78. 演技を気にする少女
「着きました! ここが、ハロハロ城塞都市が誇る剣術道場です!
他にも幾つか個人道場がありますが、称号を奪いに来る挑戦者さん達は、全員、ここで試合をしてもらう事となっております!」
塩太郎達一行は、ハラダ・ハナに案内されて、ハロハロ城塞都市の中心付近にある、高めの堀に囲まれた、どう見ても日本の剣術道場にしか見えない屋敷の前に来た。
屋敷の門は、開け放たれており、中から激しい剣撃の音が聞こえてくる。
「おっ! やってるな!」
塩太郎は興奮する。なんやかんやいって、剣術道場が好きなのである。
青春時代に過ごした剣術道場。高杉や桂さんと過ごした、江戸の三大道場の一つ、練兵館での修行の日々が思い出される。
「さあ! こちらにどうぞ!」
ハラダ・ハナは、何故かテンション高めに、道場を案内する。
なんかよく分からないが、塩太郎を道場に入れるのが嬉しいようである。
「ここで、履物を脱いで下さいね!」
敷地は結構広いのだが、正門を入ると直ぐに大きな中庭が有り、その正面に巨大な道場がある。多分、奥の敷地には居住用の御屋敷などもあるのだろう。
まあ、どこの剣術道場も同じである。
大体、居住用の御屋敷は奥にあり、道場破りは、「頼もう!」と正門から突入し、正門で何人かの徒弟を、木刀で倒して、そのまま目の前にある道場に上がり込むのが、塩太郎の時代の道場破りの作法であった。
それなのに、塩太郎達は、よりにもよって、道場主のハラダ・ハナ自らにに案内されて、普通に道場の中に入ってしまった。
「こんなの道場破りと違う!」
塩太郎は、思わず、声を上げる。
塩太郎が剣術を学んだ、神道無念流の練兵館は、北辰一刀流の玄武館、鏡新明智流の士学館と並び、江戸三大道場の一つに数えられた、超絶有名な道場だったのだ。
なので、道場破りも、それなりにたくさん来ていた。
その相手をするのが、塩太郎の役目だったのだ。
同じ道場の仲間じゃないので、本気を出す事ができる唯一の相手。
同じ道場の奴らとの練習や試合では、手を抜かないと殺してしまうかもしれないので、塩太郎は、思いっきり手を抜いていたのだ。
その為、練兵館最強の地位も、塾頭の地位も、同じ同郷で先輩の桂小五郎に譲っていた。
しかしながら、道場破り相手なら本気が出せる。万が一殺してしまっても、誰にも咎められないし。
殺してしまっても、逆によくやったと言われるくらいだしね。
そんな道場破りについて、並々なる思い入れがある塩太郎的に、普通に、道場主に案内されて、道場に入っちゃうのは、何か違うのであった。
「何か、侍の作法と違った事が御座いましたか?塩太郎殿!」
何か、ハラダ・ハナが冷や汗をかいて焦っている。
侍を敬愛し過ぎるハラダ・ハナは、正真正銘本物の現役侍である塩太郎に、粗相を働いてしまったかと焦っているのだ。
「ああ。違うな。こんなの道場破りじゃねえ!」
「そしたら、侍の道場破りの作法を教えて下さいませ!」
ハラダ・ハナは、塩太郎に頭を下げる。
道場主が、道場破りに頭を下げてしまうこと自体が違うのだが、知らないので仕方が無い。
そう、塩太郎は美少女に甘いのであった。
「じゃあ、俺様が、本物の侍について無知なお前達に教えてやる!」
「それでは、皆さん! 塩太郎殿に教えを請いましょう!」
なんかよく分からないが、道場の中からワラワラ出てきた侍達に、塩太郎は道場破りの作法をレクチャーしたのだった。
そんでもって仕切り直し。
シャンティー達は、面倒臭いので、道場奥の御屋敷でお茶を飲んでるとの事。
塩太郎は、再び、ハロハロ剣術道場の外に出る。
そして、
「頼もう!!」
塩太郎は、道場の門の前で怒号を上げる。
メッチャ気持ちいい。
いつもは、道場破りを追い出す役目だったのだが、今回は、道場破りの側。
