17. 大盾を担ぐ女
ダークエルフの女王ガブリエル・ゴトウ・ツゥペシュが治める『漆黒の森』は、南の大陸の中央に位置し、南の大陸の5分の1を支配する大国家である。
その『漆黒の森』の王都モフウフの地下王宮最下層、謁見の間を、シックなメイド服を着た、やけに胸がデカい母性本能溢れる女性の悪魔が、『漆黒の森』の女王ガブリエルが鎮座する玉座に向かって歩いていた。
その、ゴシック調の荘厳な雰囲気を漂わす謁見の魔の通路には、何百もの執事服とメイド服を着た悪魔達が、両脇に直立不動で控えている。
そして、その母性本能溢れる悪魔が、女王ガブリエルが座る玉座の前に有る階段の下で止まると、一礼してから、直立不動のまま、ゆったりした口調で喋り始める。
「姫様。冒険者ギルド本部から『犬の尻尾』への指名依頼が来ております」
女王ガブリエルに喋り始めた悪魔の名前は、その名もメイドさん。
『犬の尻尾』初代団長ゴトウ・サイトと、ガブリエルによって新たに作られた新種の悪魔、Gデーモン族。
そして現在は、その筆頭メイドで、唯一、ガブリエルに立ったままで喋る事を許された、ガブリエルのお世話係の悪魔でもある。
「他の者に任せる訳には、いかないの?」
メイドさんの話を聞き終わると、女王ガブリエルが話し始める。
「『犬の尻尾』への指名依頼ですので、『犬の尻尾』の正式メンバーが、行かなくてはいけません」
「ブリトニーは?」
「現在、アマイモン様と、召喚勇者探索の任務に当たってます!」
「アンさんは?」
「ハナ様の稽古を付ける為、ハロハロ城塞都市の道場に居ると思います」
「そう。で、指名依頼の内容は?」
「未発見ダンジョンで、スタンピードが発生し、溢れ出した魔物の中に、オークジャネラルや、ギガントスライムが混じってたらしく、その殲滅と、ダンジョン入口の封鎖の依頼でございます」
「SSSSS以上の未攻略ダンジョンが、新たに発見されたという訳ですね。
それなら、ハナの修行にもなると思うので、ハロハロでアンさんとハナをピックアップしてから依頼先に向かう事にします」
ガブリエルはそう言うと、玉座から立ち上がり、そして傍らに座ってた頭が3つある巨大な犬と共に、自分自身の影の中に溶けるように消えて行ったのだった。
ーーー
ところ変わって、南の大陸は、北東部の荒野。
塩太郎達に、巨大隕石が迫っている場面。
「ちょ! これ、どうするんだよ!」
もう、30メートルを越える隕石が、ミルミル塩太郎達の方に迫ってきており、その、燃える隕石のせいで、体が燃えるように暑い。
「アンタ! 私とエリスを守りなさい!
生き残れたら、アンタをまた、生き返させてあげるから!」
シャンティーが、焦りながら提案してくる。
「エッ!? 本当かよ! て言うと思ったか!
ていうか、こんな燃え盛るデッカイ隕石なんかにぶつかったら、絶対に血も骨も残らねーで蒸発すんよ!
ポーションでも、無から有は生み出せない事は分かってんだからな!」
塩太郎は、どなりながら言い返す。
「アンタ、世間知らずのアホだと思ってたけど、結構、頭いいのね?」
「うっせー! 腹黒!」
「腹黒 言うーな!!」
なんか、シャンティーは、腹黒という言葉に異様に反応した。
とか、シャンティーと言い争っていると、
「シャンティーちゃん! どうしよう! 死んじゃうよーー!」
エリスも、今頃になって、わちゃわちゃ騒ぎ出す。
「大丈夫よ! エリス。どうやら間に合ったみたいよ!」
上空を見ていたシャンティーが、急に落ち着きを取り戻す。
「お前、何、落ち着いてんだよ! 気でも違ったか!」
「だから、大丈夫だって!」
「何が、大丈夫だってんだ!」
溶けそうな程の熱気と、迫り来る巨大な隕石の恐怖。
どう考えても、全然、大丈夫じゃない。
というか、世界がスローモーションのように遅くなってるし……。
「あ……これ、死ぬ奴だ……」
塩太郎は、完全に観念する。
そして、ゆっくりと目を閉じ、迫る死を待つ事にする。
ドッカーーン!!
凄まじい爆発音で、耳がキーンとなる。
「ん?」
なんか、中々死なない。
全然暑くも無いし、意識も飛ばない。
死ぬのも今回で3度目なので、死んだ時の感覚は分かっている。
しかしながら、死んだ気が全くしないのだ。
「あの?大丈夫ですか?」
耳元で、優しそうな、見知らぬ女の声が聞こえてきた。
「天女様?」
「あの、僕は天女じゃないですけど……」
「へ?」
塩太郎が目を開けると、そこには、日本人のようにも見える、少し耳が尖った黒髪の15歳位の喪服を着た少女が、体を全て覆うくらいの大盾を、背中に担いで立っていた。
「喪服? もしかして、天女じゃなくて死神?」
「初対面なのに、失礼な! これは喪服じゃなくて、メイド服です!」
「メイド服?」
「日本人なのに、メイド服が嫌い?
おかしいな……サイト君は、メイド服大好物だったのに……」
なんかよく分からないが、黒髪メイド服が何やら考え込んでいる。
というか、黒髪メイド服の背中の後ろで、巨大な隕石が粉々になっている。
もしかして、この15歳位に見える華奢な少女が、背中に担いでる大盾で、俺達を守ってくれたのか?
とか、塩太郎が額に冷や汗を垂らしながら考えてると、
ドスン!!
「アンさん! 私じゃ、姫様を止めるのは無理です!
早く、エリスさん達を逃がして下さい!」
突然、空から、純白の白袴を着た、今度こそ、本物の日本人のように見える、15歳くらいの黒髪ポニーテールの女剣士が落ちたきた。




