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50. 新説 池田屋事件

 

 元治元年6月5日。


 この日、吉田稔麿が常宿にしてる池田屋で、新撰組に捕まった勤皇志士、古高俊太郎を救う算段をする為の会合が、開かれる事となっていた。


 塩太郎も、池田屋での会合に誘われてたのだが、難しい会合はパスし、馴染みの飲み屋で一人で飲んでいた。


 塩太郎の仕事は、暗殺と荒事だけ。

 これ以外の仕事は、長州藩の中でも、頭の良い連中。今は、派閥のボスの高杉が謹慎中なので、久坂や、吉田稔麿にやらせとけば良いという考えだった。


 まあ、近々、行われる予定の荒事

(祇園祭の前の風の強い日を狙って御所に火を放ち、その混乱に乗じて中川宮朝彦親王を幽閉、最後の将軍となる一橋慶喜と、会津藩主の松平容保らを暗殺し、孝明天皇を長州へ連れ去る計画)

 こっちの方で、頑張れば良いと思っていたのだ。


 そしてこの日も、いつものように、チビチビと安酒を飲んでいると、何やら店の外の方が騒がしくなってきた。


「おい! 聞いたか! 新撰組の討ち入りだってよ!」


 新しく店に入って来た商人風の奴が、何か言ってる。

 塩太郎は、まさか池田屋に新撰組が討ち入りしたとは思わずに、また、いつもの事かと飲み続けてると、


「池田屋ヤバいぞ。今回の新撰組の討ち入り、会津藩にも応援呼んだみたいで、徹底的に尊王派を殺る気みたいだぞ」


 塩太郎は、池田屋という言葉を聞いて、急いで机に飲み代を置く。


「親父! ご馳走さん!」


 塩太郎は、平静を装い店から出る。そして、外に出ると、全速力で池田屋へ走る。


「チッ! 俺の居ない時に限って!」


 塩太郎は、いつもこんな感じだ。

 塩太郎の直の親分である高杉晋作も、塩太郎が目を離した隙に、とんでも無いことをしてたりする。

 まあ、頭がぶっとんでる高杉晋作に首輪を付ける事なんて、地獄の閻魔大王にだって出来そうもないのだが。


 今は、高杉の話は置いといて、塩太郎は、必死に走る。

 松下村塾の仲間、吉田稔麿を死なせる訳にはいかないのだ。


 塩太郎行きつけの飲み屋から、池田屋まで徒歩15分ほど、それを塩太郎は必死に走り抜き、たったの5分で到着した。


 ハアハア。


 塩太郎は、息を整えながら、池田屋の様子を確認する。


 玄関前の見張りは、3人。

 3人とも、店の中にだけ集中して、外の様子など、全く気にもとめていない。


「行けるな」


 塩太郎は、全く躊躇する事無く、スルリと見張りの横を通り抜け、池田屋の中に入って行く。

 ぼんやり考えてるうちに、吉田稔麿が殺されてたら、元も子も無いのだ。


「エッ! おい! 待て!」


 見張りが気付いた時には、もう遅い。

 塩太郎は、剣激の音が聞こえてくる2階に一気に駆け登っている。


 塩太郎が2階に登ると、廊下には、見覚えのある奴が、もう既に死んでる勤皇志士を椅子にして、のんびり休憩していた。

 廊下は狭いので、どう考えても、そいつを倒さないと先には行けない。


「う~ん……アンタ、見た事あるな。 そうだ!前に、僕と殺りあった事あるっしょ!

 覚えてるよ! すっごく楽しかったもん!

 近藤さんに、逃げて来た奴を、ここで殺せと言われてたんだけど、やって来る奴も殺っていいかな?」


 童顔で、ブサメンのソイツは、少し悩んでいる。


「どけ!」


「エッ? 僕に命令するの? 僕に命令できるのは、近藤さんと、土方さん二人だけって知らないの?」


「知るかよ」


 塩太郎は、そのままソイツ。沖田総司に斬り掛かる。


 カキン!


 沖田総司は、塩太郎の渾身の剣激を、片膝をついて、刀で受け止める。


「やっぱり、アンタの剣激、重いな!

 両手で受け止めてなかったら、刀をぶっ飛ばされて、頭に刀が刺さってる所だよ!

