゃな。全く隙がないし、少しでも間合いに入れば真っ二つに斬られるイメージしか湧かないわい……」


 スエキチ爺さんは、喋りながらも、すり足で、少しづつ間合いを詰めて来る。

 木刀だとしても、塩太郎の実力なら本当に叩き斬られると分かってるのに。


 ハッキリ言って、この死合いは塩太郎にとても有利であるのだ。


 塩太郎は、完全にカウンター狙い。

 塩太郎は、居合い斬りに絶対の自信を持っている。何せ、この居合い斬りで、何人もの敵対勢力を、幕末京都で斬り裂いてきたのだから。


 基本的に、人斬りはすれ違い際に行う。

 すれ違い際に一閃、相手の胴を並行に斬りさくのが塩太郎のやり方。

 このやり方だと、相手は斬られた事に全く気付かない。何せ並行なので、斬られても胴体が下半身からずり落ちないのである。

 とは言っても、上半身がずり落ちないようにするには、微妙な調整が必要なのだが、それを塩太郎は普通にやってのけるのだ。


 相手が気付くのは、斬られた痛みが頭に伝わる数分後。

 大体、3分後ぐらいに斬られた事に気付くのだが、その頃には、塩太郎は遠くに逃げおおしてる。


 そんな居合い斬りに絶対的な自信を持ってる塩太郎に、スエキチ爺さんは、攻撃を仕掛けるしかない。

 だって、聖剣村正を奪い取りたいのはスエキチ爺さんなのだから。

 塩太郎的には、殺されなければいいだけなのだ。スエキチ爺さんに恨みもないしね。


 というか、殺されたとしても、塩太郎は現在、虎子に村正をレンタルして持ってないから、実際は、殺されても村正取られないし、その事について、塩太郎は、とっくに思い出している。


 だけれども、どう考えても凄腕のスエキチ爺さんと立ち会ってみたかったので、塩太郎は敢えてその事について黙ってるのだ。


 別に、騙してる訳では無いよ。ただ、黙ってるだけ。

 スエキチ爺さんが、塩太郎が村正を肌身離さず持ってると勘違いしてるだけだしね。


 とか、睨み合う事、1時間。

 ちょうど、集中が途切れる頃。


「大変でございます! ハナ様!!」


 若い侍が、真っ青な顔をして、道場の中央。塩太郎とスエキチ爺さんが相対してる間に走り込んで来た。


「何事ですか! 今、塩太郎殿とお爺様が死合をしているというのに!」


 固唾を飲んで、塩太郎とスエキチ爺さんの死合いを見ていたハナは激怒し、若い侍に、有り得ない殺気を放つ。

 しかしながら、若い侍も、中々の強者なのか、ハナの殺気をものともせず、そのまま話を続ける。


「それどころじゃありません!『犬の尻尾Dチーム』が、異界の悪魔サルガタナスと、SSSS未攻略ダンジョンで遭遇致しました!」


「なんじゃと!」


 若い侍が水を差しても、全く動じていなかったスエキチ爺さんが、異界の悪魔サルガタナスの名前が出た途端、連絡に来た若い侍の胸ぐらを掴み、詰め寄る。


「ただいま説明致しますから!離して下さい!」


「すまぬ……」


 スエキチ爺さんから解放された若い侍は、襟元を正してから話し出す。


「それでは事の次第を話します。我々『犬の尻尾Dチーム』は、ハロハロ城塞都市近郊で見付かったSSSS未攻略ダンジョンを攻略中、132階層で、異界の悪魔サルガタナス率いる5人組の敵と遭遇。

