110. 思い出し泣きする男
「クゥ~これでやっと、剣聖になれたぜ!
剣聖サトウ。格好良い二つ名だぜ!」
二つ名に、異常な程の憧れを持ってた塩太郎は小躍りする。
まあ、剣王の称号を持ってたのだけど、なにせ、剣王は、この世界に4人も居るのだ。
特別感など、何もない。
その点、剣聖は、この世界に2人だけ。
レア度が、半端なく上がる。
更に、ハラダ家、ハラ家以外で剣聖の称号を持ってる者は、佐藤 塩太郎ただ1人だけ。
インパクトが、全然違うのである。
しかも、現在、剣神の称号を持ってるのは、剣姫ハラダ ハナ。近頃の剣神の中では、実力が抜けていて、誰も、剣神の称号をハナから奪えないと思われているのだ。
まあ、ベルゼブブを倒した後に、必ず、塩太郎は、ハナから剣神の称号を奪う気なのだけど。
「塩太郎、何で、そんなに嬉しがってんのよ?」
シャンティーが、ずっとニヤニヤしてる塩太郎に、首を傾げて聞いてくる。
そう。塩太郎は、剣王、拳王の称号を取っても、それほど喜んでなかったのだ。
しかしながら、剣聖の称号には、表情をほころばせ喜んでるのである。
「お前、知らねーのかよ?
剣聖ていったら、日本では、上泉 信綱、塚原 卜伝のような、伝説的な剣豪だけが持つ称号だぜ!
それを、俺のような裏街道まっしぐらの下っ端な人斬りが、ゲットできたんだ! 嬉しく無い訳ないだろ!」
そう。日本で、剣の達人と言えば、剣聖の称号なのである。
その称号を得て、塩太郎の感情は爆発してしまったのだ。
「ふ~ん。日本では、剣神より良い称号なのね……」
「お前、アホか!神とか付く恐れ多い称号を、普通のただの人が名乗れる訳ないだろうが!
本当に、この世界の住人は、軽々しく神の名を使いやがってふざけてんのかよ!」
そう。幕末時代の日本では、人が神の名を名乗っていいのは京都の帝ぐらいのもの。
実際、天照大御神や、スサノウとか、日本武尊とか、祖先はみんな神様だしね。
まあ、塩太郎自身も、祖先が神様である京の帝を旗印に徳川幕府と戦っていた訳で、神の称号を名乗るのは、実はすこしだけ気が引けてたのである。
「剣聖サトウ。やっぱりしっくりくるな!」
「アンタ、本当に、どんだけ剣聖が気にいってんのよ!」
流石のシャンティーも呆れている。
「オイ! 早くムササビ自治国家に帰ろうぜ!早く、他の冒険者達に自慢したいからな!」
「エッ?何言ってんのよ?暫く、この周辺の未攻略ダンジョンを攻略していって、ギルドランキングを上げようと思ってたのに?」
「そんなのどうでもいいだろ! 俺はムササビ冒険者ギルド本部のエントランスで、肩で風を切って歩きてーんだよ!
俺こそが、剣聖サトウとよ!」
「何よ、それ?そんな事したい訳?」
シャンティーが理解出来ないと、呆れて塩太郎を見る。
「お前のように、二つ名持ちには分かんねーんだよ!
お前、なんやかんや言って、名前が売れてるじゃねーかよ!
俺なんか巷の奴に、腹黒シャンティーのお供だと思われてんだぜ?
ちょっと、情けなすぎんだろうがよ!」
「腹黒言うな!」
シャンティーは、凄いスピードで突っ込みを入れる。
「だけれども、もう、あんだけムササビ冒険者本部で暴れたんだから、もう、シャンティーに喧嘩売る奴なんていねーだろ?
俺も、そんな風になりたいんだよ!
俺が、前の世界で、どんだけ影が薄かったか知ってんのかよ!
ちょっと有名な二流の人斬りが、俺が誰にもバレずに暗殺した大物を、誰が暗殺したか分からない事を良い事に、勝手に自分達が斬ったと手柄を横取りしやがるんだぜ!
人斬りが、名前売れたらやりにくというのに、アイツら自分達が斬ったと嘯いて、しかも、調子に乗ってデケーつらしてたんだぞ!
俺が一人で飯食ってる横で、俺が斬った大物を、自分達が斬ったと嘘付いて!」
塩太郎は、少し思い出して涙を流す。
「アンタ、何、いきなり泣き出してんのよ!」
「だから、普通に二つ名持ってた奴には、分かんねーんだよ!」
「だからって、私の計画を潰すつもり?」
シャンティーは、剣呑な雰囲気を醸し出し、塩太郎に圧をかける。
「うるせー! 俺は、剣聖になったお披露目をしてーんだよ!」
しかし、塩太郎も一歩も引かない。
だって、二つ名持ちになるのが、長年の夢だったのだから。
「はぁ~仕方が無いわね。パーティーメンバーのモチベーションを上げるのも、パーティーを預かる軍師の仕事よね……」
シャンティーは、少し呆れながらも譲歩するような態度を見せる。
「おっ! 流石はシャンティーさん!話せば分かる女!」
塩太郎は、ここぞとばかりに持ち上げる。
「分かったわ! ムササビ自治国家に戻ってあげる!
その代わり、1ヶ月間、お小遣い5000マーブルよ!」
「それは、無いだろ!」
「だったら、ムササビには、絶対に戻らないけど?」
「すんませんでした!お小遣い1ヶ月間5000マーブルで、お願い致します!」
塩太郎は、ジャンピング土下座してシャンティーに頭を下げたのだった。
「仕方が無いわね。そんなに頼むなら、ムササビ自治国家に行ってあげるわよ!
勿論、1ヶ月間お小遣い5000マーブルでね!」
「アザース!」
分かっていた事なのだが、シャンティーにものを頼む場合、大体、お金で解決できるという事を、今回、塩太郎は深く学んだのであった。
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