 初見だったら、確実に殺られてたよね!」


「そうかい! こっちとりゃ、お前と殺り合うのは、二回目なんで、ちゃっちゃっと終わらせてやろうと思ってんだけどな!」


 塩太郎はそう言うと、狭い廊下だというのに、全く苦にする事なく、ビュンビュン有り得ないスピードで刀を振るう。


「エッ! ちょっと、何?! その動き!!」


「お前と違って、狭い廊下での暗殺になれてんだよ!

 というか、今回は、お仲間居ねーぞ!

 前に会った時は、1対20で、多勢に無勢だったから逃げに徹したが、今回は、一人づつでしか戦えない狭い廊下での戦いだから、お仲間は助けてくれねーぞ!」


 塩太郎は、相変わらず、狭い廊下だというのに、グングンスピードを上げる。

 沖田総司は、必死に受け流すが、全く塩太郎の動きについていけない。


「ちょ……ちょっと待ってよぉーー! て、痛っ! や……止めてーー!」


「誰が止めるか! ドアホ! お前は、止めろと言われても、笑いながら人を殺すタイプだろうが!」


「止めてーー! 謝るから!」


「うっせー! 死ね! 俺の仲間が、何人、お前に殺されたと思ってんだ!」


「ギャーー! 痛いよぉーー!」


「だから、ちょっと切れたくらいで、ギャーギャー!騒ぐなちゅーの!」


「頼むよぉーー! 殺さないでーー!」


「チッ! 気が削がれる」


 塩太郎は、殺してやろうと思ってたが、ブルブル震えてオシッコ漏らしてしまっている沖田総司の腹を思いっきり蹴り上げる。


 ゴホッ!


 塩太郎の蹴りが、思いのほか強烈だったのか、沖田総司は、口から大量の血を吐き出す。


「蹴りで勘弁してやろうと思ったんだけど、ちょっとイラッとしちまって、強く蹴りすぎちまったようだな……死んじまったらすまん……」


 塩太郎は、ゲボゲボ血を吐く、沖田総司の横を通り抜け、会合が行われてたであろう、部屋に突入する。


 そこには、新撰組局長 近藤勇と、永倉新八の二人。

 その奥に、負傷して転がる過激派志士数名。その中に吉田稔麿も、腕と太腿に傷を受けて転がっていた。


「稔麿さん!」


 塩太郎は、吉田稔麿の元に駆け寄る。


「塩太郎か……」


「まだ、息は有るみたいですね! すぐにここから、脱出しますよ!」


「ああ……」


 稔麿は、弱々しく返事をする。

 まだ、何とか生きているが、これ以上の出血は不味い。時間との勝負。少し、冷たくなって来てるし。


「おい。お前、どうやってここに来た?廊下には、総司が居た筈だが?」


 局長の近藤勇が、血がベッタリ付いた愛剣虎徹を、塩太郎に向けて質問する。


「あのサイコ野郎なら、血反吐を吐いて廊下に転がってるぜ!」


「あの総司を?お前がやったのか?」


「なら、どうする?」


「信じられんな」


 どうやら、近藤勇は、沖田総司の強さを信じて疑わない様子だ。

 まさか、本当に塩太郎に倒されたと思ってないようである。


「近藤さん。コイツの言う事は、多分、本当ですよ!

 俺も、コイツを一度見た事あるんで、間違い無いです!

 前に、報告した事があったでしょ!

 沖田と俺と、隊士20名相手に、一歩も引かずに、戦い抜き、そしてまんまと逃げ延びた人斬りの話。

 それ、コイツですよ!」


「まさか……コイツがか?」


 流石に、仲間の永倉新八の話を聞いて、近藤勇も、塩太郎が沖田総司を倒したと理解したようである。


 そして、近藤勇が、少し動揺したのを、塩太郎は見逃さない。


 急いで、吉田稔麿を担ぎ、近藤勇の横をすり抜ける。


「待て!」


 永倉新八が、道を塞ごうとしたが、塩太郎は素早く一閃、永倉新八に向けて刀を振るう。


 永倉新八は、何とか避けようとしたが、塩太郎の刀が、永倉新八の左手親指付近の肉をスライスする。


 カラ~ン!


 永倉新八は、痛みに耐えきれず、刀を地面に落とす。


 その隙に塩太郎は、もと来た廊下を駆け抜け、ついでに、血を吐いて倒れていた邪魔くさい沖田総司を蹴り飛ばす。


 そして、そのまま、階段下で立ち伏せしてた藤堂平助の頭を、階段から飛び降りた勢いのまま、刀でカチ割り、そして、そのままの勢いで、池田屋の外に飛び出したのだった。


 ーーー


 ここまで読んで下さりありがとうございます。

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