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66. 2匹のグリフォン

 

「おっ!剣王の称号が、冒険者ブレスレットに刻まれたぞ!」


 塩太郎は、姫ポーションを筋肉痛ダルマに振り掛けながら、冒険者ブレスレットを確認する。


「ミッションクリアーね! これでハロハロに行けるわね!」


 シャンティーの口から聞き慣れ無い言葉が出てきた。


「ハロハロ?」


「ハロハロはハラダ家の本拠地よ!」


「敵の本拠地に乗り込むという事だな?」


「そうよ。という事で、先ずハラハラに向かうわよ!」


「ハラハラ?」


 また、聞き慣れ無い言葉。


「ハロハロの隣の城塞都市のハラハラ。流石に、敵の本拠地で何泊も泊まる気しないからね!」


「そういう事な!」


 塩太郎は納得した。称号を奪い取った後とかに、敵の本拠地なんかに泊まったりなんかしたら、寝首をかかれるかもしれないし。


「で、ハラハラって何処にあるんだ?」


 塩太郎は、質問する。


「『漆黒の森』の東北の端の方ね!距離としては、歩いて1ヶ月。馬車で2週間。グリフォンで3日。ペガサスで2時間ね!」


「ペガサス早!」


「まあ、ペガちゃんは、男嫌いで私とエリスしか乗れないから却下」


「じゃあ、馬車で行くのか?2週間って、結構、長旅だな」


「アンタ、アホ?グリフォンで3日で行けるるんだから、グリフォンで行くに決まってんでしょ!」


「エリスは、グリフォンも召喚できるのか?」


「出来る訳ないでしょ! エリスは精霊召喚士で、グリフォンは魔物なんだから!」


「そ……そうなんだ……」


 幕末出身の塩太郎は知らなかった。

 グリフォンが魔物という事を。

 そして、日本のラノベ好きなら誰でも知ってる、強敵になったり味方になったりもする、結構、人気の魔物という事を、幕末出身の塩太郎は全く知らなかったのである。


「という訳で、グリフォン牧場に行くわよ!」


「グリフォンは、家畜なのかよ!」


「何言ってるの?当たり前じゃない?」


 幕末出身の塩太郎は知らなかったのだ。

 他の異世界ラノベでは、結構、グリフォンは高位の魔物なのだが、南の大陸は、他のどの物語より、超絶に冒険者のレベルが高い場所なのである。


 そう、強敵である筈のグリフォンを、簡単に倒せる猛者がゴロゴロ居るのである。

 その者達によって、簡単に捕まえられるグリフォンは、普通に食用にも使われてしまったりする。基本は鳥だしね。

 まあ、とは言っても高級食材には違わないので、とてもお高い。それも目ん玉飛び出る程。

 でもって、中々食べる人が居なくて、何か他に利用できる事はないかと考えた答えが、グリフォンタクシー。

 テイムしたグリフォンを使い、タクシー代わりに使うのだ。

 テイムしたグリフォンなら、お客を降ろしたら、勝手にグリフォン牧場に戻ってくるからね。


 てな訳で、塩太郎達は、早速、ムササビ自治国家の郊外にある、グリフォン牧場に向かった。


「て! おい! グリフォンって、でっけー鷹だったのかよ!しかも四足!」


 塩太郎は、ビックリ仰天驚愕する。


「ええ。グリフォンは、鷹の頭と獅子の身体を持つA級最上位の魔物よ!」


 シャンティーは、牧場主と交渉しながら、端折って塩太郎に説明する。


「かっけ〜!」


 鷹は、侍にとって権威の象徴なのである。

 鷹狩りを出来るのは、江戸時代では殿様だけ。なので、日本の侍である塩太郎は、必要以上に鷹に憧れを持っている。


「では、2羽。3日レンタルで、合計120万マーブルになります」


「高い!80万マーブルにしなさい!」


「それはちょっと……」


「じゃあ、2匹買取りで300万マーブルでどう?」


 何故かシャンティーは、買い取りを提案する。


「それも、ちょっと……ちゃんとテイムしたグリフォンは、最低でも1匹300万マーブルなので、600万は頂きませんと……」


「じゃあ、テイムしてないグリフォンでは?」


「それでも、1匹200万なので、400万になります」


「なんとか、300万にしなさいよ!」


「う~ん……でしたら、ちょっと問題があるグリフォンでしたら、2匹300万で売る事ができますが……」


「どんな問題?」


 シャンティーは、牧場主に説明を求める。


「ハイ。1匹は誰の言う事も聞かない気性の荒いグリフォンで、3日前にも従業員を半殺しにしてしまいました。

 そして、もう1匹は、アホ過ぎるグリフォンで、お客さんを指定の場所まで送る事は送るのですが、帰ってきません……。毎回、全然、遠い違う場所で保護されて、こちらの連れ帰すのも、お金が掛かるし大変なんですよね……」


 牧場主は、その時の事を思い出してか、ホトホト参ったという顔をする。


「その2匹でいいわ! で、幾らになるの?

 問題児を引き取ってあげるんだから、2匹で200万でいいわよね!」


「それは、ちょっと……食用にすれば良いだけですし……」


「じゃあ、220万!」


「250万は、頂きませんと……」


「じゃあ、235万で!」


「う~ん。分かりました235万で手を打ちましょう!」


 商売上手なシャンティーは、結局、相当まけさせて商談を成立させた。


「ところで、アナタ方は、A級冒険者以上ですか?

 分かってると思いますが、普通にテイムしてるグリフォンでも、弱い者は、背中に乗せませんから」


「大丈夫よ!」


 シャンティーは、現金を道場主に渡しながら言う。


「なら、問題ないですけど」


 てな感じで、売買い契約を済ませ、2匹の問題児グリフォンは、『犬の肉球』の共同資産になったのだった。


「で、コイツらどうすんだよ?」


 無駄に力持ちのムネオが抑え込んでいるが、ヤンチャだというグリフォンは、想像以上に暴れん坊のようで、抑え込まれていても、羽をばたつかせて、滅茶苦茶抵抗している。


「犬畜生なんて、圧倒的な力を見せてやれば、すぐに大人しくなるわよ!

 塩太郎、いつもやる殺気を、この子達に浴びせて頂戴!」


「えっ?そんなんでいいの? もっと、秘策が有ると思ってたんだけど……」


「いいから、とっととやりなさい。羽をバサバサさせるから、土埃で服が汚れちゃうでしょうが!」


 シャンティーが服をはたきながら、プンプン怒ってるので、塩太郎は仕方が無く、本気の殺気を2匹のグリフォンに浴びせる。


「キュィ~ン」


 アホなグリフォンは、口から泡を吹いて気絶し、もう一匹の気性の荒いグリフォンは、しゃがみこみブルブル震えている。


「ほらみなさい! すぐに大人しくなったでしょ!」


 シャンティーは、したり顔をしてエッヘンとする。


「確かに……魔物も、犬畜生と一緒なんだな……」


 まあ、こんな感じで、塩太郎一行は、2匹のグリフォンを従順な仲間にする事に成功したのだった。


 まあ、アホなグリフォンの方は、別に、グリフォンタクシーにする訳でもなし、ずっと一緒に居るので、殺気を浴びせる必要も無かったんだけどね。


 ーーー


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