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63. 砂漠のコーラ売り

 

「誰だ!俺達が攻略してた未攻略ダンジョンを、後から横取りしてる、ふてえ奴等は!」


 2メートルはあろう、筋肉隆々の巨体で、上半身裸のバスターソードを持つ男が、フロアーボス部屋で寛いでいた塩太郎達『犬の肉球』に、言い放つ。


「やっと気やがったか! 俺は…」


「はぁ~? 私達『犬の肉球』に向かって、ふてえ奴等?

 ちょっと、アンタふざけてんの?!

 というか、太いのは、どう考えてもアンタでしょ!脳ミソまで、筋肉で出来てそうな、この筋肉ダルマが! 」


 シャンティーが、塩太郎を遮って、筋肉ダルマの目の前まで飛んでいって、睨みつけながら啖呵を切る。

 というか、相変わらず、口が悪すぎる。


「ちょ……おい……コイツ倒すの、俺の役目なんだけど……」


 塩太郎は、美味しい所を取られてアタフタ尻すぼみ。


「はぁ~? 『犬の肉球』だ?

 それって、『犬の尻尾』のバッタモンか何かか?」


 筋肉ダルマは、決して、シャンティーに言ってはいけない禁句を言ってしまう。

 シャンティーは、『犬の肉球』を、『犬の尻尾』に絡めてディスられる事を、何よりも嫌うのだ。


「ちょっと! アンタ! ふざけてんの!

『犬の肉球』のバッタモンが、『犬の尻尾』だっちゅーの!

 本当に、最近の若い子達は、常識がないっていうか、物事を知らないわね!」


「つーか、『犬の肉球』なんて、聞いた事ないんだが?」


 筋肉ダルマは、更に油を注ぐ。


「ふ……ふざけんなーー!黒龍を、西の大陸から追い払った勇者パーティーの『犬の肉球』を知らないなんて、どんだけ無知なのよ!」


 シャンティーは、怒髪天の勢いで、怒りを露にする。


「黒龍? お前、何百年前の事言ってんだ?

 それに、弱っちい奴しか居ない西の大陸の事なんか知らねーよ!」


 ここまでくると、塩太郎でも筋肉ダルマを止めたくなってくる。

 だって、シャンティー、怒りを通り越して震え出してるし。

 腹黒のシャンティーを怒らすと、後の仕返しが、とても恐ろしいというのに。


「アンタ、とことん私を舐めてるわね……。黒龍戦争はたった365年前よ……」


「たった365年前って、お前、どんだけババアだよ?」


「ババア? 上級精霊の私に向かってババア?

 妖精に年齢なんて関係ないのよ!塩太郎に殺らせようと思ってたけど、もう、私が殺す!」


 シャンティーの周りから、聖なる魔法が得意の、光の精霊には有るまじき、禍々しい魔力が荒れ狂う。


「私を怒らした事を、後悔させてやる!」


 ここまで来ると、もう、誰にもシャンティーを止められない。


「ちょっ! ムネオさん! シャンティーが凄い事になってんだけど!

 というか、シャンティーって、まともに戦えんのか?」


 塩太郎は、シャンティーと、筋肉ダルマのやり取りを黙って見ていたムネオに質問する。


「ウム。シャンティー殿は、基本、『犬の肉球』の軍師兼、回復役兼、会計役じゃが、天才であるが為に、どんな魔法もある程度は使えるんじゃ。

 普段は、付与魔法と回復魔法で、パーティーをコントロールして、裏方に徹するんじゃが、ブチ切れると、突然、大魔法を連発したりする」


「で、今は、ブチ切れて大魔法を発動しようとしてると?」


「じゃな。なので、塩太郎よ。儂の大盾の後ろで隠れておれ!」


 ムネオは、冷静に塩太郎に指示を出す。


「りょ……了解!!」


 塩太郎は、大急ぎで、ムネオの大盾の後ろに隠れる。


「おい! ちょっと待て! お前、何する気だ!」


 筋肉ダルマ達が、場を支配する異様な空気に、慌て始める。


「アンタ達の脳ミソのシワに、『犬の肉球』の偉大さを刻んであげんのよ!」


 筋肉ダルマ達の周りに、魔法陣が何個も展開していく。


「ちょっ! 多重魔法だと!って、5個?6個?ちょちょちょちょ待て! 待て!