やはり、守りより、攻めの方が楽しいのだ。
「どのような御用でしょうか?」
手筈通り、徒弟が出て来て、塩太郎に応対する。
「道場破りだ!」
「なんと!」
徒弟は、演技臭く驚いてみせる。
「じゃあ、上がらせてもらうぜ!」
「ちょっと、待て!」
徒弟は両手を広げ、塩太郎の道をふさぐ。
「道場破りが、待てるかよ!」
塩太郎は、徒弟を手で押し退ける。
「クッ! 道場破りだ! 道場破りが、やって来たぞ!」
突き飛ばされた徒弟が、道場に向けて大声を上げる。
それと同時に、道場生の中で選ばれたと思われる、弱い部類の道場生10人丁度、現れる。
まあ、塩太郎が10人位と言ったので、多分、言われた通りに10人丁度準備したのだろう。
変な所で、几帳面な日本人の末裔ぽい。
「道場破りめ! 通れるもんなら通ってみろ!」
突き飛ばされた道場生が、立ち上がりセリフを言う。
なんか、ここまで来ると、少しテンションが上がって来たのか、セリフも滑らかになってくる。
だがしかし、
「まかり通る!」
塩太郎は、殺気と共に木刀を抜く。
勿論、道場生達も真剣じゃなくて木刀だ。
中々、鍛えられている。
塩太郎は、ちょっとだけ感心する。
だけど、ちょっとだけ。
塩太郎の本気の殺気に、みんな耐えられたのだ。
だけれども、塩太郎の場合、本気にも二段階あるのだ。
塩太郎が今発してるのは、道場用の殺気。いわゆる、お子様殺気なのである。
そして、これが、京都の伝説の人斬りと言われていた頃の本気の殺気。
塩太郎が纏う魔力が跳ね上がり、塩太郎の周りを赤黒い炎のような魔力が浮かびあがる。
まあ、シャンティー的には、魔力を体に薄く張れと言うのだが、魔力が全く無かった地球では、何も考えずに全力で魔力を放出した状態で、丁度、魔力を体を薄く覆うくらいだったのである。
「クッ! 何だコレは!」
この世界のセオリーを無視した、魔力の放出。ダダ漏れの殺気。
所詮、道場生の下っ端達には耐える事は出来ない。
みんな、次々に、プレッシャーに耐えられなくなり、膝をついていく。
「早く、道場主を出しやがれ!」
塩太郎は、地面に蹲ってる訓練生を足蹴にする。
「クッ! 先生、駄目です! 私共の力では、どうしようも出来ません!」
足蹴にされて道場生が、もう演技を忘れて悔しそうに、声を出す。
すると、予定通り、道場の中から純白の道着を着た、ハラダ・ハナが登場する。
「成程、中々やるようですわね。塩太郎殿……じゃなくて、道場破りさん。
それでは、道場の中に入って来なさい。
代表の者が、貴方の相手をして差し上げますわ!」
「お前が試合するんじゃねーのかよ!」
塩太郎は、道場主のハラダ・ハナを睨みつける。
「ここは、『漆黒の森』の武の右翼を担うハロハロ城塞都市の剣術道場よ!
簡単に、道場主に勝負が出来ると思って?
まずは、段階を踏みなさい!
この道場に居る剣王3名、剣帝3名、剣聖1名、それから冒険者パーティー『鷹の爪』に所属してる剣聖1名を倒したらら貴方の相手をしてあげましょう!」
ハラダ・ハナは、道場の高い所から、軒下にいる塩太郎を見下しながら言い放つ。
「そいつら、全員倒せば、相手をしてくれるんだな!」
「武士に二言は有りません」
「聞いたぞ!」
こんな感じで、道場破りのやり直しは、成し遂げられたのだった。
そして、
「塩太郎殿、私の演技どうでしたか?
その……上手く侍を演じれたでしょうか……」
ハラダ・ハナが、モジモジしながら聞いてくる。
「折角、決まったのに、何で聞くかな……そのまま、試合始めれば良かったのに……」
「も……申し訳ございません!」
侍を敬愛する少女、ハラダ・ハナは、顔を真っ赤にして、塩太郎に深く頭を下げた。
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