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51. トンデモない掘り出し物の男

 

「ご主人様! 凄いですよ!!」


 シロは、興奮気味に捲し立てる。


「ああ、ヤバいな……」


 セドリック達は、シロが前もって池田屋の中に設置していた偵察用の蜘蛛によって、池田屋の中の様子を、魔導式iPadで逐一見ていたのだ。


 因みに、シロは天才なので、武器も防具も魔道式iPadも、何で自作してしまう。


「あの、新撰組の池田屋事件に、佐藤 塩太郎が、ドップリ関わってたなんて!」


「ああ。それも主役級の大活躍だったよな!」


「しかも、史実を全く狂わせてませんよ!」


 シロが、涙目で打ち震えている。

 歴幼女のシロにとって、感動的な物語だったのだろう。


「ああ。史実でも、沖田総司は、口から血を吐き、池田屋を途中離脱してるし、永倉新八も、池田屋事件の激戦で、左手の肉を刀でえぐられる傷を負っている。

 そして、極めつけは、藤堂平助の額の傷な!

 しかも、傷を負わせたのは、全て、佐藤 塩太郎!」


「ハイ! 沖田総司は、肺結核で死んだ事になってますが、完全に、塩太郎の蹴りで内蔵殺られてますね!」


「これって、完全なる新説なんじゃないのか?」


「新説も糞も、これが事実なんですよ!

 だって、僕達、この目で見てたんですから!」


「だな……」


 佐藤 塩太郎。全くの無名だが、想像以上に物凄い男だったようだ。

 だって、この時代、最強の人斬り集団と言われてた新撰組の主力級を、全く造作もなく退けてしまったのだから。


 新撰組の記録の中にも、全く、塩太郎の事が記述されてないのは、たった一人の男に、新撰組の主力4人をねじ伏せられた事を隠したかったと思われる。


 しかも、沖田総司は、この時の傷が原因で、この後、亡くなってしまうし。


 まあ、新撰組による池田屋襲撃は、過激派志士の殲滅自体は大成功に終わってるので、それで良しとしたのたのだろう。


 今回の作戦には、新撰組の運営元の会津藩も関わってるし、体裁的に勝ち戦としたかったに違いない。


 実際、新撰組は、池田屋事件で名を上げて、一気に有名になったしね。


「ご主人様! 興奮して話してる場合じゃありませんよ!

 塩太郎を追いましょうよ!」


「ああ。多分、吉田稔麿をおぶってるって事は、長州藩邸に向かってる筈!

 史実では、吉田稔麿は長州藩邸のスグ近くで息を引き取ってたのが見つかったと、魔導iPadに書いてあったし!」


 セドリックとシロは、最近、滅茶苦茶魔導iPadで、この時代の京都の事を調べてるのだ。

 なので、この後の展開など、全て頭に入っている。


 因みに、シロは天才なので、セドリックが異世界転生する前の時代の日本のインターネットに、魔道式iPadを繋げるという荒業をやってのけたりもする。


「不味いですね! 長州藩邸周辺は、現在、会津藩が周りを囲んで警戒してる筈です!」


「どうしようも無いだろ! 長州藩邸に逃げ込まなければ、このまま吉田稔麿は死んでしまうんだぞ!」


 とか、話してると、案の定、塩太郎達は、会津藩の奴らと鉢合わせになり戦闘が始まった。


 相手は軍隊、対する塩太郎は、手負いの吉田稔麿を背負って、左手を塞がれてる状態。


「流石の塩太郎も、これはどうしようも有りませんね……」


「だけれども、善戦してるぞ! というか、この時代の侍って、火縄銃の弾を刀で弾く事って可能だったのか?」


「可能なんじゃないでしょうか……実際、塩太郎やってますし……」


「というか、塩太郎、どう考えても、闘気を扱ってるよな……」


「扱ってますね……薄ら、体と刀に、闘気を纏ってます」


 そう、セドリック達は地球に来て気付いたのだが、地球の大気には、殆ど魔力が含まれてない。

 しかも、どういう理由か、元々、体にあった魔力自体も、100分の1程度まで抑え込まれてしまうのだ。


 セドリックやシロとか、向こうの世界でも規格外の生命体なら、なんとか地球に来ても魔法を使う事ができるが、向こうの世界でA級冒険者ぐらいの魔法使いでは、こちらの世界では全く魔法など使えなくなってしまうのだ。


 まあ、なんとかこの世界で魔法が使えるのは、S級レベル。しかも、向こうの世界の初級魔法ぐらいしか使えなくなってしまう。


 それなのに、佐藤 塩太郎は、魔力が全くない地球で、あちらの世界でも高等技術の闘気を、自然に使いこなしているのだ。


「闘気って、魔力操作、滅茶苦茶難しかったよな……」


「向こうの世界の剣士や武道家の、一流かそうでないかの目安ですね!

 冒険者の場合は、闘気が使えればS級、使えなければA級って具合です!」


「だよな……」


 とか、セドリックとシロが興奮して喋ってると、


「成程。これは良い掘り出し物を見つけましたね!

 アノお侍さん、異世界に来たら、トンデモない化物になりますよ!」


 2ヶ月間、里帰りとか何とかで、イタリアに行っていたアマイモンが、ひょっこり現れた。


「お前、今頃、何、ノコノコ現れてるんだよ!」


「お父さん! 2ヶ月間、ほったらかしなんて、酷いです!」


 セドリックとシロは、強烈に抗議する。

 だって、セドリック達にとって、異世界旅行なんて初めての事だったのだ。

 帰り方も分からなので、少し不安になってたし。


「あの……僕も、色々、大変だったんですからね……。おもに、ルシファー様のご機嫌取りですけど。

 殆どの悪魔達が、南の大陸に召喚されてしまってますから、ルシファー様も寂しいんですよ!」


「そんなの知るかよ!」


 別の話だが、セドリックは、悪魔王ルシファーに、何度も殺された事があるのだ。

 なので、セドリックは、ルシファーの話をされると、妙にムカついてしょうがないのである。


「それにしても、アノお侍さん凄いですよ。

 こちらの世界で、自力で魔法の行使までしてる訳ですから。

 現在、こちらの世界で魔法が使えるのは、特別な訓練をした、特殊な家柄の者達だけですからね!」


「そんなに凄い事なのか?」


「セドリック君も体験してるでしょ。魔力を常時吸い取られてる感じ。

 地球は、現在、完全に、魔力が枯渇してる状態なんです。

 なので、地球自体が、地球を運営する為の魔力を、人間から無理矢理、強制的に採取してる感じ。

 向こうの世界にも、体の中の魔力を全部空っぽにして、魔力量を上げる訓練とかあったでしょ!

 それを、地球の人間は、強制的に四六時中やってる訳です。

 なので、地球の人間が、そのまま異世界に転移すると、滅茶苦茶強くなっちゃうんですよ!

 だって、今まで、ずっと体の魔力を枯渇させる訓練をしていた訳だから!」


 アマイモンが、誰かに説明してるような、妙に長めの演説をする。


「という事は、常時魔力を地球に吸い上げられてる筈なのに、それでも魔力というか、闘気が使えるって事は……」


「ええ。アノ お侍さんの魔力量は、とんでもない量という事になりますね!」


 アマイモンは、涼しい顔で、セドリックの質問に答えた。


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