 遭遇した瞬間に、『犬の肉球Dチーム』10名のうち、4名がサルガタナスに叩き斬られ即死。

 戦力差を考え、そのまま撤退。即死者を姫ポーションで復活させ、そのままサルガタナスを追尾してるのが今の状況でございます!」


「でかした! まだ、追尾しておるのじゃな!」


「ハッ!」


 連絡係の侍の返事を聞いて、スエキチ爺さんの眼光が光り輝く。


「お爺様!」


 ハラダ・ハナも決意に満ちた顔をしている。

 そう、ハラダ・ハナも、サルガタナスに両親を殺されているのだ。

 ハラダ家、ハラ家にとって、異界の悪魔サルガタナスは、不倶戴天の敵。

 何が何でも、見つけたら叩き斬りたいのである。


「よし! それでは、行くとしようかのう! 我らハラダ家、ハラ家の悲願、異界の悪魔サルガタナス討伐戦じゃ!」


「「ハッ!!」」


 ハラダ家、ハラ家の者達が気合の入った返事をする。


「俺も行くぜ!」


 塩太郎も、ここぞとばかりに、自分も同行すると立候補する。

 異界の悪魔の実力を、知っておきたいしね。


「着いてくるのは構わんが、サルガタナスを殺すのは、ハラダ家、ハラ家の役割じゃ。部外者は、手を出さんで欲しいのじゃが」


 スエキチ爺さんが、剣呑な雰囲気を漂わせ、ヤル気満々だった塩太郎に釘を刺す。


「ああ。俺も侍だから、仇討ちに水を差す事なんてしねーよ!

 ただ、異界の悪魔の実力ってのを見ておきてーと思ってな!

 だって、あのガブリエルでも殺す事が出来てねー敵なんだろ?」


 そう。ガブリエル達は、350年争って、未だに、異界の悪魔を一人も倒せていないのである。


「それは、聖剣不足のせいじゃな。直接、異界の悪魔に傷を負わせる事が出来るのは聖剣だけなのじゃ。

 こちらが持つ聖剣は、姫様の草薙剣と、ブリトニー殿のスキルスッポンソードと、ハラダ家が所有する政宗だけ。

 到底、三振りだけでは、10人以上居る異界の悪魔には勝てなかったのじゃ……。

 じゃがしかし、こちらも戦力を蓄え、現在は力が拮抗してる状態。

 今の状態で、お主が持つ村正が加われば、ベルゼブブ率いる異界の悪魔達に、一矢報いる事が出来ると思っておる!」


「そうなのか?」


「そうでございます」


 スエキチ爺さんの代わりに、ハラダ・ハナが答える。


「そこでじゃ! 今日だけでいいので、お主の村正を貸してくれんかのう。

 サルガタナスは、ワシの両親と息子の仇なんじゃ!

 サルガタナスが、拠点から出てくる事なんて滅多に無い事で、千載一遇のチャンスなんじゃ!」


 スエキチ爺さんが、必死に頭を下げて塩太郎にお願いしてくる。

 というか、ちょっと不味い展開。


「あの……貸してやりたいのは山々なんだけど……実を言うと、既に、俺の村正レンタル中なんだよね……」


 塩太郎は、黙っててもすぐにバレると思ったので、正直に話す。


「な……なんじゃと! それじゃあ、今までの死合はなんじゃったんじゃ!」


 スエキチ爺さんは、ビックリ仰天というか、呆気にとられ驚いている。


「それは、勝手に、爺さんが勘違いしただけだろ?

 俺が村正持ってるって?

 俺は、一言も、今、村正持ってるなんて言ってねーからな!」


「ひ……卑怯な!」


 スエキチ爺さんは、顔を真っ赤にして怒り出しす。


「卑怯も糞も、人を殺して、村正盗もうとしてたジジイに言われたくねーやい!」


 塩太郎は、少しムカッとして言い返す。


「クッ! そしたら、誰に貸したんじゃ!」


 スエキチ爺さんは、サルガタナスに逃げられてしまったら元も子もないからか、即座に頭を切り替えたようだ。


「オイドン・トラデアルって知ってるか?」


「オイドン・トラデアルだと?! あの謎に包まれとる天才刀鍛冶か?」


 どうやら、スエキチ爺さんも、天才刀鍛冶オイドン・トラデアルの名を知っていたようである。


「ああ。その、天才刀鍛冶のオイドン・トラデアルに、3ヶ月450億マーブルに貸してんだよ!」


「よ……450億マーブルじゃと……」


 流石にスエキチ爺さんも、450億マーブルという、途方も無い金額に驚いてるようだ。

 多分、レンタル料1000万ぐらいなら出そうと思ってたみたいだけど、450億とかいう天文学的数字を聞いて、言葉に詰まってるようである。


「アイツ、自分の手で聖剣を打つのが夢なんだと!

 その為に、俺の村正をレンタルして研究したいんだってよ!」


 塩太郎は、一応、虎子に村正を貸している理由を、スエキチ爺さんに説明してやる。


「そ……そうか。それは大層な話じゃのう……。確かに、聖剣が量産出来るようになれば、異界の悪魔も楽に倒せるようになるかもしれんしな……」


 何だか知らないが、スエキチ爺さんは、自分に言い聞かせるように話すのだった。


 決して、450億マーブルという大金に、ビビった訳ではないからね。


 ーーー


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