 てっ! えっ! まだ? ちょっ、12個!13個……24個、25個……どんだけ出るんだよ……」


 筋肉ダルマ達は、身を寄せ合うように固まって、ブルブル震えている。


「ムネオさん!あの魔法陣の数って、スゲーのか?」


 幕末出身で、魔法の事があまり分かってない塩太郎は質問する。


「ウム。上級精霊で、あれだけの魔法陣を展開出来るのは、世界広しと、シャンティー殿だけじゃな。

 聖級や神級の精霊なら、可能な個体も居るんじゃが、シャンティー殿のように、色んな属性の魔法を同時に50以上も展開できる精霊は皆無じゃ。

 普通、精霊は得意な魔法しか使わないと言われておるしの!」


 ムネオは、王族らしく丁寧に教えてくれる。


「シャンティーって、口が悪いだけの腹黒精霊じゃなかったんだな……」


「当たり前じゃ! じゃなければ、精霊でありながら、由緒ある『犬の肉球』の正規メンバーになどなれないし、エリス殿が使役する何百もの精霊の中で、シャンティー殿より格上である、神級、聖級精霊を差し置いて、常時、召喚され続けられる事など、ある訳ないのじゃ!」


 ムネオが、熱を込めて力説する。

 なんやかんや言って、シャンティーを尊敬しているようである。

 というか、子供の頃から洗脳されてるだけかもしれないけど。


 とか、話してるうちに、筋肉ダルマ達の周りの魔法陣が100個を越える。


「ムネオさん……魔法陣50個以上じゃなくて、100個を越えてるんだけど?」


「そのようじゃな……」


 どうやら、シャンティーの実力は、ムネオの想像を越えてたらしい。


「許して下さい! 許して下さい!」


 ここまで来ると、筋肉ダルマ達も、自分達との実力差を、完全に理解する。


「『犬の肉球』と『犬の尻尾』、どっちがバッタモンかしら?」


 ここにきて、シャンティーが、悪い顔をして、筋肉ダルマ達に質問する。


「勿論、『犬の尻尾』でございます!」


 筋肉ダルマ達は、涙目で答える。


「じゃあ、最高級ポーションを持ってる?」


「最高級ポーション?」


 筋肉ダルマは、聞き返す。


「人も生き返らす事が出来る、エリクサーの事よ!」


「ああ。姫ポーションの事ですね!

 1つだけ持ってやす!」


 筋肉ダルマは、慌てて、自分の魔法の鞄から姫ポーションを取り出す。


「アンタ。なんで、姫ポーションなんて持ってんのよ?

 今、アンタ、『犬の尻尾』は、バッタモンと言ってたわよね?

 それなのに、バッタモンの『犬の尻尾』のガブリエルが作ったエリクサーを使ってるって、私を舐めてんの?」


 シャンティーは、ドスの聞いた声で筋肉ダルマ達を威圧する。


「し……しかしながら、人を生き返らせる事も出来るエリクサーと言ったら、姫ポーションしか無いんじゃ……」


「アンタ達、本当に無知ね!

 知らないの?一流所の冒険者パーティーは、姫ポーションじゃなくて、私とエリスが作ってる、通称エリスポーションを使ってるって?

 実際に、ギルドランキング1位の『三日月旅団』と、2位の『鷹の爪』も、代々、エリスポーションを使ってるわ!」


「えっ! それは、本当ですか?」


 筋肉ダルマは、ビックリした顔をして聞き返す。


「本当よ」


 シャンティーは、自信満々に、無い胸を張る。

 そう、『三日月旅団』は、シャンティーの弟子。『鷹の爪』は、ガブリエルが生まれる前からの付き合いで、本当に、エリスポーションを使っていたりするのだ。


「しかし、南の大陸じゃ、どこにもエリスポーションは売ってないというか、見た事ないのですが……」


 筋肉ダルマは、ビクビクしながらも答える。

 だって、無いものを買う事なんか出来ないし。


「大丈夫よ! これから南の大陸にも、じゃんじゃんエリスポーションを卸すから」


「でしたら、これからはエリスポーションを使いやす!」


 筋肉ダルマは、100個以上展開されたままの魔法陣に恐れをなしてか、ヘコヘコしながらエリスポーションを使うと宣言する。


「そしたら、その姫ポーションを、今すぐ、ここに捨てなさい」


「えっ?」


「もう、姫ポーションは使わないんでしょ?」


 シャンティー、冷たい声で筋肉ダルマ達にプレッシャーをかける。


「しかし、高かったですし……」


「大丈夫よ! その1本を捨てれば、特別に試供品として、人数分の5本を無償であげるから!」


「ほ……本当ですか?」


「本当よ! これからたくさん買ってくれるのだから、初回サービスよ!」


 筋肉ダルマは、喜び勇み、姫ポーションの蓋を開け、その場で姫ポーションの中身を地面に流し捨てる。


 その様子を見て、シャンティーはニヤリとほくそ笑み、そして、展開を途中で止めていた魔法陣5つを起動させた。


 ちゅど~ん!


 爆音と共に、筋肉ダルマは、ギリギリ生きては居るが、真っ黒焦げの瀕死状態になる。


「あらあら。早速、試供品であげたエリスポーションを使わなくてはならないわね!」


 シャンティーは、そう言うと、真っ黒焦げになった筋肉ダルマ達5人組に、エリスポーション5本を振り掛ける。


「な……なんて事、するんすか!」


 エリスポーションにより、速攻で回復した筋肉ダルマ達が、シャンティーに抗議する。


「あら?エリスポーションを見た事無いって言ってたから、本当に効くか確かめさせてあげたんじゃない?」


 シャンティーは、涼しい顔で答える。


「だからって、半殺しにしますか?」


「ん? 何言ってんの?アンタ達は、既に、私を怒らしてんの!

 で、まだ魔法陣が100個以上展開させたままだけど、効き目抜群のエリスポーション買う?

 まあ、買わなければ、魔法攻撃を受けて死んじゃうんだけど?」


「買います! 買いますよ! 買わせて下さいませ!」


 筋肉ダルマ達は、ヤケッパチで、シャンティーにお願いする。


「じゃあ、1瓶、100万マーブルで!」


「な……姫ポーションの10倍の値段?!」


 筋肉ダルマ達は、驚愕する。


「当たり前じゃない。ここは魔物がウヨウヨ居る危ないダンジョンなのよ?

 そんなとっても危ないダンジョンで、貴重なエリスポーションを分けてあげるの!

 付加価値が付いて値段が高くなるなんて、当たり前の事よ!」


「だけれども、100万マーブルなんて……」


「私は、別に売らなくていいのだけど、本当にいいのかしら?」


 シャンティーの言葉と同時に、また、展開途中だった魔法陣が、ちょうど人数分の5つだけ光り輝く。


「買います! 買います! 買わせて下さいませ!」


 筋肉ダルマ達は、もう、ヤケッパチだ。


「それじゃあ、お買い上げありがとうございます!」


 ちゅど~ん。


 こんな感じの事が、シャンティーの展開した魔法陣が全て無くなるまで続き、筋肉ダルマ達の財産は、ケツの毛まで全て毟り盗られたのであった。


 そして、この事件により、南の大陸で全く忘れさられていた腹黒シャンティーの悪名が、再び知れ渡ったのは、また、別の話。


 ーーー


 面白かったら、☆☆☆☆☆押してね!


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